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頑張れ、西園寺先輩!

著作 早坂由紀夫


第二話
「保健室にて(T)」


 第二運動場。
 そこで俺は女神に会ってしまったわけだが……。

 どうやら彼女は意外と多くの男子に
 狙われてるみたいだった。
 頭に来る。皆、アイドルみたいに扱いやがって。
 あの子は普通の女の子じゃないか!
 そりゃ、可愛くて勉強も出来て運動神経も良いけど。
 とにかく俺はファンと同等に見られるのが嫌だった。
 だってファンじゃ未来はない。
 やっぱり男女は付き合ってナンボだよな。
 表だっては普通に接すればいいんだ。
 その上でこ、こ、告白を……。
「うぉおおっ」
 やべえ。危なく発狂する所だった。
 俺が告白なんてがらじゃねえよな……。
 バスケをやりながらそんな事を考えていた俺は、
 思い切り指にボールが直撃してしまう。
「うぐあっ……」
「馬鹿。突き指しただろ」
 圭吾の奴にめざとく指摘された。
 仕方なく、俺は保健室に行く事にする。


 保健室には何故か高天原さんが居た。
「あれ、西園寺先輩」
「どうしてこんな所に居るの?」
「いや……この子の付き添いで」
 彼女の隣に座ってるのは知らない女の子だった。
 待てよ? そういえばブロマイドにのってた様な……。
「あ、私は如月紅音です〜っ。
 へぇ〜、凪ちゃん西園寺先輩と仲良かったんだぁ」
「紅音……何か変な事を考えてない?」
 なんか女の子同士のじゃれ合いって良いなぁ。
 男と違って華がある。
 まあ高天原さんだし、当然だよな。
 そこで彼女は俺の手に気付いた。
「突き指ですか?」
「えぁ、格好わりぃけど……弘法も筆の誤りって奴だよ」
「そんな。格好悪くなんて無いです。ね、紅音」
「うん。私なんて料理しようとして、
 手が無くなりそうになった事あったもん」
「紅音……それはね、下手の横好きだからでしょ」
「そ、そうかも……」
「とにかく、格好悪くなんて無いですよ。
 一生懸命な人は、格好良いです」
「あ……うん」
 なんか凄く勘違いしそうだ。
 一生懸命な人が格好良いと言ってるんであって、
 決して俺の事を格好良いと言ってる訳じゃない。
 そうだよ……な?
「凪ちゃんが誉めるなんて珍しいねぇ〜。
 私なんていつも怒られてばっかりなのに……
 もしかして西園寺先輩、特別扱い?」
「ち、違うっ! 紅音は誉められる事が少ないだけでしょ!」
 この二人は俺の心臓を止めようとしてるんだろうか。
 高天原さんが俺の事を意識してると思わせるかの様だ。
 勘違いしてはいけない事は解ってるが……難しい。
「先輩、誤解しないでくださいね?」
「うん。解ってるよ」
「あ……いや、別に変な意味じゃなくて、
 先輩のコトは好きな方ですよ?」
「……え?」
「えぇ〜〜〜〜〜!?」
 俺より凄い反応をしたのが如月さんだった。
 驚きの表情で高天原さんを見つめている。
「凪ちゃん、西園寺先輩が好きだったんだ……」
「そ、そう言う意味じゃないんですよ?」
「……わ、解ってる」
「紅音〜っ。あんまり変な茶々入れないでくれる?」
「も……もしかして頭ぐりぐりしようとしてる?」
「だいせーかいー」
 高天原さんは如月さんの頭を
 げんこつで挟んでグリグリしていた。
 さて、俺は突き指の手当しなきゃな。
 じゃなきゃ舞い上がって飛んでいってしまいそうだ。
 すると彼女がこっちに気付いてやってくる。
「私がやりましょうか?」
「え?」
「手の怪我は一人じゃ手当しにくいですから」
「いたぁ〜……凪ちゃん、私も手当して〜」
「紅音は自業自得」
 そう言うと彼女は俺の手に触れる。
 少し冷たくて、すべすべしていた。
 間近で見ると肌はきめ細かく、
 まるで同じ人間には見えない。
 天使という単語が浮かんでしまった。
 だが俺はそんなポエミィなキャラじゃない。
「はい。終わりです」
「あ……うん、ありがとう」
「いいえ。気を付けてくださいね」
 にこやかに微笑む高天原さん。
 こんな下々の者にまでそんな笑顔を……。
 と、やばいやばい。
 危なく一ファンに堕する所だった。



 保健室から凪と紅音が出てくる。
 凪はどうにも頭を抱えてしまっていた。
(男同士で好きだっていうなら仲良いって意味だけど、
 この状況で言ったのは失敗だったなぁ〜。
 まあ、西園寺先輩は硬派な人みたいだし平気か)
「凪ちゃん、先輩のコト考えてるの?」
「えっ? ち、違うよ。紅音の事を考えてたの」
「わたし〜? もぉ凪ちゃんってば、照れるよぉ〜」

To be continued→