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嬰児はこれへねむり

著作 早坂由紀夫

Chapter14
「樹と夢の迷い子」

夢。ただの夢。
そこで起こった事は現実には反映されない。
静かに森の中で佇むだけの夢。
森の中に一つそびえる大きな樹木。
それはいつしか声を発し始めるようになった。

この世界へ私があなたを召喚したのは理由がある

辺りの木々がざわつき始める。
空が中心になって回り始める世界。
そんな不思議な世界の中で樹木は言った。

大切な想いを探しています。失くした心を――――

悲痛な声。どこからか聞こえる声。
樹木が語りかける声はまるで森の声だった。
囁く様な響きで耳へと入ってくる。
その時、急に世界は暗く閉じこもった。
森が悲しい色でざわめき始める。
・・・あいつが現れたんだ。
暗く湿った声であいつは言う。

静かにこの世界から覚めなさい・・・これ以上干渉せずに

その言葉に抗う事は出来ない。
樹木はどこか儚げな女性にも見えた。
そしてあいつも同じような女性に見える。
どこからか新しく生まれくる生命の息吹。
足下に絡みついていく枝やツタ。
それが混乱させる様にまとわりついて離れない。
静かに世界は落ち着きを取り戻し、私はそこにはもういなかった。
ふと隣を見るとそこには一人の女の人が居る。
外見を脳が認識する前にぼやけて見えなくなっていった。
・・・記憶はそこから先へは続かない。

7月16日(水) PM16:13 曇り
1−3教室内

「葉月ちゃん、どうしたの?」
「えっ・・・?」
思わずびっくりしてしまった。
今日の夢の事を考えてたせいで凪さんの話を聞いてなかったのだ。
私はいつもの習慣で放課後、凪さん達のクラスで皆と話してたんだ。
他の人達の目も私を見てくるので申し訳なくなってしまう。
「すいません、聞いてませんでした」
「もぉ〜葉月ちゃんたら〜」
紅音ちゃんが笑顔でそう言う。
凪さんが紅音スマイルなんて言っているその笑顔。
確かにこの人の笑顔は全てを許してくれる様な気さえする。
そんな優しくて可愛らしい笑顔だった。
「あのね、この学園って学園祭があるって知ってた?」
「あ・・・そうですね、聞いた事あります」
凪さんの話というのはどうやら学園祭の事らしい。
私は自分の知っている事を彼女に教える。
「確か、毎年3日間に渡って開かれる行事だそうです。
 そして学年ごとに催しがあるとか・・・」
「へぇ〜・・・そうなんだ」
凪さんは微笑みながら肯いていた。
彼女の役に立てたみたいだ。
「凪ってホント学校行事とかに疎いよなぁ〜」
紫齊ちゃんがそう言って凪さんに笑いかける。
彼女は暑さのせいだろうか、
第三ボタンまでYシャツをはだけさせていた。
「し、紫齊、ちょっとその格好は・・・」
凪さんも気になっていたらしく注意を促している。
彼女自身は普通の人よりも身だしなみが整っていた。
多分だらけた感じになるのが嫌なんだろう。
「なんだよぉ、凪が厚着なんじゃない?
 むしろそんな格好だと暑いと思うけどな」
「う・・・それはまあ、ね」
「凪さんはキチンとしてるんですよ。ねっ」
凪さんに助け船を出したのは神無蔵さんだった。
彼女はどこか年下に見えてしまう様な子で、
凪さんに憧れているのが態度で解る。
神無蔵さんくらい積極的な性格だと少しうらやましくもあった。
「そういえば、今年の一年は劇をやるみたいですよ」
思い出した様に神無蔵さんがそう言う。
そんな話を聞いて真っ先に皆が思ったはずだ。
凪さんが主役だろうな・・・と。
「うわぁ〜劇だって! 凪ちゃん凪ちゃんっ!
 やろ〜よ、劇! 劇だよ、劇〜」
「あ〜もう・・・あんまり人前に出たくないんだけどな」
「駄目だよっ。凪ちゃんが主役で私はその隣の樹がいい〜」
「なんでそんな端役を希望してるの・・・。
 っていうかまだ何の劇かも解らないのに」
この5人で話していると本当に楽しい。
話の種なんていくらだって出てきそうな気がした。
でも凪さんが学校行事に疎いのはホントに不思議。
だって、この人は生徒会長じゃなかったっけ・・・?

7月16日(水) PM18:03 曇り
寮内・葉月の部屋

私は部屋へと戻ってくると靴を脱いだ。
そして先に帰ってた黒澤美玖(くろさわみく)ちゃんに挨拶する。
「ただいま、美玖ちゃん」
「おかえりなさい葉月。また凪の所に行ってたのね」
「え、あ・・・うん」
美玖ちゃんは凪さんの事をライバル視している。
彼女のお兄さんはこの学園の教師なのだ。
そして一年の学年主任で1−3の担任なんだけど、
凪さんの事を気に入っているらしい。
勿論、教師として気に入っているんだと思う。
でも彼女にはそれがとても気にくわないんだそうだ。
ただ、だからこそ美玖ちゃんも凪さんには一目置いているみたい。
「凪には負けなくてよ・・・あの泥棒猫、覚えてらっしゃい」
「・・・美玖ちゃん、凪さんは何も盗ってないと思うけど」
「葉月、甘いわ。今日、凪は兄様に流し目を・・・」

ぴんぽーん

「あら、誰かしら。私が出るわね」
チャイムの音で美玖ちゃんの暴走が休止した。
彼女はよくああやって暴走する。
どこか被害妄想という感じもするんだけど・・・。
「あ、あなたは・・・!」
「あのぉ〜、葉月ちゃんいるかな」
チャイムの主は凪さんだった。
折角静まってきた美玖ちゃんのエンジンがフル回転し始める。
「私を差し置いて葉月に用なんて、舐めてくれるわね・・・」
「え?」
「あなたには負けなくてよっ」
凪さんに指を差して宣戦布告する美玖ちゃん。
ああ、お願いだからそんなコトしないで欲しい・・・。
「ええと・・・私は別に負けてもいいよ」
「くっ、勝者の余裕を見せるなんて・・・やるわね」
もうよく解らない闘いを繰り広げている。
多分解っているのも、闘っているのも美玖ちゃんだけだろう。
凪さんも困った顔をしていた。
「あ、あの・・・凪さん、行きましょう」
「う・・・うん」
少したじろいでいるものの凪さんは美玖ちゃんに笑いかけた。
この人が笑うと辺りが華やいだ気がする。
美玖ちゃんも少しそれで大人しくなった様だった。

7月16日(水) PM18:18 曇り
寮内・エントランス一階

私と凪さんは部屋を出てエントランスへと歩いてきた。
そして近くにあるベンチに腰掛ける。
この時間は見回りの先生がたまにいるけれど、
時間的には問題ないので部屋に帰されたりはしない。
そう凪さんは言う。
私は凪さんの隣に座りながら少し緊張していた。
凪さんに呼ばれると私の記憶は毎回途切れてしまう。
彼女が何かしているわけではないと思うのだけれど、
いつも私は必要に迫られている気がした。
凪さんとこうして話す時は、
彼女と話さなければならない時だと・・・そう感じる。
「さっきの子、凄いね・・・」
「え? あ、美玖ちゃん・・・ですか?」
「美玖ちゃんって言うんだ」
「あ、はい。あの、神無蔵さんと同じクラスの
 黒澤美玖ちゃんっていう子なんです」
「真白ちゃんと同じクラス・・・1−5なんだ」
「はい」
そう言うと凪さんは少し黙って何処かを見ていた。
この人は何をしていても様になるなぁ・・・。
私と話しているのが不思議なくらい高貴な人に見える。
男女から好かれるのも当たり前の魅力を持った人だった。
それなのに話してみると全然普通で、
でもどこか人とは違う何かを持っていて・・・。
やっぱり不思議な人だと思った。
「そういえば黒澤って、うちの担任と同じ名字だね」
「あ、実は兄妹らしいんです」
「兄妹・・・そうなんだ」
凪さんは何も知らなかったみたいだ。
どうやら美玖ちゃんは何も言ってないんだな。
それにしては『打倒・凪』なんて言ってたけど・・・。
「あの先生は苦手だな〜私。あの眼鏡の光具合とか」
え・・・黒澤先生って結構女子に人気あるのに。
そんな凪さんの答えは少し意外だった。
と影が私達に覆い被さる。
「ん・・・? って、先生っ」
「こんにちわ、高天原君。眼鏡の光る黒澤です」
背後から顔を出したのは今話していた黒澤先生だった。
190cmはあろうかという長身に細身の身体。
そして甘いマスクとお洒落な眼鏡。
柔らかなその物腰は女子だけでなく男子にも好かれている。
大人を感じさせる男性、といった感じの人だった。
そんな先生を前にしてバツの悪そうな顔の凪さん。
「どうしたんですかこんな所で油なんか売って」
「手厳しいですね・・・もっと担任には恩を売っておく物ですよ。
 そう思いませんか? ねえ、星翔さん」
「え、そ・・・そうですね」
とりあえず相づちを打ってみる。
「むっ・・・でも確かに有利かも・・・」
その先生の笑顔はとても優しいものだった。
こんなお兄さんなら私も欲しい。
それに違うクラスの私の名前まで覚えてるなんて・・・。
「まあ君の成績なら教師がへつらっても良いんですけどね」
凪さんの成績はそんなに良かったんだ。
確かに才色兼備、という話は聞いていたけど。
よくよく欠点の無い人だ・・・。
「おだてても駄目です。それより妹さんに会いましたよ」
「ほう、そうですか・・・美玖に会いましたか」
先生はにっこりと笑うと凪さんの頭をぽんぽん、と叩く。
「な、何するんですか」
「あの子と仲良くしてやって下さい」
「う、まあ・・・そうですね」
照れてるのか良く解らない顔をする凪さん。
凪さんは先生の事が本当に苦手みたいだった。
ただ、本来の意味する所の苦手とはまた別みたいだけれど。

7月16日(水) PM18:25 曇り
寮内・エントランス一階

先生が居なくなった後すぐに葉月はイヴへと交代した。
凪もそれに気がついたらしく真剣な顔で葉月に聞く。
「・・・イヴ?」
「ああ。どうしたんだ? お前から来るとは・・・」
「実は最近、変な夢を見るの」
凪の話に表情を強張らせるイヴ。
辺りに人が居ないのを確認するとイヴは口を開く。
「変な夢・・・というのは、どんな夢だ」
「私は大きい樹の前に座っていて、
 何かの声を聞くんだけど・・・いつもそこで目が覚めるの」
夢。
夢診断というものがある様に、
夢というものは本来その人の根底にある願望。
あるいは深層心理からの映像が投影されると言われている。
必ずしも現実で見たものがそのまま現れるとは限らず、
似て非なるイメージで投影される事も少なくない。
だが凪がイヴに相談する場合、
そんな心理学の知識は無駄に近かった。
「見る夢は・・・それだけか?」
「後、他にもあるんだけど・・・ほら、
 夢って覚えてない時とかあるじゃない」
「・・・まあな」
こんな時すぐ凪がイヴを頼りにする様になったのは、
前からの事ではあった。
悪魔の事を相談できるのはイヴしかいないからだ。
だが変な夢を見たからといって
悪魔と関連づけるのは時期尚早ではある。
だから、どちらかと言えば凪はイヴと話すきっかけを探していた。
長い間姿を消していたイヴ。
彼女の事を少しでも聞きたかったのかもしれない。
その謎に包まれた素性を・・・。
「悪魔の仕業とするならば、可能性として一番高いのが夢魔だ」
「むま・・・?」
「夢の悪魔。その種族で有名なのはインキュバス。
 男から精液を採取し、女にその精液を注ぐ悪魔だ」
「せ、せい・・・? ど、どういう事なの?」
顔色一つ変えずにそういうイヴ。
それに対して男のくせにどもってしまう凪。
凪はイヴから目を逸らしてそう聞いた。
イヴの表情が一瞬曇ったのを見る事なく。
「つまり悪魔の子供を量産する為の種族なんだ。
 妊娠した女は数日でその腹がふくれ始める。
 人間の子供より遙かに小さい為に、最初は気付きにくい。
 だがすぐに解る。それから大して日を置かない間に、
 激痛を伴いながら生まれてくるのだ。
 そして・・・最初にその女性の命を奪う事で悪魔の資格を得る」
「・・・・・・」
凪は久しぶりに恐ろしさを感じていた。
その狡猾な手口もそうだが、なんという残酷な方法。
まるで蟷螂の夫婦みたいだがそれとは全く意味合いが違う。
邪悪の化身となるために自分の母親を殺すのだ。
だが一つだけ凪には疑問があった。
「どうやってその・・・インキュバスはそれをするの?」
「簡単さ。男ならば絶世の美女として性交すればいい。
 女なら逆だ。全て夢の世界だからな。
 それらの好きな相手、または恋人になる事も出来る」
「・・・そっか。でも、私の夢とは関係ないみたいだね」
凪はほっ、と胸をなで下ろした。
正直凪はまた悪魔だったらどうしようと、
少しナーバスになっていたのだ。
そんな凪にイヴは意地悪なのか質問をする。
「凪。夢の中にイケメンという奴が出てこなかったか?
 そいつはいい男だとTVでやっていたからな。
 気付かない間に妊娠させられているかもしれないぞ」
「・・・な、何言って・・・妊娠なんかするはず・・・!」
そこまで言いかけて凪は口をつぐんだ。
妊娠するはず無いなんて言う所だったのだ。
それは一般的な女性としては明らかにおかしい。
特に凪くらいの年齢ならなおさらだ。
もしそうだとしてもそんな事が解るはずがない。
自分が男だという場合以外は・・・。
「どうした? 凪」
「え、いやその・・・だいたい、
 イケメンっていうのは人の名前じゃないわよ」
「何? そうなのか?」
「・・・そうよ、それに死語よ」
「死語?」
「でもイヴって神の尖兵だって言ってた割には意外と俗物なのね」
「ぞ、ぞく・・・何をいう凪、私は勉強の一環としてだな・・・」
イヴはぶつぶつと呟き始める。
凪はまたか、と思いながら適当に聞き流していた。
そして少し感慨に耽っていた。
凪の目から見て少しずつイヴは変わっている。
以前よりもずっと取っつきやすい性格になったと思っていた。
しかしそんな中彼女の中で変化しないものもある。
それは絶大な神への信頼と忠誠だった。

7月16日(水) PM18:47 曇り
寮内・葉月の部屋

私は気がつくと自分の部屋の前にいた。
それも立ちっぱなしで。
・・・やっぱり私はどこかおかしいのだろうか。
でも身体に変調は見あたらない。
前に一度具合が悪くなった時以外は
そんなに身体の不調はなかった。
だからあまり気にしてはいないのだけれど・・・。
もしかしたら夢遊病の気でもあるのかもしれない。
私はそう考えながらもとりあえず部屋へと入っていった。
美玖ちゃんはやっぱり部屋にいる。
「ただいま」
「葉月。小一時間経つ所だったわね・・・。
 凪の奴をギタンギタンに叩きのめしてきたの?」
「ま、まさか。私、そんな事しないよ・・・」
「冗談よ。ちょっとエッジな冗談」
・・・美玖ちゃんの冗談は鋭すぎる。
私はため息をつきながら勉強机に向かった。
さてと、明日の予習をしなくちゃ。
「勉強するの?」
「うん。予習」
そうして私は寝る前までずっと勉強していた。
別に勉強が好きな訳じゃない。
他にやる事がなかったから・・・。
この学園に来たのとそんなに理由は変わらない。
そう、この学園へ来たのも他に行きたい所がなかったから。
両親に私はここの雰囲気が似合っていると言われて、
いつの間にかここを受験していた。
でも別に不満は特にない。
他に魅力的な所もなかったし・・・。
勉強する、という事に関してはどこでも一緒だと思う。
そんな事を美玖ちゃんに話した時には、
「葉月は嫌味」と言われてしまったけど。
でも、彼女は正面から言ってくれたからそれは優しく聞こえた。
今では両親に感謝したいと思う。
凪さんや美玖ちゃん、それに色々な友達が出来た。
・・・毎日がこんなに楽しい。
私はふいにノートパソコンを開いた。
USB機器を通じてネットにアクセスする。
そしてフリーのメールアドレスをチェックした。
「二件の新着メールがあります」
その表示をクリックして受信メールを確認する。
一件は40kで件名がRe:。
ウィルスメールだ・・・。
相手のアドレス名には頭に_が付加されていたので、
それを取り除くと返信する。
「あなたのパソコンはウィルスに感染していますよ」
そんな内容のメールを送っておいた。
もう一件は私が質問した事に答えてくれている人からの様だ。
件名は「Beriasより」だった。
早速中身を開封してみる。
「ashさん、お久しぶりです。あなたが見た夢の内容ですが、
 恐らくもう一人同じ夢を見ている人が居るはずです。
 その人とあなたのどちらかが最終的に夢魔の標的になります。
 あるいは、その人とあなたが結ばれる危険性もあります。
 近しい人でそんな人がいるかどうか探してみて下さい。では〜」
ashというのは私のハンドル・ネーム。
特に意味はない。
相手のハンドルはBerias。
恐らく悪魔のベリアルから来たハンドルだと思うけど、
とても丁寧な物腰の人だった。
彼女は夢と悪魔に関する考察のホームページを開いている。
彼女、というのはあくまでも推測なのだけど。
ただ真剣に悪魔について相談すればこんな真剣な答えが、
興味本位ならそれらしい答えが返ってきた。
それにしてもこのメールの内容は面白い。
私と同じ夢を見ている人がいるんだ。
・・・近くにそんな人がいるのかな。
実際に悪魔がいるとは思わないけど・・・。
でも同じ夢を見ている人なら探してみてもいいかもしれない。
同じ、あの樹の夢を見てる人を・・・。

7月16日(水) AM23:28 雨
不明

雨が降っていた。
降りしきるその雨に身を浸しながらその樹はただじっと耐える。
自分が解放されるその瞬間を。
あの時感じた思いがなんなのかを考えながら・・・。
その隣で女性が佇んでいた。
静かに・・・強くなる雨に気圧される事もなく。
「あなたを死なせるわけには・・・いかないの」
そう呟くとその樹を抱きしめる。
お互いが異なる気持ちを抱きながら、
唐突にその抱擁は終わりを告げる。
「誰だ?」
「・・・魔を、払う者」
女性の背後に現れたのはイヴだった。
黒い炎を発生させるものの女性はすんでで避ける。
お互いが一定の距離を保ちながら話し始めた。
「貴様は・・・我々の仇敵・・・」
「何をする気かは知らんが、これ以上何もさせる気はない」
「まだ、私は消え去るわけにはいかない・・・」
悲しそうな声でそう女性が呟くとイヴの動きが固まる。
その声には動きを制限する力があった。
イヴはそれを力任せにふりほどく。
「・・・待て!」
「貴様の敵は、私ではない。いずれ相まみえよう」
そう言い残すと女性は夜の闇へと消えていった。
後には黒いマントを濡らしながら佇むイヴだけが残される。
イヴはしばらくの間、その雲で隠れた夜空を見上げていた。

Chapter16に続く