Back

インフィニティ・インサイド

著作 早坂由紀夫

Chapter41
「動き出す二つの世界」


10月09日(木) 躍動の日 PM13:56
苦行のスフィア

真っ暗だった。
そして最初の感覚は酷い痛み。
自分の腹を生きながら裁かれていた。
痛みで呼吸もままならない。
・・・いきなりこんなので、持つのかな俺・・・。
誰かが俺の腸を取り出すと食べ始めた。
見ているこっちが吐き気を催してしまう。
かと思うと世界が反転する。
終わり・・・か?
すぐに俺はその考えが甘い事を気付かされた。
今度は自分の姿がよく見える。
身体を見てみると女みたいだった。
・・・まさか、な。
夜道、目の前から一人の男が近づいてくる。
振り向きざまに俺は男に組み伏せられて倒れ込んだ。
女性の恐怖が流れ込んでくる。
それはそのまま俺の恐怖になっていた。
男は馬乗りになるとナイフを顔に突きつけながら、
下半身を露わにする。
そして前戯も無しに女性にイチモツを突き入れた。
その痛みが俺にも襲ってくる。
こ、こんなに痛いのってありなんだろうか・・・。
気が遠くなってくる気がした。
直後、男はこっちに向かってナイフを振りかぶる。
全く意味が解らなかった。
今こいつは、俺っていうか・・・この人を犯してるんだろ?
なんで刺したりするんだよ。
だがそんな俺の考えも虚しく、
ナイフは幾度となく腹に突き立てられる。
その間も濡れてない膣内に異物が出し入れされていた。
気が狂いそうな痛みの中で、男はさらに胸を噛み千切る。
俺は絶叫していたがそれは声にならなかった。
痛いっ・・・苦しい、なんだよこれっ・・・!
こんなので本当にルシードとして覚醒できるのか?
嫌な予感が頭を掠めた。

  このままこの痛みだけの世界に取り残されたら――――。

さらに場面は変わって、溺死する。
呼吸もままならずに肺の辺りを掻きむしった。
心臓が物凄いスピードで脈を打つ。
焼死する。
皮膚がぱりぱりと焼けるのが解った。
全身火傷の痕にさらに油を塗られて火を付けられる。
涙なんて幾らだって出てきた。
それは絶対的な恐怖。
爆死する。
爆発の後でも何故か生きている。
だがすぐに髪がどんどん抜け落ちていった。
そして皮膚が溶け出していく。
それを止めようと手を押さえるが手も一緒に溶けていく。
酷い異臭と痛み。
轢死する。
両足両腕を電車が通り抜けていった。
痛みで息が出来なくて、ショックで呼吸困難に陥る。
それなのに何度も、何度も・・・やめてくれっ!!
俺の精神はもうとっくに限界を超えていた。
なんで意識があるのかさえ解らなくなってくる。
自分自身があやふやになってくる。
どうして俺はこんな苦しい思いしてるんだ?
わざわざ辛い事ばかり経験して、馬鹿じゃないのか?
楽にさせてくれ・・・死なせてくれ。
もう沢山だよ、沢山だ。
そう思った時に俺の頭を幾つかの事がよぎる。
物凄いスピードで色んな景色が横切っていった。
どこかの部屋。汚い机。物凄いヘヴィメタル。
酒を飲み交わしている。
隣には肩に掛からないくらいの髪の女の子がいる。
窓の向こうに海の見える部屋。
短い髪の女の子、気の強い女の子。
その子が俺に悩みをうち明けていた。
そしてしばらくして、
その部屋でまたあの女の子といる。
暗い校舎。
服を破かれそうになってる女の子。
俺はそれを守ろうとして走っていく。
どこかの部屋。西日が俺と女の子の頬を照らす。
笑って抱きついてくる女の子。
俺はうっとおしいっていう顔をしながらも、
そんな出来事が日常なんだと思っていた。
どこかの教室。
数人の女の子と一緒に笑って話してる。
その子はいつも変な事を言って、
周りを和ませたりしていた。
あまりにも膨大な景色の数。
忘れてしまった事。忘れられない事。
忘れたくはない出来事。
その中でどんな時も俺の隣にいる女の子。
いつも笑ってる顔しか見た事がない。
君は・・・誰?
記憶を手繰り寄せていく。
その間も俺には死とその体験が襲っていた。
何かを考えるのが苦痛になってくる。
それでも走馬燈の様に幾つもの出来事が駆け抜ける。
手を伸ばせばいつもそこにあったもの。
何度も助けようとした。
何度も助けられていた。
君の涙は見たくなかった。
その笑顔だけで全てが報われる気がした。
幾つも俺を通り過ぎていく死の中で、
君だけは失いたくないと思った。
強く、思っていた。
でも俺が泣かせてしまった。
助けられなかった。
そう・・・君は、誰?

   君は――――――紅音。

そう君は・・・如月、紅音。
君の為にここにいる。
俺は、紅音を元に戻す為にここにいるんだ。
・・・こんな所で楽になってどうするんだよ!
死の苦痛をはねのけようとする。
だがそれは痛みを倍にする行為の様にも思えた。
けれど諦めずに俺は痛みを掌握していく。
一言あいつに謝るまでは、死にたくない。
死にたくないっ・・・!

10月09日(木) 躍動の日 PM15:32
アルカデイア・エウロパ宮殿・大天使長室

妙な感触。
膝、まくら。合わせて膝枕。
目の前には茶髪の女の子。
少しずつ意識がはっきりしてきた。
さっきまでの痛みが身体の何処にも残っていない。
一体、俺は何をしてたんだっけ・・・?
この女性は・・・イヴ。
あっちで平然とした面して仕事してるのはミカエル。
「うっ、おれ・・・私」
慌てて言葉を直す。
頭をもたげるとそこは元いた大天使長室だった。
どうやら俺は覚醒できたみたいだな。
「苦行のスフィアの作動時間は終わった。
 よく頑張ったよ・・・凪」
イヴはそう言うと安心した様に微笑んでいた。
少しずつ意識を手繰り寄せていく。
そうだ、俺はルシードとして覚醒する為に、
苦行のスフィアとかいうので死の体験をしてたんだ。
だが俺はそこでふと不安が頭をよぎる。
こういう時って・・・確信があるんじゃないか?
自然と覚醒したのが解るっていう感じのが。
・・・まさかあれだけ辛い思いして、
何もありませんとか言うオチじゃないだろうな。
そうだとしたらミカエルの野郎をはっ倒す。
「ミカエル、覚醒は上手くいったのか?」
俺が言おうとした事を代わりに訪ねるイヴ。
ミカエルは興味なさそうに書類とにらめっこだ。
「さあな。凪、ちょっと力を解放してみろよ」
「ど、どうやって?」
「んな事は知らねぇ。てめえの身体だろうが」
うわぁ〜。
なんて投げやりな・・・。
俺はとにかく気合いを入れて叫んでみる。
だがオーラが出るとかいう事はなく、
ミカエルから五月蠅いと言われただけだった。
何かコツがあるんだろうか。
「・・・そうか、解ったぞ凪」
「え?」
イヴがはたと手を叩く。
「一度では足りないのだ、きっと。
 もう一度試して見ろ」
そう言って苦行のスフィアを渡そうとしてくるイヴ。
目がマジだが、かなり嫌な感じだった。
あの地獄をもう一度なんて味わいたくない。
あんな感覚は絶対嫌だった。
すると苦行のスフィアにピシッとひびが入る。
「・・・あれ?」
「あっ、馬鹿野郎! それが割れたら大変な事になるぞ!」
ミカエルが走ってきてスフィアをイヴから引ったくった。
そしてミカエルの仕事机から、
ボンドみたいなものを取り出す。
木工用と書いてある気もするが気のせいだと思う。
「ったくよ〜。ちゃんと力出せたじゃねぇか」
「え・・・力って、ルシードの?」
「一応スフィアってのはなぁ、
 ちょっとやそっとじゃ割れない様に出来てるんだよ。
 それにしてもスフィアにビビッて力出すなんて、凪。
 お前って見かけに似合う可愛らしさも持ってるんだな」
そう言って蔑む様に失笑するミカエル。
頼むから奴の口を塞いで欲しい・・・。
まあ、とりあえず俺の力が覚醒した事は解った。
だけど力をコントロール出来なきゃ、
リヴィーアサンと対等に渡り合う事は出来ないだろう。
「どうやったら自分の力を、
 自在に操れる様になるのかな」
「そうだな・・・具現するのと同じでイメージだろう。
 空を飛びたければ空を飛ぶイメージ。
 槍を使いたければ槍をイメージしてみろ。
 想像力がそのまま力になるはずだ」
想像力が力になる、か。
つまりは精神力の闘いって事だよな。
相手に勝てるイメージが出来れば必ず勝てる。
でも、リヴィーアサンと闘うイメージは難しいだろう。
なぜなら紅音の身体を傷つけない様に、
上手く闘わなきゃいけないんだ。
しかも勝てばいいというわけじゃない。
「所でよぉ、一つだけ凪に言っておきたい事があるんだが」
「・・・何よミカエル」
「お前って今、冬休みか?」
「あ・・・あぁ〜〜〜!!」
言われてみれば紅音が居なくなって以来、
学園の事なんてすっかり忘れてた。
よく考えてみたら休みはもう終わってる。
無断欠席してる事になってるんじゃないか?
しかも寮にも居ない。
これって・・・かなりやばくないか?
「イヴの方は、葉月はっ?」
「葉月は普通に通っているはずだ」
そ、そうか、ここにいるのはイヴだもんな。
急いで帰らなきゃ・・・!
「イヴ、私先に帰ってるね」
「おい・・・どうやって帰るか知って・・・」
俺はその言葉の次を聞く前に、
大天使長室の窓から飛び出していた。
なんとなく空を飛べる気がしている。
そして実際の所飛べていた。
眼下に広がる広大で不思議な大地。
点々と天使が暮らす住居が連なっている。
他にも色々な建物や眩くて見えない場所なんかがあった。
これがアルカデイアなんだ。
遥か先には蜃気楼の様にセフィロトの樹がそびえている。
飛んでみるとそれはなんて事はない。
スピードも慣れてきたらもっと速く飛べそうだった。
とりあえずセフィロトの樹から現象世界に戻れるんだよな。
でも・・・遠いな。
やっぱり歩きで数日かかっただけはある。
空を飛んでいっても1日でつかないかもしれない。
かといってスピードを上げるとバランスが崩れてしまう。
俺は仕方なく、のんびりと飛んでいく事にした。

10月09日(木) 躍動の日 PM15:47
アルカデイア・エウロパ宮殿・大天使長室

「・・・あれがルシードってワケか」
苦笑しながら書類の隣にあるコーヒーを飲むミカエル。
イヴは唖然と凪を見守っていた。
確かに空を飛ぶイメージで空を飛ぶ事は出来る。
だが空を飛んだ事のない人間が、
空を飛ぶ確かなイメージなど湧くはずがなかった。
それをやってのけてしまう天与の才。
或いはルシードとしての潜在的な記憶だろうか。
今更ながらイヴはルシードという存在に、
感嘆の吐息を漏らしてしまう。
「ふっ・・・この分なら手助けなど必要なさそうだ」
「まあ、あれが俺達側にある内はまだ良いさ。
 悪魔に肩入れなんかする様なら容赦なく消せ。
 これは命令じゃない、当然の事だぜイヴ」
「・・・さあ、その時に私如きが凪を消せるかな」
イヴとしてはその命令に従うつもりはない。
それに凪が悪魔に付いたりはしないと信じてもいた。
だがミカエルとしては自身の発言を、
タチの悪い冗談くらいにしか考えていない。
要は凪が悪魔側に付いたならイヴが責任を取れ。
そういう意味なのだ。
「イヴ、お前もさっさと帰った方が良いぜ。
 あの馬鹿が勝手に動いたら困るだろ」
「ああ。解っているさ」
すぐにイヴもその羽根を羽ばたかせて後を追う。
誰もいなくなった後でミカエルはコーヒーをすすっていた。
そして真剣な顔つきで呟きながら、
携帯電話の様な物を取り出す。
「温いな・・・このコーヒーもあいつらも、ホントにぬりぃ」
電波ではなく何か違う物を飛ばしている様だった。
それをキャッチさせるとミカエルは会話を始める。
「ようラグエルか? ルシードが覚醒を始めた。
 ああ、インフィニティの場所が解ったら・・・ああ。
 少数精鋭で良い、全面戦争するワケじゃないからな。
 あっちに偽典があるって話でな。それを取りに行くだけだ」
正確には電話と呼ぶのは正しくないが、
とにかくミカエルはその通話装置を切る。
その後でコーヒーを一口飲むと、
ミカエルは苦い顔をして煙草の様な物を取り出した。

10月09日(木) PM19:24
インフィニティ第二階層・万魔殿

不条理に荒廃した世界。
それとはアンバランスにそびえ立つ城。
天井に大きな穴が開いていて、
床や壁には青と赤の電子回路が走っている。
近未来的なデザインの廊下。
そこがインフィニティの中心とも言うべき場所だ。
その城の大広間でリヴィーアサンは、
精鋭の悪魔達を集めて語りかけていた。
「我々の目的は何? 天使の壊滅でしょ。
 今こそ、その悲願を達成する時よ」
「そ、そうじゃが・・・今盟主様はおらんのだぞ」
そう言うのは地獄の総裁と呼ばれる悪魔、フォラス。
老兵ながら強力な力を持つ悪魔だ。
それゆえにルシファー不在のままで戦争を始めるのは、
悪魔に勝ち目が薄いと思っている。
だがその場に集まった悪魔達はそうではなかった。
若い悪魔からすれば邪魔する者は蹴散らすのみなのだ。
分が悪いだとかまだ早いだとか、
そんな事を考える事もない。
「俺は賛成だぜ、リヴィーアサンについていく」
そう言いだしたのは土の霊の王と言われるリベサル。
悪魔の中でも特に自由を尊重する男だ。
「貴様・・・盟主様を裏切るつもりか?」
「マルコ、お前の騎士道精神は解る。
 だがそればかりじゃ天使は滅ぼせねぇぜ。
 奴らは汚い。俺達よりずっとな」
マルコシアス。
彼は誇りや騎士道精神を重んじる男だ。
そう言った意味でリベサルとは対照的と言える。
「確かに悪とは光明盛大なもの。
 奴らの正義は正しくはない」
「なら決まりだ。リヴィーアサンについてみようぜ。
 別に盟主様に牙向くワケじゃない」
「うむ。ベルゼーはどうするのだ?」
そうマルコが振ったのは、ベルゼーブブ。
ベルゼーと親しみを持って呼ばれてはいる。
彼はリヴィーアサンに次ぐ実力者だった。
だが今起きている事には特に興味なさそうに言う。
「・・・俺はどちらでも構わん。
 ウリエルをこの手で殺せればそれでいい」
「私は誰が誰を仕留めるだとかは興味ないわ。
 三日後、現象世界へと進軍を始める。いいわね?」
かつてルシファーに目前で止められた闘い。
それを目の前の悪魔達が賛同した事に、
リヴィーアサンは声もなく笑みを漏らした。

10月09日(木) PM19:24
インフィニティ第二階層・万魔殿屋上

そんな会議を終えると彼女は城の屋上へと向かう。
中心に穴の空いた屋根ではあるが趣は充分にあった。
地獄の風がリヴィーアサンに吹き付ける。
おぞましさと虚無感を感じさせる風。
それは彼女にとって懐かしい物だった。
帰ってきたという喜び。
果たさねばならない事。
それを全て吹き飛ばす位に、目の前の景色は美しい。
荒廃の進んだ第二階層。
凍結穿土(とうけつはくど)の地獄と呼ばれ、
コキュートスと俗に呼ばれる場所。
凍てつく様な空気がリヴィーアサンの頬を撫でる。
静かな一人の時。
その景色を前に彼女が何を考えるのかは誰も解らない。
そんな静寂の中へと三人の姿が現れた。
気配に気付いたリヴィーアサンは三人を見つめる。
「・・・あなた達」
「リヴィ様・・・可愛らしくなってしまわれましたね」
一人の女性がそう言ってリヴィーアサンに抱きつく。
金髪に絹のローブを纏った女性だ。
三人の中では一番年上に見える。
人間の年齢で言えば20代半ばくらいだった。
その後ろにはそれを羨ましそうに見ている二人がいる。
「クランベリー。それにクリア、カシス。
 待たせたわね、ようやく戻って来れたわ」
「待ってたんですよぉ〜・・・ってちょっとクランベリー!
 いつまでリヴィ様に抱きついてるのよっ」
そう言って幼い顔立ちをしたクリアが、
クランベリーをリヴィーアサンから引き離す。
クリアは人間なら6歳の子供くらいの年齢だ。
だが悪魔としては見た目はさほど関係ない。
リヴィーアサンに仕えるだけの力を持っていた。
「まって・・・男の匂いがする」
「え・・・えぇ〜〜〜!?」
カシスがそんな事を言ったので、
残り二人も驚いてしまう。
彼女は紅音と同年代くらいに見える女性だった。
ちなみに大人しい顔からは想像できない毒舌が、
そのカシスの大きな特徴である。
勿論、リヴィーアサンには毒を吐いたりはしない。
三人はそれぞれリヴィーアサンに拾われ育てられた。
だから関係としては親子に近い。
だが彼女たちはどちらかというと、
リヴィーアサンの親衛隊だった。
その為に男の気配に敏感なのだ。
「ルシードの力を頂く為にしたの。
 でも彼、女の子っぽくて可愛いのよ」
「駄目ですよぉ〜〜っ!
 クリアのリヴィ様を独り占めする男なんてぇっ!」
クリアという女の子は自分の事を名前で呼ぶ。
それもどこか懐かしく思えて、
リヴィーアサンは笑みが零れていた。
「お前達に頼みたい事がある。
 第一階層の入り口からルシードが来るかもしれない。
 そうしたら生け捕りにして連れてきてほしいの」
「えぇ〜? 生け捕りですかぁ?」
大人しくなったと思ったクリアが不満を漏らす。
だがその口を塞ぐとカシスが言った。
「わかりました・・・リヴィ様の仰せのままに」
「気に入ったら襲っちゃっても良いわよ。
 快楽の虜にしちゃえば手っ取り早いからね」
そう言って笑うリヴィーアサン。
しかしすぐに真剣な顔に戻って言った。
「そういえばルージュが
 現象世界で頑張ってたけど、どういう事?」
「それがぁ〜・・・リヴィ様が封じられた後すぐですよ?
 私達、止めたのに行っちゃったんですよぉ〜」
「そう・・・天使は堕ちた天使を元の様に扱ったりしないって、
 私達ならルージュを受け止められるって言ったのに」
カシスはそう言って寂しそうな顔をする。
そんな姿を見てクランベリーは肩をぽんぽんと叩いた。
「ルージュもルシードも必ず連れてきます。
 リヴィ様はゆっくりと待っていてくださいね」
「いや、私は現象世界へルシードを探しに行く。
 あの子は出来れば私が捕まえたいから。
 本来ならあなた達には任せたくないのよ」
「どっどうしてですか!?」
使えないからだと思ったのかクリアが心外な顔をする。
でもその顔ごとクリアをリヴィーアサンは抱きしめた。
「ルシードは強い。あなた達でも危険なのよ。
 だからなるべく私があの子を連れ戻すわ」
「はい。じゃあリヴィ様が見つけられなかった時は、
 私達が・・・連れてきますね」
クランベリーはそんな風に言って笑う。
「ええ、じゃあ行ってらっしゃい」
その言葉に三人は肯き、第一階層へと去っていく。
再び一人になった後でリヴィーアサンはため息をついた。
「・・・あの子達に会うと、帰ってきたって気がするわね。
 ホントはルージュもいてほしかったけど、
 まあ、私が復活する為の因果の種だったし・・・仕方ない」

10月09日(木) PM19:38
インフィニティ第二階層・階層移動エレベーター

ブーンと静かに鳴り続ける魔法陣の音。
クランベリーとクリアの二人は怒りを露わにしていた。
特にクリアは壁を叩きつけるほど怒っている。
「るし〜どぉ〜〜!? リヴィ様を汚したクセに、
 なんでリヴィ様に必要とされてるのよっ!」
そんな彼女を止める事もなく、
クランベリーは拳を握りしめていた。
三人の中では年上だが、その怒りを隠そうとはしない。
そしてクランベリーはカシスに叫ぶ様に言った。
「カシス! なんでルシードを
 生け捕りにするなんて言ったのよ!」
「・・・生け捕りにする様頑張るの。リヴィ様の命令だもの」
あくまで一人、カシスは冷静にそう告げる。
だがその後で薄く笑った。
「ただ、私達は完璧じゃないの。
 ルシードを間違えて殺しちゃったらリヴィ様に謝らなきゃ」
そんなカシスの言葉で残りの二人も気付く。
カシスは元より間違えた事にして
ルシードを殺すつもりなのだ。
その意図に気付いた二人はようやく怒りを収める。
「いいわ。そういう事ならやってやるわよ。
 そうね・・・それにリヴィ様の言う通り美形だったら、
 殺さないにしても堕とすのもいいわね」
「にゃは〜、三人で責めたらあっという間かもね〜」
ころころとした笑顔でクリアはそう言った。
カシスもにんまりと笑っている。
「男如きがリヴィ様とえっちしたんだから、
 それ相応の報いは受けて貰わないと駄目なの。
 覚悟してなさい・・・ルシード・・・」

Chapter42へ続く