第一章

第三話

貴方が壊れてしまわない様に、
誰も好きにならない魔法をかけてあげる。
例えそれが過剰な愛でも・・・

今度は、わずかに夢を覚えている・・・。
誰かと話をしていた。
それも、とても大切な話だったような・・・。
何だったっけ?
「・・・・・・まあ、どうでもいいか」
今日は日曜。久しぶりに解放された気分だ。
夢如きでどうこう言っていても勿体ない。
「何がどうでもいいの?」
「・・・いつも素で反応を返すと思うなよ楓」
さりげなく布団に入って、ベタなお約束を
狙う楓を牽制する。
俺の休みが早速消えていきそうな予感。
「え・・・す、すごいね〜」
「ていうか、俺鍵かけたぞ・・・」
「あの、それは・・・これ」
そういって見せた楓の手には、
小さい文字で夜這い用マスターキーと書かれた鍵束が乗っていた。
「これ、何処で見つけたんだ?」
なんとなく予想は付くが・・・。
「遊貴のお父さんの部屋」
やっぱり・・・あのタコ、
人に内緒でんなモン作りやがって。
「でも、なんで親父の部屋なんかに行ったんだ?」
「ひ〜ちゃんが行きたいって言うから」
まあ、気持ちは解らんでもないが。
ちなみに、親父の部屋は一階にある書斎と繋がっている。
「でも、何も見つからなかったのに泣いて
 下に降りて言っちゃったんだよ〜」
「・・・なるほど。で、俺にあいつの代わりに
 暇つぶしに付き合えと・・・」
「違うよっ!妹さんの所に行ってあげなさい」
「・・・お前」
「・・・何?」
「意外と良い所あるな」
「は〜・・・私って報われないな〜」
がっくりと肩を落とす楓。
「楓、俺はそういう所・・・嫌いじゃない」
はっ・・・口が勝手にとんでもない事を・・・。
「遊貴〜〜」
「うぉっ!抱きついてくるんぢゃね〜!」
「あっ・・・かわされたか」
ったく感情表現の豊かな奴だ・・・。
「じゃ、行くぞ」
そういって、俺達は部屋を出た。
一階にはソファーに腰を下ろしている
あいつ一人が、ひっそりと佇んでいた。
「おい、ひ〜ちゃ〜ん」
「・・・何?」
振り返ったひ〜ちゃんは、かなり俺を睨んでいる。
かなり恐ろしげだ・・・。
「親父の部屋に行ってたらしいな。
 なんかあったか?」
「あなたには・・・関係ないでしょ」
「ま、予想つくけどな」
「・・・・・・・・・」
「大方、母親の写真か何か探してたんだろ?」
「何でわかったの・・・?」
「え?そうなの?」
楓が、意外そうに親父の部屋の方を見やる。
「そう・・・あるに決まってると思ったのに。
 大切な物は全部保管してあるって聞いたから、
 絶対にあの部屋にあると思ったのに・・・」
「ひ〜ちゃん」
「楓さん!・・・私のお母さんの事は、
 あの人にとって大切じゃなかったのかなぁ」
そして、また耐える様に嗚咽を漏らす。
「ったく・・・そんな事なら悲しむだけ、無駄だぞ」
「ちょっと遊貴・・・」
「あなたには解らないわよ・・・!」
「はぁ・・・お前ら、あの部屋と書斎、ちゃんと見たか?」
「え・・・?もしかしてひ〜ちゃんのお母さんの写真って
 どっかにあったりするの?」
「無い」
「・・・?」
「じゃあ、俺の母親の写真はあったか?」
「え・・・?」
「あなたの・・・母親?」
「見てないだろ。親父は、そういう写真は
 全部処分しちまったからな」
静寂・・・ああ、辺りがしんみりしてきた。
ちなみに俺の母親は死んでない。
・・・あしからず。
「なん・・・で、そんな事」
「親父の弁護をするつもりはないが、
 そういうの見てると自分が耐えられないんだってよ」
「そうなんだ・・・」
「だから、俺なんかは母親の顔も
 よく思い出せないけどな」
「遊貴・・・」
「っと、そんな事言っても仕方ね〜か。
 要はあの親父の事で一喜一憂するのは無駄だって事だ」
なんか俺・・・珍しく優しい言葉かけてんな。
・・・そうでもないか。
「まあ、お前が元気ないとこっちも
 調子狂うから慣れね〜事はやめとけ」
「・・・ばか」
「は?」
「あなたみたいなばかにいわれたくないわよっ」
ばかばかしい、と言って自分の部屋に戻っていく妹。
それはこっちの台詞だ・・・。
まあ、元気が出てきたので良しとしておくか。
「親父め・・・おかげで朝から目が冴えてきちまった」
「遊貴って、たまには良い所あるね」
「・・・たまにが余計だ」
「そう言う所、嫌いじゃない」
「俺の口調でそう言う事言うな!
 恥ずかしさがこみ上げてくるだろ!」
「楓・・・愛してるぜ」
「勝手に言動を捏造するなぁ!」
「言って欲しいな〜・・・勢いで」
「楓・・・すり寄って来ないでくれ。
 最近おかしいぞお前」
「だって、遊貴が好きなんだも〜ん」
「か・・・顔を真っ赤にして言うな!」
俺まで赤くなりそうだ。
ああ・・・俺の日曜の優雅な朝よ、さよなら。

 

昼のむぁ〜んとした熱気が、食欲を削ごうとしてくる。
俺は扇風機をつけると、しばらくシャツを脱ぎ、
その人工の風に身を任せてみた。
やっぱり、夏はこれと風鈴があれば最高だな。
「ねぇ・・・そんな格好でくつろがないでよ」
・・・回れ右をすると、俺の部屋の出入り口に
ひ〜ちゃんこと蒼髪の女が立っている。
「どうした?ひ〜ちゃん」
「その名前で呼ばれるのはイヤだから、
 本当の名前を教えておくために来たのよっ」
「へぇ・・・」
「オホンッ・・・私は広下日百合(ひろしたひゆり)。
 二度は言わないからね」
「ふ〜ん・・・奇遇だな。俺も広下だ」
「兄妹だから当たり前でしょ!」
なるほど。日本では・・・ってワケか。
あまりにも日本語が上手だから
生粋の日本人かと思いこんでいた・・・。
親父がどっかの国で作ってきたガキだった。
「そうか、じゃ改めてよろしくな、日百合」
「・・・やっぱり、そう呼ばれるのもイヤ」
「じゃあ何て呼べばいいんだよっ!」
「・・・・・・・・・」
「じゃあ、日百合に決定だな」
「・・・解った。譲歩する」
「そうそう・・・で、俺の事は遊貴でいい」
「それはダメだよ!」
「は・・・?」
「由希ちゃんと間違えそう・・・」
「間違えるかっ!」
「ほらっ、それに楓さんもそう呼んでるし」
「別に名前の呼び方に先着順はない気がする」
「わ・・・わかったわよ!」
理解の遅い妹を持つと苦労が耐えない。
しかし、いつの間にかうち解けてきたな。
初対面の頃とはえらい違いだ。
それに、日百合の顔にも慣れてきた。
きっと恋とは違う物だったに違いない。
・・・正直助かったぜ・・・。
「あ、そうだ。昼食出来たから来て」
「わかった」
一階に下りると、豚骨ラーメンがいい感じに
湯気を立ててぬらりと輝いている。
「遊貴〜お昼はラーメンだよ〜」
「・・・うぃ〜っす」
夏バテ真っ盛りな季節にラーメンっスか・・・。
しかも、豚骨。
気を紛らわそうと、TVをつける。
プロレスの生中継だ。
ぶつかり合う体と体、弾け散る汗の輝き・・・。
「暑苦しいぞチクショ〜!」
しかし、プロジェクター式のTVを
投げる度胸は俺にはない。
「ばかな事やってないで、さっさと食べれば?」
「おい・・・お前、なにげにそうめん食べてないか?」
「ひ〜ちゃんは夏バテだって」
「そうそう。あなたはそんな事無いでしょ」
「・・・・・・・・・」

ずるずるずるずる、
さばさばさばさば!

「遊貴、そんなに急がなくてもラーメンは逃げないよ」
「それにしても、早すぎ」
「・・・ごちそうさま」
速攻で、ラーメンを平らげる。
結構上手かった。しかし、
食欲無いのに無理してしまった。
後数年はラーメンを見たくないな。
で、そう言う時に限ってTVにはラーメン対決
とかでばんばんラーメンが映るという間の悪さ。
しばらく動けないくらいのダメージを負ってしまった。

ピンポ〜ン

「ねぇ、ちょっとお願い」
日百合に促され俺は玄関まで行く。
マジに間が悪い。
「セールスなら間に合ってる」
「こんにちは」
第一声はほぼ同時。
目の前には、由希ちゃんが立っている。
「よう」
「・・・はい」
「ひ〜ちゃんに用か。ま、上がってくれ」
「え・・・は、はい」
真っ赤になっている。
さぞ外は暑いんだろう。
今年の夏は釈迦ってんな〜。と、
何気なく温度計を見て後悔する俺。
「おい、二人とも由希ちゃんが来たぞ」
「こんにちは〜」
「由希」
「・・・また来ちゃった」
「由希ちゃ〜ん」
そこで楓が由希ちゃんに抱きつく。
「か、楓さん・・・あれ?泊まったんですか?」
「うん」
「え・・・じゃ、じゃあ・・・広下先輩と・・・」
無論、広下先輩というのは俺だ。
「らぶらぶ〜」
「楓っ!意味深な発言をするな!」
「だって、由希ちゃんもライバルだからねっ」
「ライバル・・・」
なぜか、俺はどんどん台風の中心に近づいてる気がする。
しかも中心が一番風当たり強い台風の。
「由希ちゃん、負けないからっ」
「あの・・・わ、私は・・・」
「楓さん。それくらいにしてあげて下さいよ」
さすがの日百合も、楓の前では
苦笑いを浮かべるのが精一杯の様だ。
「じゃあ、私はひ〜ちゃんと後かたづけしてくるね」
「ぁ・・・」
「ったく、マイペースな奴だな」
「あ、えと、あの・・・広下先輩は、
 楓先輩と付き合ってるんですか?」
「ああ、それはとんでもなく屈折した誤解だ」
「そ、そうなんですか?」
「学校では、あらぬ誤解をよく受けて困る」
自分で言って、それは全部ある意味自分の
せいだとも言える事に気付いた。
いや・・・それについて考えると、
自己嫌悪の無限ループが始まりそうだから止めておこう。
「良かった・・・そうなんですか」
「理解がいいな、由希ちゃんは」
「信じてますから・・・先輩」
「あ、ああ・・・そう」
なんだか自分で台風の風速を上げてる気もするが、
それは自惚れだとしておこう。
「あの・・・」
「ああ?なんだ?」
「はい・・・私、信じてますから」
「いや、それはさっき聞いたんだけど・・・」
「ぁ・・・」
「そ、そういえば、部活とかやってるのか?」
「・・・はい、陸上部です」
陸上部か。たしかに無駄のない筋肉がついているな。
足の筋肉の付き具合から見て・・・。
「なるほど、短距離の選手か」
「・・・あまり見られると照れます」

・・・・・・・・・

さっきから気になっていたが、
照れたりどもっている割には表情の変化がない。
だから、逆に今の台詞が妙に迫力のある台詞に
変わってかなり怖いな。
「・・・由希ちゃんに変な事しなかった?」
背後から日百合の声が聞こえる。
思いっきり疑っている顔をしている。
「普通に話してたよっ」
「・・・」
「由希ちゃん、何もされなかった?」
「・・・・・・・・・」
あいかわらず、俺の話は聞いていないらしい。
「・・・じっくり見られてました」
「そう・・・変態ね・・・」
「じっくりなんか見てないって!陸上部だって言うから
 良い筋肉がついてるな〜と・・・」
「へ〜、やっぱりじっくり見てたんじゃない」
「・・・私構わないから」
そういって、日百合の服の裾を引っ張る。
「由希ちゃ〜ん」
続いて、楓が由希ちゃんに抱きつきにいく。

ひょいっ

「あっ」
楓をかわしたのはいいが、
その拍子に躓いて俺の方へ倒れかかる。
「大丈夫か?」
「ぁ・・・はい」
予想通りこの状況はかなりヤバイ。
かといって、もし俺がかわしていたら
それはそれでぼろくそ言われただろう。
「由希ちゃんズルイよ〜、私も」
勘弁してくれ・・・。
日百合は、マジ切れ寸前だ。
俺は由希ちゃんを離そうとする。
「もう少しこのままでいいですか・・・?」
「・・・・・・・・・」
いや、全く良くないんだけどな。
しかし、目を瞑って体を任されると何も言えね〜。
「ちょっと、いつまで抱いてる気?」
「・・・不可抗力だ」
「由希ちゃん、幸せそ〜」
「はっ・・・す、すいません」
そう言うと、由希ちゃんは俺から離れる。
「幸せそうなのは、あなたの方だったけどね・・・」
「何を言ってるんだよ、事故だって」
「遊貴〜、私も」
「・・・俺、出かけてくる」
俺は、この場にいるとさらに
危険な事になりかねないので逃げる事にした。

 

近くにある公園にあるベンチに腰を下ろす。
辺りはまだ子供が戯れ、主婦の井戸端会議が
佳境に入ってデッドヒートしている。
夕暮れが辺りを包み、静かに夜が訪れる準備を整えている。
・・・気楽なモンだ。
俺は下手したら今頃とんでもない事に
なってたかもしれないって言うのに。
少し頭痛がする・・・おそらく日差しが
この時間になってもばかみたいに主張しているせいだろう。
「・・・・・・・・・」
おかしい。
はっきりと解る。この頭痛は明らかに体の異常だ。
頭痛は、頭を手で押さえないと
気が狂いそうな程の痛みへと増長していく。
「ぐっ・・・ぁ・・・」
「ど、どうしたの?」
なぜか、日百合の声が聞こえる。
「お・・・お前の名前って・・・変だよな」
「な、な・・・気にしてるのよっ!」
しかし、そんな事を言ったせいか
俺の頭痛はひどいくらいに激痛へと変わる。
立っていられない・・・。
「え・・・ねぇ、大丈夫?」
「・・・・・・・・・」
「遊・・・遊貴、遊貴ってば!」
喋るのも苦痛だ。
痛い・・・。

自問する。
これは、何の痛みだ?
自答する。
体の痛みじゃない・・・これは、心の痛み。

自問する。
心の痛み?何の・・・?
解答不可能。
俺の記憶には存在しない痛みだ。
コレは・・・

「うっ、く・・・」
ここは俺の部屋・・・?
でも、確か俺は公園で気を失って・・・。
その時、静かにドアが開いた。
「・・・あ、気がついたの?」
「日百合・・・それに、楓」
ドアの前に立っていたのは日百合と楓だった。
「遊貴〜、大丈夫?」
「まったく・・・心配かけさせないでよね」
「俺は・・・公園でどうなったんだ?」
公園でぼ〜っとしていたのは覚えているが、
それから先の記憶がない。
「私が通りかかった時は、
 もう頭を押さえながら倒れてたけど・・・」
頭を・・・そうだ、頭痛・・・。
あの頭痛・・・とんでもない痛みを伝えてきた。
まるで頭の中にある何かが、
俺の頭を突き破ろうとしているみたいに・・・。
「どうしたの?遊貴・・・震えてるの?」
楓が肩に手を乗せる。

あなたは、誰も愛してはいけないの。

俺は気付くと、無意識の内に楓の手を振り払っていた。
「あ・・・ご、ごめんなさい」
「え・・・?あ、俺・・・悪い」
楓は、気まずそうな顔で肩を引っ込めた。
よく見ると、目が腫れている。
「お前、目・・・どうかしたのか?」
「え・・・あ、私もう帰らなきゃ」
時計を覗くと10時を指していた。
楓は日百合をすり抜け、階下へと降りていった。
「楓さん、必死であなたを看病してたのよ。
 あなたが何時になく苦しんでるって、
 涙流しながらずっと・・・」
「そうか・・・」
あいつはいつもふざけてるが、
肝心な時になると本当に良い奴なんだよな・・・。
「ちょっと行ってくる」
「はいはい、熱いわね〜」
「恋愛とは関係ないだろ・・・」
俺は急いで玄関へと走った。
あいつの靴らしき物はない。
ドアを開け、家の前の道まで出ていく。
「・・・っ!」
どこにも楓らしき人影は見えない。
なぜか、今会えなければ、
もう二度と会う事はない気すらしていた。
「遊貴〜」
後ろから声がして、体に負荷がかかる。
前言を大きく撤回したい。
「・・・楓!なんで後ろに・・・っていうか抱きつくな!」
「え〜、だって慰めに来てくれたんじゃないの?」
楓はゆっくり俺から離れて、真正面に向かい直す。
「あのな〜・・・慰めて欲しいのは倒れてた俺だろ」
「じゃあ慰めてあげようか」
「いや、いい」
「う〜ん、残念」
「さっきは・・・悪かった。
 いきなり手を払いのけたりして」
「・・・・・・・・・」
楓が目を点にしている。
なんだか悪い事でも言っただろうか・・・?
「今日の遊貴は優しい〜」
「・・・失礼な」
まあ、確かに今は気分が安らかだ。
さっきまで気が狂いそうな痛みにさいなまれてたのに。
俺、コイツの事が好きなんじゃないだろうな・・・。
「どうしたの遊貴。まだ直ってないの?」
「大丈夫だ・・・お前って本当につかみ所のない奴だな」
「へへ〜、私と付き合うと楽しいかもね」
「・・・今の時点で充分楽しいって」
「そっか・・・残念だなぁ」
・・・なんて顔するんだコイツは。
これ以上ないってくらいの笑顔なのに、
どこか寂しさを感じさせる。
「卑怯すぎるぞ・・・そんな顔すんなって」
「・・・本当に今日は優しいね」
そう言って抱きついてくるが、俺はやはりかわす。
「避けないと思ったんだけどな〜」
「避けるに決まってるだろ」
「最後に一つ聞いていい?」
「・・・なんだよ」
「妹さんの事、どう思ってるの?」
「さあな」
「誤魔化さないで」
「あのな、義理のでも妹は・・・妹、だろ」
「それって信じていいの?」
「・・・・・・」
そんな事解るわけがない。
俺だって自分が誰を好きなのかわからね〜んだから。
「私・・・もう少し頑張ってみる」
「それは俺に言う事じゃない気もするけどな」
「あっ、いつもの遊貴だ〜」
「・・・楓、さっさと行くぞ」
「え?なんで遊貴が?」
「お前は仮にも女だろうが!
 襲われてもいいんなら帰って寝るけどな」
「なんか遊貴が優しすぎると、
 こっちの調子が狂っちゃうな」
・・・人を小馬鹿にしやがって。
「で、どうするんだ?」
「うん、じゃあ甘えちゃう〜」
「猫のようにすり寄ってくるな!」
そうして、静かに夜は更けていった。
無論俺が家に帰ると、日百合はとっくに寝ていた。
俺は今日の頭痛が再発しないように願いながら、
ゆっくりと睡眠の波の中へと飲み込まれていった。

扉は開かれた。
ゆっくりと蝕まれてゆく・・・。
不都合な思いは、  
      優しい記憶は、
彩る全ての世界は瞬間セピアに変わる。
それでも・・・あなたはそれを選んだから。
私は出来れば・・・この時が来ない事を信じていた。
たとえ幸せではない運命でも、
不幸ではない運命を選び取って欲しかった。
でもそれももう終わり。
・・・これが最後の忠告です。
お互いの気持ちを信じてください・・・

phenomenon 1 END