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「かあさま、私も闘う」
「ふぅ・・・駄目に決まってるでしょ」
「どうして? 私が本当の子供じゃないから?」
「違う。お前は可愛いから、闘いは似合わないのよ。
身を守る術は教えたでしょう?」
「でも・・・」
「良いんだ。お前が天使と闘う事なんて無いのだからね」
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「どこに行くんですか? かあさま」
「お前が帰る場所はここだけだ。それを解って」
「・・・かあさま」
「あなたが何者だってココにいて良いのよ。
だから、アルカデイアを滅ぼさなきゃいけない」
「でも私は・・・」
「ルージュ。最後はあなたが決めて良いわ。
私とは違う道を選んでも良い。
ただ、その時は・・・解ってるわね?」
「・・・・・・」
***
「貴様・・・我らが盟主様の命令を破り、
奴らに闘いを挑もうというのか?」
そこは冷たい床と最新鋭の設備が整った場所。
辺りの壁にはセンサーや様々な機械が並んでいる。
男女がフロアのある一室の前で話を交わしていた。
「貴様では話にならんな・・・ルシファーに会わせなさい。
腐抜けた精神に活を入れてやるわ」
女性はその男にそう告げた。
男は何かを言おうとしたが女性の気迫で何も言えない。
言われるままに奥の部屋へと入っていった。
そして女性も奥へと入っていく。
その部屋には巨大なコンピュータが並んでいた。
中央にはソファーがあり、誰かが座っている。
女性はそこに座っている者と向き合った。
「相変わらず人間くさい部屋ね・・・ルシファー」
「ふ・・・人間がこのテクノロジーを得るには、
後数百年は時を要する。一緒にしないでよ」
「どうして奴らを滅ぼそうとしない?
我らはお前に従って闘いを始めた。
そのお前がどうして躊躇っている・・・!」
「ためらってるわけじゃないよ。
ただ、僕らは天使と闘ってるワケじゃない。
奴と・・・神と闘ってるんだ。それを忘れたの?」
女性は問答無用とばかりに、
ルシファーに対して炎を具現する。
だがルシファーはそれを触れもせずに相殺した。
「ちょっと・・・闘う相手を間違えてるんじゃない?」
「そうでもないわ。盟主ルシファーを倒せば、
天使との闘いに異を唱える者も居なくなる」
「・・・へぇ、面白い考えだね。
でも忠告させて貰えれば・・・無茶だよ」
「そうかな?」
女性はさらに気迫を漲らせる。
そして先より大きな炎を具現して放った。
丸く太陽のような黒い炎。
だがルシファーはソファーから立ち上がる事もなく、
それを片手で粉砕する。
「ふむ・・・強くなってるね。
相手が僕じゃなければ消し炭になっていただろう」
「ば、馬鹿なっ! 最高のイメージだったはずだ」
「うん、最高だね。でも最強じゃない。
最強って言うのは・・・」
片手から放つ衝撃波。
それは手加減した事の解るものだったが、
女性をはじき飛ばす程の威力を備えていた。
壁に強く身体を打ち付けながらも女性は立ち上がる。
「さすが、宵の明星と言った所か・・・」
口元の血を拭うと再び闘おうと構える女性。
しかしそれ以上ルシファーが闘う気はなかった。
「悪いけど、君には少し頭を冷やして貰う必要があるね」
「な・・・に?」
「縛、絶、掌・・・そして封。
永遠ではなく、有終の眠りに就け」
女性の身体が意志とは別に動かなくなる。
さらに女性は全ての力が抜けるのを感じていた。
一言ずつに充分な言霊が込められている。
それに抗う事も出来ず、女性の肉体に異変が起きた。
まるで砂の様に身体が崩れていく。
精神体のままルシファーに掌握された女性は、
そのまま意識を失っていった。
「・・・おやすみ、終末を告げる獣よ」