一月一日、元旦。
凪達は集まっておせち料理等を楽しむ。
正月の仕組みを知らないカシスも、
餅を喉に詰まらせたりしながら楽しんでいた。
食事を終えた後で部屋に戻ってくると、
彼女は急に正月の事を勉強すると言い出す。
そしてカシスは本を何処かから持ってきて読んでいた。
主に正月がテーマのエロ本などだ。
それを凪は得も言われぬ不安と共に見つめる。
「……姫始め?」
嫌な単語が聞こえて凪は部屋を出ようとした。
「待つの、凪」
「な……なに?」
振り返るとカシスは普通に服を脱ぎ始めている。
凪は服を着せようかそのままドアから出ていくか考えた。
逡巡したのち、とりあえず戻ってカシスの服を手に取る。
「まあ服を着よう」
「凪って酷い奴なの」
「え?」
「女の子がこうやってアピールしてる時にそんな事、
私が魅力ないって言ってるみたいなものなの」
カシスは俯いて顔を両手で隠した。
嘘なのは解っている。
ただ一理あるとも思っていた。
「だからって、正月にいきなり……」
「その為に姫始めって言葉があるの」
「いや、何か違う」
すでに上を脱いでいるカシスは、
見えているブラジャーの紐を指で引っ張ってみせる。
それから凪の身体に艶やかに抱きついてきた。
「なんていうか……そういう事されても困るって言うか」
「困る必要はないの。やる事をやればいいだけなの」
直接的な事を言われて凪は頭を抱えてしまう。
とはいえ凪は執拗にくっついてくる胸に、
半分は理性を奪われていた。
だがカシスは身体をすり寄せてくるだけで何もしない。
「たまには凪にして欲しいの。姫始めだし」
「……そんな事を言われても」
「考えてみればいつも私がするばっかりで、
凪は何もしてくれてないの」
「それは……そうかもしれない」
「さ、早くするの」
近くの椅子に座るとカシスは真っ直ぐに凪を見つめた。
仕方ないと割り切り、或いはそうする事で理由付けして、
凪はカシスの唇に軽くキスをする。
ブラを脱がせると露わになった胸に優しく触れた。
「なんか、もどかしいの」
「そんな事を言われたって、椅子の上に居たらやりにくいよ」
「じゃあやりやすい事をすればいいの」
カシスが何を意図して言ってるのか気付くと、
椅子の前に膝をつきスカートの中に顔を滑り込ませる。
下着の上から凪はその女陰へと唇を這わせた。
「ふっ、んん……」
それはカシスの視点からすれば実に不思議な物だ。
髪の長い女性が自分のスカートに顔を入れてるのだから。
徐々に染みを作っていく下着へ凪の舌が入ろうとする。
戸惑いながら下着の中に侵入しようとする動きは、
もどかしいながらも悪くない愛撫だった。
「はっ……なぎ、下手くそなの」
彼女の言う事が強がりなのは凪が一番解っている。
凪は隙間から滑り込むように舌を入れた。
その茂みを割って入るとそれを吸ってみる。
「ひゃうっ、凪が私のを……吸ってるの……。
ああぁ……ちょっとは良い感じかも、しれなくもないの」
さらに凪は舌を陰核へと伸ばした。
その動作でカシスがびくっと震えるのが解る。
凪の頭を押さえる様にして、身体を仰け反らせた。
なにより彼女の興奮を誘うのは、
凪が跪いて自分に尽くしているという事実。
それが沸き出すような快感を与える。
「あ、はっ……」
こんな正月でいいのかと考えながらも凪は愛撫を続ける。
そうやって具合を見て愛撫を止めようとすると、
カシスが強く頭を押さえた。
「このまま、んっ……このままで、イカせて欲しいの」
「……うん」
手でカシスの下着を払いとろうとする。
その思惑に気付くと彼女は身体を浮かせた。
下着を膝の辺りまで持ってくると、
足を持ち上げてそこからまた愛撫を始める。
ぴちゃぴちゃと言う音がカシスの耳に聞こえてきた。
多少の恥ずかしさはあるものの気持ちよさが先にくる。
身体が熱を帯び、昇り詰めるような快感に浸された。
それなのに何処か泥の沼に浸されていくようでもある。
次第に視界がぼやけるようで、
視点が合わなくなっていった。
「い、あっ……」
一際高く声を上げると飛び跳ねるように身体を反らせる。
椅子がガタッと動いたので慌てて凪は椅子の足を掴んだ。
見るとカシスの目は虚ろに宙を仰いでいる。
近くからティッシュをとってくると、
丁寧に凪はカシスの秘部を拭いた。
それから自分の顔に付いた愛液も拭きとる。
「はあ。姫始めって良い物なの」
「ったくもう。姫様気取りですか……」
凪がその場に座るとカシスはその隣に座った。
「それじゃ今年も明けましておめでとうなの」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そんな挨拶の後に口づけを交わすと、
凪はゆっくりとカシスを押し倒す。
カシスは口元に微笑みを浮かべながら言った。
「珍しく凪がやる気なの」
「そりゃ、ね……」
ただ愛撫をしただけでは満足いくはずもない。
何度か軽いキスを重ねるとお互いを見つめてみた。
それからカシスは凪の首筋に手を回す。
「段々と恋人っぽくなってきたのかな……」
そう言う凪の表情は決して良いものではなかった。
なぜなら、それは紅音から遠ざかるという事だ。
紅音を過去に埋めて、先へと進んでいくという事だ。
どうしても紅音の事だけは吹っ切れない。
身体はカシスと数え切れないほど重ねてきたというのに、
それだけは凪の中で超えられない一線として残っていた。
迷いが顔に出たのかカシスの顔が曇る。
「凪が戸惑う必要はないの。私と凪は、期限付きの恋人。
何も考えなければ、勝手に過ぎ去ってくの」
「解ってるよ。解ってるんだ」
二人に終わりが来るという事は暗黙の了解だった。
それが前提だから二人はこの関係を続けている。
実際の所、これ以上の関係を続ける必要性はないのだ。
ただ、そこまでを口に出す事はしない。
「まあ後で凪が本気で私を好きになっても、
私は女みたいな男なんて願い下げなの」
「シリアスな事を言ったかと思えば……」
「ねえ、そんな事より押し倒しておいてこのままなの?」
「う……」
「今は今だけ。これからの事なんて、悩むだけ損なの」
「そう……かもな」
刹那主義とも取れるカシスの考え。
彼女は自分の中にある色々な気持ちを考えた事がない。
それにクリアとクランベリーの事を、
なるべく考えないようにしている。
考えれば耐えられない事だと解っているからだ。
彼女には親もなく、誰に頼る事もできない。
友人は皆、目の前から居なくなってしまった。
そんな状況で凪は自分の全てを受け止めてくれる。
一人になったカシスに唯一寄り添っていてくれる。
優しく彼女を柔らかい逃避の世界へ佇ませてくれる。
だがそうやって凪に依存している事を認めるのは、
カシスにとってはあまりに惨めな事だった。
それでも少しずつ、凪は彼女の心を埋め尽くす。
本当はこの関係を始める前から、
少しだけ彼女の中で予感はあった。
というよりもそれは当たり前の事なのかも知れない。
身体を重ねる相手に情を抱かないまま、
その関係を続けられるはずはないのだから。
だからカシスは全てに蓋をした。
そして今という時間に二人で溺れていく。
ゆらりとたゆたう肌色のシーツの様なうねりの中へと。
|