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朱い悪魔

著作 早坂由紀夫

Chapter10.5
「彼女とその行動に於ける考察」

 

いつもの様に男を引っかける為に出かける。
彼女はそうして街をぶらついていた。
「ねぇねぇ、君って今ヒマ?」
化石の様な誘い文句だが彼女としては好都合。
あっちからわざわざ誘ってきているのだから。
「うん、ヒマ。ねえ、何人いるの?」
「え?」
「何人でも良いよ。えっち好きだから」
誘い役の男は生唾を呑み込んだ。
今までそんな返答を返した奴なんていなかったからだ。
ワゴンで待機している仲間達もそんな経験はない。
だから彼らは少し舞い上がっていたのだ。
そして食いついた獲物を逃すまいと考えていた。
今までの様にビデオを録画しておけば、
また一人哀れな女が増えるというわけだ。
和姦とはいえどそれを流通経路に流すと脅せば、
大概の女は逃げられなくなる。
そうすれば後は好きに楽しむわけだ。
自殺してしまった女もいたし
性奴隷として生きる事になった女もいる。
だがそんな事は彼らには関係なかった。
ただ女は性の道具。
それだけにしか考えていないのだから。
一人の少女がそんな奴らのいるワゴンへと乗り込んだ。
最初から性交目的だという話を聞いていたので、
ワゴンに乗っている男達も容赦はしない。
すぐに彼女の服を脱がせて愛撫へと移った。
余った奴らは口を塞ぎ、手を塞いでいく。
輪姦の見本みたいな光景だった。
少女は喉の奥まで深く男根を入れられて噎せ返りそうになる。
だが男達に容赦はなかった。
むしろそんな表情さえもが興奮を誘うのだ。
「んっ・・・ふぁ・・・」
少女から声が漏れる。
それを皮切りに我慢できなくなった男が、
陰部へと自分の分身を突き入れた。
その蠕動とリンクする少女の喘ぎがワゴンに木霊する。
ちょうどそのワゴンはある山の頂上へと向かって走っていた。
運転役の男がどうにも我慢できなくなって言う。
「ここらへんで一旦車を止めるぜ、
 お前らばっかヤッて不公平だ」
「OK〜」
簡素な返事の後、車は道路脇に停車する。
その間も少女は犯され続けていた。
何度か達しているのに少女に疲れの色はない。
しかも少女は全ての精子を膣内に受け止めていた。
「もう誰の子か解りゃしね〜な」
「大丈夫っ! この子の子供なのは確かだから」
「うわ、それウケる〜」
しばらくの間そんな饗宴が続いた。
そしてさらにある程度の時間が経過する。
なんと数人居た男達が先に音を上げていた。
「・・・もう終わり? 駄目だよ、絞り出してあげる」
「ちょっと、もう・・・うっ」
疲れ果てた男達からさらに口で精液を搾り取っていく。
彼女の技巧は卓越した物で、
彼らの男根はとどまる事なく勃起し続けた。
きっかけは彼女の一言だ。
「さあて、じゃあもういいわ。皆、用無し」
「・・・は?」
男達は何かを考えようとする。
だが異常な疲労の為にまともな思考が出来なかった。
少女の背中に奇妙な異変が起き始める。
羽根が生えていたのだ。
それも赤黒い羽根が。
その羽根で一人の男を包み込む。
「て、天使・・・?」
「残念。馬鹿は死にな」

ぐちゅっ!

男の身体が内部からはじけ飛んだ。
周りの男達に脳漿や骨、臓器などが飛び散っていく。
「ひぃ、ひゃぁあああああっ!」
声を上げる事は出来た。
だが誰もが腰を上げる事が出来ない。
そして一人ずつ、ゆっくりと少女の餌食になっていった。

 

彼女は薄々気付き始めていた。
元々悪魔は人間界に於いて根絶やしにされる運命。
自分も例外ではないのだ、と。
リリスは精神を二つに分けてカモフラージュした。
夜殺はその強大な力で自分の力を消す事が出来る。
でも彼女には何もない。
ただ狩られるのを待つだけ。
悪魔になれば全て忘れられると思っていた。
全てを超越する事が出来ると思っていた。
でもしがらみは彼女を死へと向かわせる。
そしてそれを誤魔化す為に快楽を求めた。
彼女は快楽の中に身を投じる事で全てを忘れようとする。
そんな自分の姿がかつての愛依那と被る事にも気付かず・・・。
悪魔の中でも彼女は特異な存在だった。
何しろ人間から悪魔に変貌を遂げた者など、
生粋の悪魔からしてみればゴミクズ同然だからだ。
悪魔からも爪弾きされ、人間にも戻れなくなった。
彼女はいつも学校の一番上に昇って夕日を眺める。
景色だけは彼女に平等に接してくれていた。
(・・・私がこんな事になったのは、凪さんのせいよ)
彼女はそう思いこむ事で自分を支えていた。
高天原凪を貶める事で自分が救われると思っていた。
そして自分と同じ所に深織を堕としてやりたかった。
だがそれは数日後に変化する事になる。

 

凪との再会。
自分の目的を伝える事は出来た。
だが彼女には何かしっくり来ないものがあった。
人間らしい感情。
凪の顔をもう少し見ていたかった。
彼の言葉をもう少し聞いていたかった。
(あり得ない。こんなの、嘘だ・・・!)
そして彼女はまた快楽へ逃げていく。
凪の存在はいつしか憎むべき者から愛しい人へと変わっていった。
凪だけは彼女を見る目がどこか優しかった。
彼女の一挙一動をしっかりと見つめてくれていた。
それだけが彼女の消え入りそうな心に明かりを灯していたのだ。
けれど彼女はもう人ではなかった。
それが彼女自身を苦しめる事になる。
人であれば、彼に好きだと言う気持ちを伝える事はなかっただろう。
なんという皮肉。
彼女は悪魔である故に凪への気持ちを言葉に出来る。
でも凪は人だ。そして彼女は悪魔。
どうしようもなく孤独にさいなまれた。
そして深織が羨ましいと思い始める。
人であって、凪の側にいる事の出来る深織が。
だから深織に怒りの矛先を変えたのだ。
深織をどん底まで堕として悪魔にする。
そうすれば彼女は自分の仲間が出来ると思った。
いや、正確には・・・道連れ。
静かに空を見上げる。
そう・・・全ては明日。
夜殺が上手くやっていれば彼女は夜殺と
学園内で落ち合う手はずになっていた。
ふと彼女は考える。
(死ぬのは恐ろしい。でも凪さんに殺されるなら・・・
 でもそれが叶わないのならせめて凪さんを私のものにする)
自分でもなんでそこまで凪を愛しているのかが解っていない。
ただ、そうする事でしか生きる意味を見いだせなくなっていた。
凪こそが彼女の全て。
そうしていないと彼女は孤独だった。
沈む夕焼けを見ながらうずくまってきゅっと口を結ぶ。
涙がこぼれてしまいそうだった。
彼女は人を殺す事に何も感じはしない。
けれどそれが彼女が流した涙のわけでもあった。
彼女はとても大事なモノを失くしている。
もう二度と得る事のない、大切なモノ。
あるのは生き急いだ身体と朱い羽根、
そして歪みきった凪への執着だった。
彼女は愛すると言う事を失っていた。
それでも彼女は凪を愛そうとしている。
その華奢な両腕を抱きすくめながら・・・。

 

Chapter11「絶望の学園遊戯(T)」に続く