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インフィニティ・インサイド

著作 早坂由紀夫

Chapter40
「アルカデイア」

10月06日(月) PM14:46 晴れ
寮内自室

「え・・・今なん、て?」
俺がリヴィーアサンを殺す?
どういう、意味だ?
それって・・・つまり、俺が紅音を殺すって事だ。
「馬鹿げてるよ、そんな事が出来るわけない・・・!」
どうしてそんな事が言えるんだよ、イヴ・・・。
もう俺は紅音の心を殺してしまってる。
それなのに今度は、今度は紅音の身体を殺せって?
「やるしかないんだ。私では触れる事も出来ない。
 それにな、インフィニティも所在地は誰も知らないのだ。
 アルカデイアと同じ理が働いている。
 お前以外に辿り着ける者はいないんだ」
その言葉に俺が反応するより早く、
ラファエルがイヴに聞いた。
「イヴ、それは凪君には残酷すぎるよ・・・。
 解ってるんでしょ、凪君の辛さは」
「だが・・・凪なら紅音を救えるかもしれない。
 その望みがルシードにはあるんだ」
「それ、どういう・・・」
イヴは俺を何かの含みを持たせた表情で見てる。
一体なんの望みがあるっていうんだ?
時間でも巻き戻すっていうのか?
「・・・恐らく紅音の精神はまだ死んではいない。
 可能性はお前に話せる程確かな物ではないが、
 もともと紅音の精神は奴の精神を押さえていたはずだ。
 つまり紅音が意志を取り戻せば、
 リヴィーアサンを再び封印する事が出来る」
「紅音が、意志を取り戻せば・・・そしたら紅音は」
「ああ。元に戻るかもしれない。
 ただそれが出来るのはルシードの力があってこそだ。
 ルシードでなければ会話すら出来ずに塵になるだろう」
針の穴から見えてる様な光。
確証のない言い方をする辺り、
本当に可能性は低いんだと思う。
俺にはそれに賭けるなんて出来そうになかった。
そのイヴの言葉は、俺に何かをさせようとはしてくれない。
「もう良いんだ。私は、紅音を殺したのよ」
「・・・凪?」
「嫌なんだよ。何かをして傷つくのは、もう嫌なんだ」
それが俺くらいしかできない事だっていうのは解る。
けどもし失敗すれば俺はもう一度紅音を殺すのか?
そんなコトしたくない。
したくないんだよ・・・。
「貴様・・・いい加減にしろっ!」
大声で俺の襟首に掴みかかったのはイヴだった。
珍しく感情を露わにしてる。
俺は間近で怒鳴り散らすイヴを驚きの表情で見ていた。
「確かにお前のせいで紅音が死んだのかも知れん。
 私には窺い知れぬ悲しみを抱えているのかも知れん。
 でも今その紅音を助けるチャンスがある!
 お前はそれをやりもしないで諦めるというのか!?
 っ・・・身勝手すぎるぞ!」
「イヴ・・・」
乱暴に俺を放すとイヴは言う。
「悲しみたければ幾らでも悲しむがいい。
 だがな、その前にやれる事はまだある。
 お前が紅音にしてやれる事はまだあるんだ・・・!」
紅音にしてやれる事がある。
あいつを元に戻せる可能性が1%でもある。
確かに・・・そうなんだよな。
それはゼロじゃない。
俺が紅音に出来る事があるっていう事なんだよ。
あいつに償うチャンスはまだあるんだ。
きっと紅音は俺を許してくれないと思う。
謝る事さえ叶わないかもしれない。
二度と口を利いてくれない可能性だってある。
けど・・・あいつにもう一度会えるならいいじゃないか。
このまま紅音の事を悔やんでるよりずっといいはずだ。
俺は、紅音が紅音で居てくれる為に・・・。
「解った。やれるだけの事はやってみる」
「そうか・・・」
「ごめん、それにありがとう・・・イヴ」
「気にするな。お前の力が必要なのは私なんだ」
それは俺にとって償いの様な気がしていた。
差し違えても良い。
きっとそのくらいの覚悟でもなければ、
リヴィーアサンとは闘う事さえ出来ないだろう。
紅音の顔でもその殺気は異常だった。
それに・・・あいつを殺してしまうのなら、
俺はその事実に耐えられない。
「ラファエル、これは私の独断だが・・・」
「解ってるよ。凪君の覚悟に水差したりはしない。
 僕も出来る限り助勢させて貰う。
 みっき〜には僕の方から伝信しとくから安心して」
「すまない・・・」
そして俺は肉体のままアルカデイアに向かう事になる。
特例らしいがそれもルシードだからという話だ。
とりあえず眠る様に言われて、
色々あって参っていた俺はすぐに眠りに就いてしまう。
夢の中で俺は紅音にあった気がした。
あのいつもの笑顔で俺に色んな事を話す。
学園であった些細な事。身近であった事。
いつも通りのとりとめのない紅音の話。
俺はそれをただ黙って聞いていた。
それだけの夢。
なのに悲しくて、嬉しくて・・・やるせない夢だった。

10月06日(月) 生誕の日 PM17:36
アルカデイア・辺境・セフィロトの樹

終わりのない様な浮遊感。
その後で気付くと俺は不思議な場所に立っていた。
少し温かい空気。どこか軽く感じる重力。
辺りはまるで夢の中の様な雰囲気を帯びている。
俺はふと空を見上げてみた。
・・・空に太陽がない。
遙か向こうに見える地平線らしき物。
その下に光り輝いてる物があった。
まさか、太陽が地面より下にあるのか?
それ以前に雲がその太陽を覆っている。
つまり雲も海の様に地面より下に見えるのだ。
頭上は夕焼けの様な表現しがたい色に包まれてる。
そのまま夕焼け色とでも言えばいいのだろうか。
けれど太陽がないせいかそれは不自然に見えた。
何故そんな色なのか全然わからない。
大地はといえば全てが砂漠地帯だった。
サハラのど真ん中に置いてきぼりになったような気がする。
だが振り返った時にそれは払拭された。
あり得ないくらいに巨大な樹。
ここからじゃ端が見えないくらいに大きくて、
青々とした葉の様な物が遥か上空に幾つもある。
その樹とそれをすっぽりと包んでいる穴。
どこまで続いているのか解らない深さと高さ。
ここは間違いなく俺の知ってる世界じゃない。
俺がその樹を眺めていると隣で声が聞こえてきた。
「ようこそ、アルカデイアへ」
「ここが・・・アルカデイア」
「そう。そしてこれはセフィロトの樹だ。
 一説では全ての場所と繋がっていると言われている」
「・・・セフィロトの、樹」
どこかその言葉に懐かしさを感じた気がした。
そんな風に俺に話しかけてきたのはイヴだ。
だが自分でもなぜイヴだと解ったんだろう。
その姿は葉月の物ではない。
ナチュラルな長い茶髪の女性。
ストレートに髪を下ろしてバレッタを付けている。
服装も人間じゃない様な、不思議な格好だった。
羽衣の様な服装で露出度が高い。
さらに背中には真っ黒い羽根が付いていた。
そういえばリヴィーアサンが母親だと言っていたイヴ。
もしかして・・・。
俺がその羽根を見ている事に気が付いたのか、
イヴは醒めた様に笑うと言った。
「ここまで来た以上、隠しておく事も出来ないな。
 ・・・私は正式なアルカデイアの者ではない。
 つまり天使と呼べる存在ではないのだ」
「ちょっと待ってよ。天使じゃないって事は・・・」
そんな俺の疑問をイヴは手で制する。
その後でふぅ、と一息ついて彼女は言った。
「凪、ここから数日かけて宮殿まで歩かねばならない。
 お前を担いで飛ぶわけにもいかないからな。
 だから・・・歩きながら話さないか?」
「・・・わかった」
俺とイヴは静かに砂漠を歩き始めた。
平坦ではないその道は、容赦なく体力を削り取っていく。
照りつけてくるわけではない太陽。
それなのに暑いという点ではあまり変わらなかった。

10月06日(月) 生誕の日 PM17:48
アルカデイア・辺境・クローバー砂漠

「私は元々、アルカデイアで生まれ育ったらしい。
 だが赤子の内に現象世界で悪魔にさらわれ、
 インフィニティに連れていかれたのだ」
現象世界とは俺達が暮らしてる場所の事だそうだ。
物理的な力が大きく干渉する世界だからだろうか。
と、そこまで言うとイヴは自分の手を見つめる。
まるで何かを懐かしむ様な、不思議な表情。
歩きながら俺はそんなイヴの表情を見つめていた。
「酷い物だったよ、インフィニティでの生活は。
 私の良心を一つ残らず払い取っていったのだからな」
「・・・イヴ」
口に出してみたはいいが、何を言えばいいか解らない。
その辛さは俺の想像を超える物なんだろう。
だから、何も言えなかった。
「そうやって何も知らず悪魔として育った私に、
 本当の事を教えてくれたのはあの人だった。
 そして・・・全てを知った私は逃げようと試みた」
砂漠は広大にうねりを作って拡大している。
その中でイヴは正しい道を選んで歩いている様に見えた。
俺には全て同じ砂に見えるけど。
そんな風に隣を歩くイヴの瞳は、
何処か遠くを見ている気がした。
「・・・だが悪魔はそんなに甘くはない。
 まだ子供だった私が逃げられるはずもなかった。
 それから私はあの人に匿って貰いながら、
 インフィニティで暮らす様になったんだ。
 あの人には色んな事を教わったよ。
 黒い炎、矛盾する黒炎もあの人が教えてくれた力なんだ」
「え、じゃあ・・・リヴィーアサンも黒い炎を?」
「あの人の炎は私と違って完成された炎だ。
 それに・・・私はあの人の教えの通りに闘ってるに過ぎない。
 矛盾する黒炎、黒い炎も・・・悪魔であるあの人が、
 私と天使が闘ったりする事の無い様に教えてくれた力だ・・・」
イヴは手をぎゅっと握りしめた。
悔しいのだろうか。
それともやるせないのだろうか。
その表情から考えは読みとれそうになかった。
リヴィーアサンはイヴにとって、
一言では説明できない関係にある悪魔なんだろう。
「どうして私達は間違った道を進むのだろうな・・・。
 結局あの人は天使と闘う為、ルシファーに直訴しに行った。
 恐らくはその時に紅音の身体に封印されたんだろう」
「・・・・・・」
「私はその後、死に物狂いでインフィニティから逃げ出した。
 そして神の導きのままにアルカデイアに辿り着いたんだ」
その話は少し奇妙な気がした。
いきなり不明瞭な部分が出てきている。
「ねぇイヴ、神の導きってどういう事?」
「他に表現のしようがないのだ。
 お前もここにどうやって来たか解らないだろう?」
そういう事か・・・。
つまりそこだけはどうしても不鮮明だという事らしい。
しばらく無言のまま歩き続ける。
イヴの過去は思ったよりもずっと複雑な物だった。
そして思ったよりもリヴィーアサンが
邪悪な存在ではないと知らされる。
・・・立場的にはイヴが一番複雑なのかもしれないな。
「あれ以来、私は悪魔であった頃の
 自分の罪を贖う為に闘い続けている。
 そう・・・だから幾ら母様と言えど、
 私は躊躇うわけにはいかないんだ。
 殺し合いに感情はない。それがあの人の教えだから」
「・・・かあさま?」
「ああ、あの人の事を昔そう私が呼んでいた。
 あの人は私をイヴなんて呼びはしなかったがな」
まるで自分がイヴと呼ばれるのが嫌みたいだ。
考えてみると俺ってずっとイヴって呼んでるよな。
「じゃあ、なんて呼んでたの?」
「私の本当の名前だ・・・もう要らなくなった名前さ。
 今は神が私をイヴと呼んでくれている」
「か、神って・・・会った事あるの?」
「言わなかったか?
 私は神に悪魔と闘うという宿命を授かったのだ。
 今まで、過去に数度だけは会った事はある」
そんな事は一言も言ってない気がする。
でも・・・知らなかった。
神なんていう存在は幻だと思ってた。
本当にいたなんて物凄い事だ。
「天使は皆会えるものなの?」
「さあな。殆どの天使とはまともに話した事がない」
「・・・え?」
だってイヴ自身も天使だよな。
それなのになんで話したりしないんだ?
仕事仲間みたいなものじゃないのか?
「一度とはいえ悪魔に身を堕としたものは、
 私の様に羽根が黒く染まってしまう。
 そうしたら同じ天使としてなど見てくれはしないんだ」
淡々とそう言うイヴ。
だけどそれって・・・やっと帰ってきた故郷なのに、
それじゃ悲しすぎるんじゃないか?
・・・どうしようもないんだろうな、イヴには。
ただ天使として悪魔を駆逐する事で誠意を示すんだ。
それだけが自分の真実だと告げたくて。
「同情はしなくていい。
 それよりも紅音の事を強く想っていてくれ。
 私達の闘いにおいて、想いは強く影響する」
「・・・うん」
言われなくても紅音の事を忘れたりはしない。
そして誰よりも強く想ってるはずだ。
想いが闘いの勝敗を決めるなら俺は絶対に負けない。
そう思えるくらいに。

10月09日(木) 躍動の日 AM11:24
アルカデイア・フロスティア・宮殿への一本道

思ったより時間をかけて宮殿とやらに到着した。
だがここからさらに道があるのには辟易とさせられる。
辺りには民族のテントみたいな家が沢山あった。
イヴに言わせるとそのテントは、
人間が作るには百年早い代物らしい。
なんと冷暖房完備の上に移動可能の住居だそうだ。
電気をどこから引いてるのかと聞いてみる。
するとそれ自体を使ってないと言われた。
酸素熱を使ってるとか言ってた気もする。
とにかく俺達は丘の上にある宮殿を目指して歩いていた。
出会う天使達はイヴを見ても気にしない。
いや、正確には居ない者として扱っていた。
イヴも話しかける事はしなかったし、
俺もそいつら天使に話しかけたりはしなかった。
丘へは階段を使って昇っていく。
何千段もある階段は見るだけで万里の長城を思わせた。
というよりも兎跳びさせられそうな感じだ。
昇っていくたびにその宮殿のディティールが見えてくる。
壁は石かと思ったが、何か妙な金属を使っていた。
常に緑色の光が壁を走り回っている。
凄く近未来的なイメージだった。
「面食らったか。天使も悪魔も、
 人間以上のテクノロジーを持っている。
 科学とは少し異なった物だがな」
確かにそれは近未来的ではあるが、
どこか科学的な硬さや冷たさが無かった。
まあ、色調が明るいだけの様な気もする。
そして俺達は宮殿の入り口から堂々と入っていった。

10月09日(木) 躍動の日 PM13:21
アルカデイア・エウロパ宮殿・大広間

天使はここをエウロパ宮殿と呼ぶらしい。
遙か昔から建造されていたという場所。
いわば古代遺跡の様なものなんだそうだ。
そう言う場所を普通に使ってる辺りが人間とは違う。
内装は綺麗にしてあった。
絨毯が引かれていたり、綺麗な壺が置かれてたり。
思ったよりも中は現象世界と大差は無さそうだ。
だがここで仕事をしている天使達は、
人間と違ってどこかのんびりとした顔をしてる。
イヴから言わせれば天使は堕落しつつあるのだという。
勿論、真面目に仕事をしてる天使も沢山いた。
けどこういうのを見てると人間と変わらない気がする。
と、階段らしき物にイヴが乗ったと思うと一瞬で消えた。
俺も慌ててそれに乗る。
すると一瞬で階段の終わりに付いていた。
「こ、これがハイテクノロジーなんだ・・・」
「馬鹿を言うな・・・これはただのエスカレーターだ」
「エスカレーター?」
俺が使った事のあるエスカレーターじゃないぞ。
これはそれより全然速い。
恐ろしいと思うよりも速かった。

10月09日(木) 躍動の日 PM13:34
アルカデイア・エウロパ宮殿・大天使長室

静かな宮殿内を突き進んで行くと、
そこにはやけに古びた扉があった。
部屋のプレートには大天使長室と書かれている。
大天使長って言うくらいだから凄い奴が居るんだろう。
心なしか緊張してきた。
イヴはそんな俺の気持ちをよそに、
思い切りドアを開け放って入っていく。
ドアの中はまるで校長室の様な部屋になっていた。
・・・そう考えると緊張した俺が馬鹿みたいだ。
奥には床と一体化してる机がある。
そしてそこで男が座りながら何かをしていた。
「久しぶりだな、ミカエル」
「・・・イヴ、それに凪か」
ミカエルと呼ばれた男は俺達を見ないで返事をした。
その視線の先には書類の山がある。
なんだか急にこの宮殿が会社に見えてきた。
それはともかくとして、だ。
この男は俺の事を知ってる。
どうしてなんだろう・・・?
そんな俺の疑問に気付いたのかミカエルは言う。
「凪、お前が不思議がるのも仕方ない。
 俺達はずっとお前を見守ってたんだからな。
 まあ正確にはラファエルがだけどな」
「な・・・なんだって!? イヴ、本当なの?」
「・・・いや、私も初耳だ」
イヴも困惑した顔でミカエルを見ている。
当の本人はそう言ったきり、
書類にハンコを押し続けていた。
俺達はソファーに腰掛けるとその仕事を横目で見る。
金髪で長髪。
まるでロッカーみたいな奴だが、
それよりも紳士って言うイメージが先に立つ。
だがその黒いスーツは喪服かホストを思わせた。
「ラファエルの事はイヴ、お前には言ってない。
 信用できねぇ奴に重要な事は言うはずないだろ?」
「ちょっとあんた・・・!」
俺が文句を言おうとするのをイヴが手で制する。
つまり、言われ慣れてるって事だ。
だが俺の態度が気にくわないのかミカエルが俺を睨む。
そして蔑む様な表情で俺に言った。
「怒ると美人顔が台無しだぜ?
 とりあえず手は貸してやるから、
 大人しく待ってな・・・お嬢ちゃんよ」
一言一言が妙に頭に来る奴だ。
こんなむかつく奴はある意味珍しい。
しばらくの間、俺とイヴは無言でミカエルの作業を待った。
少しの時間が経った後、ふいにミカエルが立ち上がる。
「今日中に終わりそうにねぇな。
 仕方ない、お前らの方を先に済ませてやるよ」
「どうも」
俺は怒りを抑えて、軽く微笑みながらそう言った。
「とにかくルシードとして覚醒したいんだろ?
 手っ取り早い方法があるぜ、命懸けだがな」
「構わないよ、さっさとインフィニティに行きたいから」
そう言うとミカエルはむすっとした顔をする。
だが特に嫌味も言わずに奥の部屋へと消えていった。
その後でイヴがため息を漏らす。
「あまり事を荒立てないでくれ。
 ミカエルはああ見えても4大天使の主格なんだ」
よく解らないが、要は偉い奴だという事だろう。
俺としてもあまり文句を言うのも大人げないと思った。
それにそんな事でこの先に支障が出たら困る。
と、ミカエルが何かを持って部屋に戻ってきた。
奴が手に持っているのは妙な球だった。
イヴが少し驚いた表情をする。
「これは苦行のスフィア・・・」
「そうだ。凪、お前の力は自身の危機によって覚醒する。
 つまりこれからお前には何度も死にかけてもらう。
 或いは死ね。その疑似体験をする為のスフィアだ」
さらっと俺に暴言を吐きやがった。
まあともかくその球は直接脳にリンクして、
ヴァーチャルな体験をする為のツールらしい。
苦行のスフィアとは苦しいとされる出来事を集めた球。
天使の重罪を裁く際に刑罰として使われる代物だそうだ。
しかも実際に死ぬ奴もいるという。
天使ですら死ぬ奴がいるって事は、
俺なんか凄くやばい様な気がする。
だが俺が躊躇っているとミカエルがにこにこと笑い出した。
「てめぇ、人が時間裂いてやってんだ。
 やるならやれボケ。そして死ぬならさっさと死ね」
とんでもない事を言い出すミカエル。
確かに一理ある・・・はずがねぇ。
理不尽な言葉だった。
う〜ん、先にミカエルで試してみたい。
けど・・・こんな事をしてる間も、
紅音の姿でリヴィーアサンは何かしてるんだよな。
そうだよ、一刻も早く俺は奴に会わなきゃいけない。
俺は決心を付けるとその球の中心にあるボタンを押した。
すると淡い光と同時に意識が遠のいていく。

Chapter41へ続く