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灰孵りのナイトメア

著作 早坂由紀夫

Chapter5
「プロローグ」

5月10日(土) AM2:05 快晴
都内某所

くちゅ・・・ぐちゅ、ぐちゅ・・・。
「あ、あのさぁ・・・こんな事してて、いいのかよ」
「はぁ・・・んっ、どう、いう・・・事?」
一組の男女が暗がりで情事を始めていた。
女の方は胸元がはだけ、ブラをずりおろされている。
そして下半身は何も付けておらず、男が舌を出し入れする度、
ヴァギナがはっきりと濡れていくのが分かる。
女の体はまるで、男を誘っているかの様に
怪しく体をくねらせている。
「だってよぉ・・・あんた、あの有名な私立の生徒だろ?」
「そっ・・・ああっ! そうだよ・・・」
「じゃあ、こんな時間まで出歩いてちゃ・・・やばいんじゃね〜の?」
女は膝をついて男のジッパーを下ろす。
そして男根を横から唇だけで舐りまわした。
「大丈夫。それとも、もうやめたい?」
「そっ・・・そんな、わけ・・・ないって」
男の声は上擦っており、
恐ろしい快感を与えられているのが見て取れた。
そしてその女はそのまま男のモノを口に含んで舌を這わせる。
男は手のやり場所を探す様に乱暴に女の頭を掴む。
ぴちゃ・・・ぴちゃぴちゃ・・・。

・・・・・・

「はっ・・・ああっ、ねぇ・・・もう、いい、でしょ・・・」
「あ、ああ」
男は少しだけ自分の置かれた状況に疑問を持った。
しかしそれが最後のチャンスだった。
ねだる様な女の目と声に、男の理性などかき消えてしまう。
そのまま男は操られる様にして自身をその女に埋めていった。
愛液が溢れだしているためか、
ペニスは驚くほどスムーズに挿入されていく。
ずっ、ずっ・・・ぐちゅ・・・。
「はぁぁああ、良い、すごぉい・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「んっ、んはぁ・・・」
「あ・・・れ?」
「溶けちゃい、そう・・・でしょ?」
男は違和感を感じる余裕すらなく、
ひたすらに単調な動きを繰り返している。
「ああっ、んんっ・・・ああっ!」
「なん、だよ・・・これ」
「そう・・・そのまま・・・私、もう・・・ああっ」
男はさらにスピードを上げていき、
そのまま二人とも絶頂を迎える。
しばらく男はあまりの快感の渦の中に身を浸していた。
息は荒く、獣の様に肺を躍動させている。
「はぁ、はぁ・・・」
そんな少しばかりの安息は、
女が立ち上がった事により打ち切られる事になった。
少し前まで彼の性器をくわえていたはずの口から、
その言葉は放たれた。
「・・・ありがと、もう君に用は無いわ」
「え?」
直後、男の性器は音を立てて潰れてしまう。
根本からとてつもない圧力をかけられた様に、
ひしゃげて平べったく潰れた。
「あぐっ!いぎゃぁぁあああ!!!」
「それだけでもいいんだけど・・・ま、とりあえず死んで」
「やっやっあ・・・止め」

ぐじゅっ! ずぶっ、ぐぷっ! ばづんっ!

「ああ゛あ゛ぎぇぁっ!」
潰れる様な、引きちぎられる様な音がして、
その男はただの肉塊と化した。
辺りには血が水たまりになっている。
まるで赫いジュースを、雑巾から搾り取った様な光景だった。
大腿骨は原形を留めておらず、
その割に脊髄は不思議な事に傷一つ無い。
しかしそのほかのパーツが全て反転してしまっている。

顔は逆向きに、心臓は右に、
肺はまた左右対称に、腕は一回転していて、
両足は逆を向いていた。

最も可笑しいのはその男の息がまだある事だった。
絶望的かつ最悪の痛みを脳が受信する。
後数秒程は息のあるその男は、そこからが地獄だった。
動く事も叶わず、声帯など引きちぎれているので声も出ない。
彼の声にならない悲鳴、というより乾いた空気の摩擦が、
その暗い路地裏に響いていた。
「はぁあ・・・なかなか、良い声で鳴いてくれるわね」
そう呟いて女は声もなく笑った。
そして血だらけの自分の姿を確認すると、
夜の空へと笑いながら消えていった・・・。

5月12日(月) AM7:45 快晴
寮内自室

「ふぁ・・・」
目覚めは凄くリアルな焦燥感だった。
たまに、こうやって汗だくになって目が覚める。
もしかすると俺はこの生活に、
押しつぶされそうになっているのかもしれない。
しかしそれとは違う気もする。
こんなに嫌な予感がするのは初めてだった。
「ふゅ〜」
あ、紅音が目を覚ました。
今日はやけに早く目を覚ましたな・・・。
「おはよ、凪ちゃ〜ん」
こいつに精神的に助けられてる面も多少はあると思う。
この脳天気でふやけそうな紅音スマイルに。
「どうしたの? 凪ちゃん」
「え・・・? あ、ああ・・・おはよう」
「うんっ」
よし、今日も気合いを入れていこうか。
春も半ば、少し暑くなりつつある。
なかなか過ごしやすい季節になってきたな・・・。
女の場合、服装的にはとても涼しくて良い。
「凪ちゃん、眠いね〜」
「紅音はこの時間に慣れてないからね」
「そうなのかな〜?」
「間違いなくそうです」

5月12日(月) PM1:05 快晴
学校野外・公園跡

何故か知らないが、俺が最近昼食を取っているこの場所には、
俺を含め5人が食事している。
まず、最初からここで食事を取っていた元吸血鬼の真白ちゃん。
その上俺が男だと知っている唯一の同級生でもある。
それから、いつの間にかここで食ってる紅音。
なぜか俺を焼き殺そうとする葉月。
まあ本当の(?)葉月は良い子なんだが。
そして紅音と葉月繋がりでいつの間にかいる紫齊。
「本当ににぎやかな事だね・・・」
「賑やかって好きだな〜。ね、真白ちゃん」
「え、はい」
「ここは運動する為の穴場だね」
また、紫齊がとんでもない発言を・・・俺を過労死させる気か?
そして葉月は葉月で・・・。
「凪さん・・・あの、食事が、進んでいませんよ」
「えっ? あ、うん、心配してくれてありがとう」
「あの、少し・・・いいですか?」
「・・・葉月?」
葉月に呼び出され学校の西の秘境、公園跡の更に西、
学校を取り囲んでいる壁の辺りまで歩いてきた。
この辺りは誰も綺麗にしていないらしく、
雑草達が伸び放題になっている。
誰もここに来る用事なんてないので、
それらが踏まれた跡はどこにもない。
この学園は相当広い為に、こんな未開の地が沢山あるわけだ。
「どうしたの? 葉月」
「二日程前に起きた、惨殺事件を知っているか?」
この感じは、もう一人の葉月の方だろうか。
あの、神の盲信者である方の葉月・・・。
「凪。聞いているのか?」
「え、うん・・・この地区で起きた奴でしょ?
 ミンチみたいに潰された男が発見されたって言う」
「ああ。あれが、どうやら私の管轄らしい」
「・・・悪魔」
そう、葉月は悪魔を殺す為の力を持っているんだ。
「その通りだ。しかも、今回はタチが悪い。
 今まで凪が関わったのは、ベリアルと吸血鬼だけだ。
 ベリアルは10%も力を出せていない状態だったし、
 真白はお前に危害を加えなかったからまだ良かった」
ベリアルって、そんなに力出てなかったのか?
それでも俺は殺されそうになってたよな・・・。
まああの時は全然現実感がなかったせいか、
さほど怖くはなかったけど。
「今回のは、やばい奴なの?」
「今回は、手口から見て恐らくリリス。
 悪魔の母とも呼ばれている大悪魔だ」
ちょっと待て。
大悪魔って・・・悪魔より格上かよ!
そんなのあったのか・・・。
今度、紅音に色々教わってみるべきかな。
「だから、もう下手な事はしないでくれ。邪魔になる」
「・・・随分はっきり言うわね」
「当たり前だ。オブラートに包むと、
 日本人は勘違いした認識をしてしまうからな」
「よ、余計なお世話よ」
「・・・今回に限って嫌な予感がするんだ。
 凪、たまには私の言う事を聞いてくれよ」
なんだかんだ言って、
意外と俺の事を心配してくれているんだろうか?
「下手に悪魔に取り憑かれたりしたら、
 一つ無駄な死体が増えてしまうからな」
「・・・」
こいつ、真白ちゃんの一件以来、
俺に対してキツイ事言う様になった気がする。
いや、元々こういう奴だった気もするが・・・。
「でも、どうしてそんな奴が現れたの?」
「いいか、万物には自己限定という物があり、
 自分の能力以上の事は出来ない様になっている。
 悪魔の場合、基本的に自分の力のみでは
 現世には現れる事が出来ないと言う理があるのだ」
「あっ、だから人間の召喚をファクターにしてるのか」
そうだよな。
そんなに簡単に悪魔が出てきたら恐すぎる。
「その通りだ。そして、その人間の魔動力の絶対量に比例して、
 悪魔の顕在化領域が決まるのだ」
「・・・簡単に言うと、呼び出した奴の力によって、
 その悪魔の出せる力も決まるって事?」
「まあ、概ねその通りだ。ベリアルの場合、
 呼び出した人間の魔動力が足りていなかったために
 大した力を発現できなかったが、リリスは違う」
「違う?」
「ああ、リリスの場合は無差別に男を襲い精気を奪うので、
 それで力をつけていけるのだ」
そうか、ベリアルの場合は処女にこだわっていたし、
なおかつ水連の意識が邪魔して紅音だけを狙っていた。
だから奴の場合は、力が蓄えられなかった。
だけど今度の奴は無差別に男を狙うから、
あっという間に力をつけていってしまうって事か。
「じゃあ、そのリリスを早く倒さないとね」

「・・・ああ、私の手に負えなくなる前に」

「葉月・・・?」
「どうした?」
俺はその時、葉月がとても弱々しく映った気がした。
そして何かを決意している様にも・・・。
「まさか葉月」
「凪。私は死にはしないよ。
 この娘の体を借りているというのに、そんな事は出来ない」
「葉月・・・」
葉月が嫌な予感がすると言った様に、
俺にも消しようのない嫌な予感が渦巻いていた。
いつの間にか快晴だった空は雲に覆われ始めて、
文字通り暗雲が立ちこめていた。
まるで俺の不安を煽る様な不穏な動きで・・・。

5月12日(月) PM3:25 曇り
1−3教室内

空は依然曇ったままで放課後がやってきた。
そして、やはり俺の周りには女が4人いた。
「真白ちゃん、帰らないの?」
「私、凪さんと一緒に帰ります」
「・・・そう」
「真白ちゃんてさあ、随分凪を気に入ってるんだね」
紫齊がまた、余計な所で突っ込んでくる。
「えっ・・・その、まあ」
「私も凪ちゃん大好き〜」
「紅音のは聞き飽きたよ」
紫齊、俺は誰に何度言われても顔が赤面しそうになるぞ。
それに胸が痛む・・・。
俺はいつまでこうやって隠し通せばいいんだろう?
瞬間、脳裏に母親の顔が浮かぶ。
ああ・・・卒業まで、死んでも隠し通す!
「そういえば葉月って、さっきから何の本を読んでるの?」
「わ、私ですか? あの・・・PC悪のマニュアルと言う、
 パソコンの説明書です」
な、名前からして普通の説明書ではない気がするんだが・・・。
「葉月は、頭良いから本が似合うんだよね。羨ましいよ」
「別に紫齊が呼んでても不思議じゃないと思うよ?」
「凪は見た事ないから。私が本読む所」
まあ見た事はないけど、読書に似合う似合わないがあるのか?
そこで紅音が、口を挟む。
「私も本読むよ、古代ユダヤの“タルムード”文献とか」
「な・・・なにそれ?」
しかし、そんな疑問を紅音にぶつけるべきではなかった。
「名台詞があるよ。悪魔は、
 それを数える人間の数よりはるかに多いのだ・・・て言うの」
「・・・」
皆、声もない。
なにより、古代ユダヤという時点で疑ってかかるべきだったか。
真白ちゃんが、マジっすか?という顔で俺を見る。
紅音がオカルトマニアなんだって、知らなかったんだっけ。
・・・そして、葉月が妙に微笑むのが気になる。
葉月、お前は今どっちの葉月だ・・・。
「あれ? もうこんな時間だ」
紫齊がそう言ったのは、夜の5時を過ぎた頃だった。
まだまだこの季節は、比較的日が落ちるのが早いみたいだな。
俺達はそうそうに、寮へと帰る事にした。

5月12日(月) PM8:13 曇り
寮内自室

「凪ちゃ〜ん。お茶飲む?」
「あ、うん」
この時間になると、後は風呂に入って寝るだけだ。
さて、ここで俺がどうやって風呂を
誤魔化しているかという事を説明しよう。
それは至って簡単。部屋に備え付けの風呂があるからだ。
「私、最近どうかな?」
「え?」
「・・・体重」
「体・・・ああ、別に変わらないんじゃない?」
相変わらず、パッと見は幼児体型と普通の狭間だ。
まあ、まじまじとは見ていないので分からないが。
「そうかな〜? 少し増えた気が・・・」
「そう言われてみればそうかも」
「え〜?」
「・・・大丈夫。紅音は可愛いから」
「そっ・・・そうかな〜!?」
ふにゃ〜っとした紅音スマイルが、いつにも増して冴え渡る。
こいつは間違いなく騙されやすいタイプだ。
「あっ、そういえば紅音、こないだ貸してた漫画は?」
「え? “ピエロ達の凶夜”だっけ。あれは・・・」
ゴソゴソと紅音は自分の机をあさる。
前々から思ってたが、もう少し綺麗に出来ね〜のか?
紅音の机を見てると、俺が片付けたくなる。
だが一応俺は男だ。勝手にそんな事してバレた暁には・・・。

 「ええっ!? 凪ちゃんって男だったの!?」
 「いえ、そのこれは事情が・・・」
 「・・・私のプライベートが・・・机の中、男の人に見られた!」
 「いや、ご、ごめん!」
 「ぶつぶつぶつぶつ・・・」
 「・・・何してるの? 紅音」
 「ベリアルに来てもらうっ! 凪ちゃんを殺してっ」
 「ちょ・・・ちょっと待ってくれぇぇええええ!」

ああ、ありありと浮かぶよ、紅音の召喚士っぷりが。
下手したら現実に成りかねないだけに、マジで心配だ。
「凪ちゃ〜ん」
「えっ!? はっ、はい!」
「・・・? 一応、1巻から10巻まであった」
そう言えば、貸した漫画の話だったっけ。
「ごめんね? 凪ちゃん、怒ってる?」
「あ、ううん。怒ってないよ」
「はぁ〜良かった」
“ピエロ達の凶夜”とは、毎回出てくる軟弱な告白できない
ヒロインのために、仲介役になって恋を実らせる奴らの話だ。
毎回ヒロインに恋しながらも、
その恋を手助けしてしまう主人公がまるでピエロの様だから、
表題が“ピエロ達の凶夜”らしい。
少女漫画とも、少年漫画ともつかないそのストーリーは、
波乱一杯でかなりの面白さだ。
そして仲介役の中にいる霧草月愛依那(きりそうげつあいな)
と言うキャラと、主人公の陣陽助(じんようすけ)との恋に、
全く目が離せないっていうわけだ。
・・・あのキャラ作りの巧さはホント脱帽するしかない。
しかも霧草月愛依那という奴は、
実在の人間から取った名前だと聞いた事がある。
一番現実に居なさそうな名前だけに、
作者と同じくらいに今、会ってみたい人間だ。
「そう言えばこの漫画に出てくる愛依那ちゃんって、
 1−4の愛依那ちゃんと名前が一緒だね」
「えっ? ええっ!? それ、ホント?」
「うん。苗字も同じ」
なんてこった・・・この学校にいたとは!
俺は今の時間を確認してみた。8:45か。
「ねぇ紅音、その娘に今から会いに行かない?」
「えっ? でも・・・迷惑じゃないかなぁ?」
「まだ9時前だし、起きてるよっ」
どうしても会いてぇ。
もし漫画の愛依那と同じ感じだったら、惚れるかも・・・。

5月12日(月) PM9:05 曇り
寮内東側・愛依那と芽依の部屋

霧草月の部屋の前に来ていた。
こんこんっ。
「は〜い」
ドキドキ・・・マジ緊張する。
「凪ちゃん珍しいね、緊張してるなんて」
「だって、あの愛依那だよ?」
ガラッ!
「あ、た、高天原さんっ」
「え〜と・・・霧草月さん?」
「え? 私は愛依那ちゃんと同室の、
 呉山芽依(くれやまめい)と言います」
芽依ちゃんは、パジャマを着て寝る体制に入っている。
そして、洗い立ての肩まである髪が艶を帯びていた。
「あ、そうなんだ・・・ごめんね」
「いっ、いえっ! あ、入ってくださいっ」
「・・・うん」
中に入ると、そこはこざっぱりとした女の子の部屋だった。
「愛依那ちゃんは、今お風呂に入ってます」
にこやかに、芽依ちゃんはそう言った。
確かに風呂場の方でシャワーの音が聞こえる。
・・・なんか、変に緊張してきたぞ。
「凪ちゃん、手に汗かいてる」
「え・・・」
「あの高天原さん・・・」
「あ、凪でいいよ。呼びづらいでしょ」
「凪、そこのタオル取って」
・・・・・・。
風呂場から一糸纏わぬ姿で出てきたのは、
間違いなく愛依那本人だった。
「・・・」
「聞こえてた? そこのバスタオル取って」
「えっ・・・あ、うん」
俺は急いでそのバスタオルを愛依那に渡す。
ていうか、裸だし・・・一瞬思いっきり見ちゃったよ。
「で、何か用があるの?」
「え・・・と」
「・・・? 凪って、こんな奴だったっけ?」
「凪ちゃん照れてるんだよ。
 憧れの愛依那ちゃんに会えて」
「ちょっ・・・なんであたしが憧れなの!?」
「その・・・“ピエロ達の凶夜”読んだんです」
「あ、あれを? あの、マニアックな本を・・・」
まあ確かに、相当マニアックな本だが。
「愛依那、凪さんに好かれてるなんて凄いよっ」
「・・・まあ、悪い気はしないけど」
少しうちとけた風に笑う芽依ちゃんと愛依那。
「はぁ、よかった」
「よかったね、凪ちゃん」
「凪、よろしく。あたしの事は愛依那で良いよ」
「うっ、うん。私の事も凪で構わないよ」
「凪さん・・・私は芽依って呼んでくださいねっ」
「うん。よろしく、芽依ちゃん」
すごくいい人じゃね〜か。
これは仲良くなるしかないぜっ!
「あ、もうそろそろ消灯だ」
「ホントだ、凪ちゃん部屋に戻ろ」
「・・・うん。じゃ、またね」
「凪。夜は早く寝た方がいいよ」
「・・・? うん」

その愛依那の一言が、俺はその日引っかかって取れなかった。
当たり前の事を言っているだけなのに、
俺にはそれが忘れてはいけない一言の様に聞こえたからだ。
まるで・・・それが何かの始まりを示唆するかの様に、
歯車の狂った音が聞こえた気がした。

Chapter6へ続く