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灰孵りのナイトメア

著作 早坂由紀夫

Chapter6
「スリープ」

5月13日(火) AM7:54 雨
寮内自室

雨音で目を覚ます。
そういえば、梅雨が来てもおかしくない季節になったんだな。
でも、それは6月に入ってからにしてほしい所だ。
「紅音っ! 目を覚ましてっ」
「ひゃぁっ!」

ドタン、バタ、ゴトン!

「い・・・痛いよぉ〜」
「おはよう。そろそろ支度しよ」
「う、うん・・・」
着替えを済ませ、支度を終わらせた頃、
紅音がぼそっと話しかけてきた。
「ねぇ凪ちゃん・・・私達って、ずっと親友だよね」
「・・・」
そういえば最近あんまり構ってあげてないな。
・・・もしかすると落ち込んでいるんだろうか?
昨日もいつもなら紅音と話している時間を割いて、
愛依那に会いにいってたからな・・・。
「紅音、何も心配しなくて良いよ。
 私は紅音の事・・・すっごく好きだから」
「うんっ! ありがと〜」
紅音が抱きついてくる。俺も抱きとめてみた。
親友・・・か。
俺は、何がっかりしてるんだろう?
紅音は親友だ・・・それで、いいはずだ。

5月13日(火) PM1:14 雨
1−3教室内

今日は雨が降っているので、教室で食事を取る事にした。
相変わらず5人そろっているのが、
嬉しくもあり忌々しくもある。
「凪、大丈夫?」
紫齊が珍しく、かいがいしい声を出す。
そんなに俺は変な顔をしていたんだろうか?
「何でもないよ、どうして?」
「なんか、疲れた顔してるから」
「憑かれた顔・・・?」
「違う違うッ!」
葉月がさり気なくとんでもないボケをかましてくれる。
この場でケシズミにされちゃかなわねぇ。
と、その葉月の後ろに愛依那の顔が見えた。
あっちも気付いたらしく、俺の方を向く。
「凪。会いに来てやったよ」
「愛依那」
愛依那がゆっくりと教室に入ってくる。
「凪・・・その人、誰?」
「ああ、この人は愛依那って言って、
 ちょっとした知り合いなの」
「うん、そんな所だな。君は紫齊ちゃんでしょ?」
「あれ? なんで知ってるの?」
紅音の疑問ももっともだ。
「紫齊ちゃんと凪。この二人は知名度高いからね」
・・・そ、そうだったのか。
「あ、私は・・・星翔葉月と、言います」
「こんにちは、私は神無蔵真白です」
これで一通りの自己紹介は終わったみたいだ。
「それはそうと、芽依を見なかったかい?」
「芽依ちゃん? 見てないけど・・・」
「おかしいな。さっきまで一緒にいたのに」
仕方ない、昼食をご一緒して良い?
そう言って、愛依那は俺達と共に食事を済ませた。

5月13日(火) PM3:04 雨
1−3教室内

授業中は本当に教室は静かだ。
テストでもないのにこんな静かなのは恐ろしい。
多分授業中に騒いだ事のある奴なんかいないんだろう。
ふと、外を見る。
すると愛依那が東へと歩いていくのが見えた。
「あい・・・な?」
「どうしたの? 凪ちゃん」
「・・・ちょっと、授業抜けるね」
「えっ? ちょっ・・・凪ちゃん」
気分が悪いと言う事にして、俺はなんとか教室を出た。
外は雨なので出ればすぐにバレる。
俺は保健の教師に早退の許可を貰い、寮へ帰る事が許された。
しかし今は学校の外に出ても仕方ない。
何かに急かされる様に、俺は東へと向かった。
学校の東・・・そこに何があるか俺は知らない。
なぜなら立ち入り禁止の区域に指定されているからだ。
特に興味もなかったので今まで行こうとは思わなかった。
東へと歩を進めていくと、
西側とは打って変わって嫌な雰囲気が漂う場所についた。
そこは一帯が暗い廃墟になっており、
恐らく改築前の旧校舎の名残だと思われる。
まるで悪魔が住処にしてそうな不気味さが漂っていて、
用が無ければ絶対に入りたくないと思った。
だけど、愛依那はこんな所に一体何をしに来たんだ?
「・・・何してるの? こんな所で」
背後から声がする。愛依那だった。
「授業中に、愛依那がこっちに来るのが見えたから」
「そう。あたしは、芽依を探しに来たの」
「芽依ちゃん? でも、何でこんな所だと思ったの?」
「理由はないけど、ここ以外は殆ど探したから」
「えっ!?」
ちょっと待った。
もしかすると昼休みからずっと見つかってないのか?
それって、下手したら誘拐という奴じゃないか・・・。
そんな時に廃墟の方で声が聞こえるのに気付いた。
「・・・!? 愛依那、この声」
「芽依だ・・・!」
俺達は無言で肯きあい、廃墟の中へと走っていく。

5月13日(火) PM3:14 雨
学校野外・旧校舎

昔の学校の教室の、教卓の上に芽依ちゃんはいた。
しかし顔は恐怖と快楽に歪み、足は大きく広げたまま縛られ、
口にはハンカチを、陰部にはローターが入れてある。
Yシャツはビリビリに破かれてブラは真ん中から裂かれ、
申し訳程度に胸や素肌を隠していた。
スカートは二つに引き裂かれ、その役目を全く果たしていない。
どうやら手も後ろ手に縛られている様だ。
その上かなり長時間に渡って放置されていたのだろう、
芽依ちゃんの顔からは相当な疲労が見て取れた。
そしてその周りには数人の男が立っている。
どうやらこの廃墟を溜まり場にしている生徒らしい。
「はんっ・・・ん〜〜!」
「なあ、でもなんで今日に限ってこいつがいるんだ?」
「確かこいつ、1−4の呉山だよな」
「さっきから何回イッてんだよ。こいつ」
確かに芽依ちゃんの座っている教卓は、 愛液でベタベタに濡れていた。
「言えてる。感度良すぎなんじゃね〜の?」
「へへっ、でもよぉ・・・いつまでも見てるだけじゃ
 呉山も可哀相だよな〜」
「ん〜〜あぅっ、んっんっ、ん〜〜〜〜〜!」
「ほら、またイッちゃったよ。
 仕方ない、俺らと慰め合おうか」
「ハンカチは取ってやろうぜ。どうせ誰もこねぇし」
芽依ちゃんの口からハンカチが出された。
そのハンカチは、唾液を含みベトベトになっている。
「うわぁ〜このハンカチ、こんなにエロくなっちゃって」
「うう・・・お願い、助けて」
芽依ちゃんが、無謀にもその男達に助けを求める。
さっきまでのあいつらの会話を聞いていなかったのか・・・?
「助けてやるって。もうココが疼いて堪らね〜んだろ?」
そういいながら一人の長髪の男が、
芽依を虐めていたローターを出して適当に放り投げた。
その男は、そのまま芽依の陰部を中指で掻き回す。
「あっ・・・あっあっ、だめ、だめぇ・・・」
「何がダメなんだよ? こんなに濡れてるじゃん」
芽依ちゃんの陰部からは止めどなく愛液が流れ出している。
ぐちゅぐちゅといやらしい音がこの場所に響き渡った。
「もう突っ込んでも平気だろ? なあ!」
「勿論、じゃ俺からやるぜ」
もうすでに彼女の心には深い傷がついているかもしれないが、
このままだと芽依ちゃんの体さえもが傷物にされてしまう。
「芽依・・・!」
隣で愛依那はあまりに悲痛な声を上げる。
芽依ちゃんがこのまま汚されていくのを、
これ以上見たくない、と言う様に目をふさいだ。
「愛依那、私に任せて」
「・・・え?」
あまりこういうコトはしたくないが、
まあ、ああいう男どもにだったら構わないだろう。
愛依那を教室の逆の入り口へと向かわせると、
俺は後ろの入り口からそいつらへと歩いていった。
「ねぇ、そんな女で満足できるの?」
「え・・・?」
全員がこっちを振り向いた。
「オイ・・・こいつって、あの高天原凪じゃねぇ?」
「・・・ああ」
「何かご用ですかぁ? 高天原凪ちゃ〜〜ん」
ふん、お前等全員、もう全殺し決定だからな。
覚えておけよ・・・。
「そんな女放っといて、私にしない?」
ここでのポイントは、少し肩をはだけて見せる事だ。
「ごくっ・・・」
くくくっ。
今、生唾を飲んだ奴は、
男に欲情してるんだって気付いてないから面白い。
「俺、高天原の方がいい」
「・・・あ、俺も」
そして、お目当ての長髪が言う。
「ちょっと待てよ。俺に任せろ」
「いいよ。みんなで来ても」
さて、第二のポイントは流し目。
男達は、これで俺の方に注意が向く。
その間に、芽依の所に愛依那が行った。
さて・・・愛依那は上手くやったみたいだし、
俺はこいつ等をぶっ殺すか。
「さて・・・皆さん。覚悟は良い?」
長髪の男が逆にこう返す。
「そっちこそ、覚悟は出来てるの?
 もうお家に帰さねぇよ〜?」
「そ、れ、は、こっちの台詞」
長髪に金的を決める。
つま先に確かな手応え・・・足応えが残った。
「ぐぇっ!」
「あっツヨちゃん!」
長髪のツヨちゃんは轢かれた蛙の様にぐったりしている。
「てめぇ、よくも!」
そいつは自分が男なので、掴んでしまえばと勘違いしている。
残念だが俺は男だ。
取っ組み合いで相手のボディと顔を殴打する。
あっという間に二人目落下。
「このやらぁああ!」
まだこいつも俺が女だと思って油断してる。
そして攻撃せずに胸を触ってきた。
普通の女なら怯むな。
残念ながら俺に通用するはずがない。

ゴキィ!

腕の骨を外してやった。
後はもう俺の最強技で片をつける。
金的蹴り乱れ打ち。
男に対して最高の威力を発揮する。
「良し・・・これで、あらかた片づいたか」
俺は辺りを確認し、愛依那達を待たせている出口まで行く。
「ぁ・・・凪、大丈夫だった?」
「勿論。二度と立てない様にボコボコにしてきた」
「へぇ、凪って強いんだね」
「私に勝てる奴なんかいないわよ」
俺は愛依那が担いでいる芽依ちゃんを励ます様に、
わざと声を明るくしてそう言った。
芽依ちゃんは、愛依那の上着を着ているが、
それだけじゃちょっと色っぽすぎる。
「そうだ。私の鞄の中にジャージがあった」
「え・・・」
涙で腫らした顔に驚きの表情が混じる。
「でも、私・・・」
「気にしなくて良いよ。ほら、これ」
「はい・・・」
なんて涙もろい娘だろう。
まああんな姿を大勢に見られて、
あまつさえ犯されそうだったんだから当然かもしれない。

5月13日(火) PM5:44 雨
寮内東側・愛依那と芽依の部屋

「許せないよ、あたしは絶対」
芽依ちゃんを風呂に入れた後に、
愛依那は今にも怒り狂いそうな顔でそう言った。
「うん・・・でも多分、あいつらが
 芽依ちゃんをさらったんじゃないと思うよ」
「それは、確かに言えてるけど」
そう。不良が性犯罪を犯すため以外に、
なんであんな格好で芽依ちゃんを拉致する必要があるのか。
「でも誰が一体、なんの目的で・・・?」
「愛依那、あんまり追求したらダメだよ」
「分かってるよ。今、一番辛いのは・・・」

・・・そういえば。

「芽依ちゃん、妙に風呂入るの長くない?」
「そう言われてみると・・・」
もう1時間以上入っている。
嫌な予感が俺の胸を焦らせる。
俺はバスタブのドア口に立って芽依ちゃんに話しかけた。
「芽依ちゃん?」
「・・・・・・」
「芽依ちゃんっ!」
「・・・・・・」
異変に気付いて、愛依那もこちらへと走ってくる。
「返事がないの」
「・・・芽依ッ! 開けるよ」
湯煙が立ちこめる・・・そして、
俺の想像と殆ど変わらない姿が露わになる。
「芽依・・・」
芽依ちゃんは、今まさにカミソリで手首を切ろうとしていた。
彼女の手はカミソリを持ったまま、小刻みにふるえている。
「・・・凪さん、愛依那」
目には精気はなく、ただ虚ろに見える光景を写すだけだ。
「私、死のうと思ったんだけど・・・勇気、足りなかった」
そう言って芽依ちゃんは、力無く笑う。
「・・・芽依ッ!!」
愛依那は芽依ちゃんにすがりつく様に手を伸ばし、
そして彼女をきつく抱き締める。
カミソリは、持ってくれる手を失ってタイルの上に転がっていた。
シャワーの水音にかき消される様な、
本当にか細い声で芽依ちゃんは嗚咽を漏らす。
俺はそれを、ただやるせなさに打ち震えながら見ていた。

5月13日(火) PM6:30 曇り
寮内東側・愛依那と芽依の部屋

普通ならこの時間は紅音と一緒にいるんだが、
俺は紅音に事情を掻い摘んで説明して二人についていた。
「もう大丈夫・・・落ち着いたから」
「芽依・・・」
あれから少しして、もうすっかり辺りは冷え込んでいる。
そして雨もいつの間にか止んだものの、
依然どんよりした灰色の空が広がっていた。
「あの、助けてくれて、ありがとう・・・」
少しまだ控えめに、芽依ちゃんは俺と愛依那にそう言った。
「芽依、所で芽依をさらった奴の顔って、覚えてる?」
「・・・私」
「芽依ちゃん・・・」
「ごめんなさい。昼休みにトイレに行った時から、
 もう記憶が無くて・・・気付いたらあそこに居たの」
「そうか、サンキュ」
「ううん・・・」
芽依ちゃんはまだ立ち直るには時間がかかりそうだ。
でも誰だってそうだと思う。
「これじゃ犯人なんて分からないか」
「・・・でも昼休みにトイレか。犯人は女の可能性が高いね」
「え・・・そう?」
「芽依ちゃんがトイレに入った時、人は結構いた?」
「え・・・まあ、少しは居ました。
 お化粧とかしてる人もいたし・・・」
「その中を男が入っていけば、すぐに追い出されるでしょ」
「そう言えばそうだね・・・」
愛依那は、少し考えながら俺を見てそう言った。
「でも、芽依は女から恨みを買う様な奴じゃないよ」
「じゃあ一体何の為に・・・?」
そこが、最大の謎だ。
芽依ちゃんをさらった奴は、怨恨でもなく金銭目的でもなく
レイプする為でもなく、何の目的で芽依をさらったんだ?
まさか・・・また、悪魔が関係しているのか?
いや、考えすぎだろう。
俺はある程度芽依ちゃんが落ち着くのを見計らって、
自分の部屋へと戻る事にした。

5月13日(火) PM8:30 曇り
寮内自室

「紅音、ただいま」
「おかえりなさ〜い」
「おかえり」
なぜか紫齊が紅音とポーカーをやっていた。
なんとも不思議な光景だ。
「凪ちゃ〜ん、にゃ〜〜!」
「え? ちょっ・・・紫齊、まさかお酒飲ませた?」
「・・・冷蔵庫に入ってたサワーをジュースと間違えて」
なんてベタな間違いを・・・。
とりあえず、気分はリフレッシュ出来てしまった。
そうして紅音の暴走はひたすら続く。
「にゃぎぃ〜〜〜」
「もう紅音のキャラクターの原型がないね」
「凪、呼ばれてるよ」
「ちょっ・・・紫齊っ。私に押しつける気ね」
くそ、酔った紅音に勝てる奴なんかいね〜よ。
「紅音、もう寝なよっ」
「凪ちゃん、そんなに私を邪魔者扱いするのねっ」
何のキャラやねん・・・。
しかもハンカチ噛んでるし。
その姿を見て、なんとなく今日の芽依ちゃんが
思い起こされてしまった。
だからそれがとても嫌な物に見えてしまう。
もしも悪魔にまた紅音が狙われたとしたら・・・俺は、
その時に紅音を守ってやれるのか?
紅音は笑って俺を見る。
畜生。なんだか妙にブルー入ってきた。
そうやってる間に紫齊はそっとドアから出ようとする。
「キミ、キミ、それはちょっと酷すぎるよ」
「わ、私あの紅音は苦手なんだよ〜」
「し〜さ〜い〜ちゃ〜ん」
「わぁっ!」
紫齊の肩に捕まって離れなくなってしまった。
前の日本酒の時より酔ってないか?
「まだ帰さないよ〜」
ダメだ。俺は寝よう・・・。

5月14日(水) AM8:00 曇り
寮内自室

今日はなんだかツいている気がする。
なんと、8時ピッタリに目が覚めてしまった。
時間を考えると、全く良くない時間帯だが。
そして相変わらず紅音は、まだ爆睡している。
ベッドの二階に上がり、優しく起こそうとした。
「紅音〜。もう朝だよ」
「ぅん・・・大好き〜」
何が大好きなんだ・・・?
耳元で囁いてみるか。
「紅音、朝だよ」
「〜〜〜」
紅音の手が俺の肩に伸びて、ぐいっと引き寄せられた。
「うわっ!」
「ん・・・」
あれ? 唇に何か・・・って言うか、この位置関係だと・・・。
紅音の唇が、俺の唇に当たってるんだ・・・。
「んんっ! ん〜〜!?」
離れね〜。何という怪力・・・違う! 俺の位置が悪いんだ。
しかしその前に、紅音が目を覚ます。
「・・・ん?」
いきなり紅音の手が離れる。

ドタン、バキ、ガターン!

「あ、いったぁ・・・」
「ご・・・ごめん、凪、ちゃん」
二階から、転げ落ちた俺を驚いたように紅音が見ている。
「う〜、酷いよ紅音」
「え、え〜と、なんだったの? 今のって」
「・・・? ああ、私が起こそうと思ったら、
 紅音がいきなり寝ぼけてキスしてきたの」
「え、え〜〜〜!? え、あ、その・・・ご、ごめん」
「あ・・・あんまり紅音が照れると、
 私も恥ずかしくなってくるんだけど」
「あ、そ・・・わたっ、私、照れてない、よ・・・」
滅茶苦茶照れてるじゃね〜か、しかも顔がすげぇ赤い。
俺も平静を保つので必死だが。
って、何ラブラブな朝を演出してるんだ俺!
「紅音、それよりさっさと着替えないと遅刻するよ」
「えっ・・・あ、うん・・・」
どうやら二日酔いも無いみたいだし、
紅音はバッチリ元気みたいだ。
俺は先に準備を終えると、靴をはき始めた。
さて食事方法を疑問に思った方の為に、
俺が一応この学校のシステムについて説明しておこう。
朝食はいつも、寮内の食堂でとるのが普通だ。
希望した奴だけ、いちいち自分の部屋まで
朝の食事を運ばせる事が出来る。
昼は弁当を作れる奴はそれも良し、
学校の食堂で食うのも良し、
購買で買ってきても良いというわけだ。
夜は勿論、寮内の食堂で取る。
まあ部屋まで運ばせてるのもいるみたいだが。
ちなみにこのサイクルは休日もあまり変わらない。
「凪ちゃん、その靴私の・・・」
「え? ぁ・・・」
通りで入らないと思った。
なんか惚けてるのか? 俺・・・。

5月14日(水) AM8:55 曇り
1−3教室内

「・・・・・・」
「な、凪ちゃ〜ん」
「また、妖精の悪戯かな?」
「え・・・そ、そうだよ。それに違いないよ」
「ほうほうほう・・・」
「あ、え、あの、もしかしたら、
 少し私が悪かったかも・・・しれなくもないかも」
「ほうほうほうほう・・・少し?」
「い、えと・・・ちょっと?」
「意味合い的に変わってない!」
「わ〜〜、結局頭ぐりぐりするの〜?」
「これで遅刻3回目だよ」
「痛いよ〜っ」
全く、紅音の爆睡ぶりには目も当てられないな。
だが、出来るなら俺もそんなに寝てみたい。
「二人とも、ホント仲良いね」
俺の後ろの席にいる、神楽亜樹(かぐらあき)がそう言う。
続いて隣の席に座っている
双紹郡薊(そうしょうぐんあざみ)が喋りかけてきた。
「まるで、禁断の愛で結ばれてるかの如くな」
「薊・・・変な事言わないでくれる?」
男と話してると口調が戻りそうだから、
あまり男とは話したくないのが本音だ。
だが、そうはいかないのがこの世界の常。
「だって、めっちゃ仲良いじゃん」
「薊はホント馬鹿だね〜。
 紅音と凪は、幼なじみだからこんな仲良いんだよ」
「え、私が紅音と会ったのはこの学校入ってからだけど」
亜樹は思いこみが強いので、
こんな訳の分からない事を言ってくる。
「うん。初めて凪ちゃんと会ったのは、入学式の時だよ」
「え〜? だったら、薊の言う事分かるかも」
「・・・分からなくて良いよ」
「でも凪ちゃんと禁断の関係かぁ〜」
必殺、紅音スマイルだ。
これを見てしまったら、俺は反論できない。
「おいおい・・・お前等、マジでそんな関係なのか?」
「違うって言ってるでしょ!」
ったく俺だけかよ、弁護してるのは・・・。
頼むから、早く授業に入ってほしい。
「亜樹ちゃんだって、凪ちゃんだったら良いと思うよね〜」
「わ、私は・・・」
「あの、赤面しないでね? 亜樹」
「う、うん・・・」
ダメだ。一体何なんだチクショ〜〜〜!
かなり嬉しい状況なんだけど、嬉しくない!

5月14日(水) PM1:12 曇り
学校野外・公園跡

風が少し出てきたみたいなので俺はスカートを手で押さえた。
この中は誰にも見られるわけにはいかない。
俺は紅音達に了承を得て葉月と二人で、
この公園跡で飯を食べようと画策していた。
しかし。
「あれ? 凪さん、こんにちはぁ」
「真白ちゃん・・・こんにちは」
「凪さん、葉月さんに何しようとしてたんですか?」
「・・・真白ちゃん、頼むからきわどい会話は止めよう」
「ん〜つまんないけど、仕方ないですね」
つまらなくて結構だ。自分の命には代えられない。
「凪・・・さん、どうしてここに?」
「あのね、リリスは見つかった?」
「・・・」
「リリスってなんですか?」
横から真白ちゃんが当然の質問をする。
「悪魔だって」
「あ、またそっちの話なんですね」
真白ちゃんは興味ありげにこっちを見てくる。
・・・この子の居る前で話したのは失敗だったか。
「リリスはこの学校に居ると思うのだが、
 まだ見当はついていない」
あ、葉月があっちの葉月に切り替わったみたいだ。
「だが、それを聞いてどうする?
 あまり無用な詮索はしない方がいい」
「え、特に何もしないよ。それはそうと、
 他にも悪魔が居る可能性って・・・あるのかな?」
「いや、居ないはずだ。しかし、
 リリスの方も気配が感じられない。もしかすると・・・」
「・・・?」
「いや、何でもない」
なんだかすごく重要な事を言おうとしてなかったか?
「葉月さんって、二重人格なんですか?」
「・・・違う。私はこの体を借りているだけだ」
「へぇ〜、なんかウルトラマンみたい」
真白ちゃん・・・それって誉め言葉なのか?
でも、少し言えてる気もするが・・・。
しかしやはりと言うべきか、
大した事は聞く事が出来なかったな。
「凪・・・頼むから、一人でリリスに
 戦いを挑む事だけはしないでくれよ」
「うん。でもさぁ・・・ベリアルの時って、
 よく考えたら私を先導したのは葉月だよね」
「あ、あれは、お前ならそう簡単に死なないと思ったからだ」
「まあ、紅音が助かったから、私は文句なんて無いよ」
「えっ? 紅音さんって誰かに狙われてたんですか?」
あ、そう言えば真白ちゃんには
ベリアルの事は話してないんだよな。
でも・・・よくよく考えると、
こんな事は知らない方がいいのかもしれない。
元吸血鬼だと言っても、今はただの女子校生なわけだし。
「凪さん、あなたは私には逆らえないんですよ〜」
「え・・・?」
「秘密、喋っちゃいますよ」
「あ、それって反則じゃない?」
「・・・葉月さん」
「わぁっ!分かったよ・・・全く。
 紅音は確かに悪魔に狙われてたよ」
「凪、それ以上は言わない方がいいと思うぞ」
う・・・葉月の言っている事も、もっともだ。
あまり紅音と水連の事は人に言っていい事じゃない。
「ごめん、真白ちゃん。これ以上の事は言えない」
「あ、良いんです。すいません、我が儘言っちゃって」
「え・・・あ、いや、うん・・・」
こんなに素直に謝られたら、怒るのは筋違いだろう。
ただ、上手くはぐらかされた気もする・・・。

Chapter7へ続く