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閑話休題(V)

著作 早坂由紀夫

Chapter37
「ポジ」

9月08日(月) PM18:42 晴れ
学園校舎・第二体育館

あの日の夜、私が鏡で見た自分の姿の酷かった事。
目は腫れぼったくって服はびしょびしょ。
あんな格好悪い所を見られたからか、
それともフィメールが死んだからなのか。
とにかく私はその日一晩中泣き続けた。
苦しいくらい涙が止まらなかった。
けどあの日から5日、少し私は変わった気がする。
「真白ちゃん、もう一度だって」
「はいっ」
凪さんは変わらず私に笑いかけてくれていた。
だから私もこの人を好きでいられるんだ。
舞台の上で練習を繰り返しながら、
私達は少しの間だけ愛し合っている。
演劇だけど、そこから愛が生まれるかも知れないもんね。
「なぁ〜ぎさんっ」
私は演技のフリをして凪さんの腕に思い切り抱きついた。
彼は困ってるみたいで照れた顔をしてる。
うん、今までよりもポジティブに行こう。
すると美玖ちゃんがやってきて私に言った。
「真白・・・良いわよ、その演技凄いわ。
 本当に凪に恋してる様に見えるわよ」
「はは〜、そうかなぁ?」
「ただヒロインは凪を呼び捨てにしてるわよ」
「あ〜・・・うん」
演技じゃなくて本気だから当たり前だけど・・・。
そういえば、まだ凪さんにはキスをやり直して貰ってない。
でもそれはまた今度で良いかなって思った。
それより今は頑張って劇を成功させたい。
そしたらその後で凪さんに・・・ご褒美とか貰っちゃったり?
ご褒美にキスしてあげるよ、みたいな。
「ふふふ〜・・・よ〜し、頑張りましょ〜ねっ」
「うん。そうだね」
私はこの笑顔がある限りなんだって頑張れる。
自分が吸血鬼でも人間でもどっちだっていい。
だって、凪さんはそんな事を気にしたりしないもん。
少しずつ私と吸血鬼の私は重なっていく。
その内に私達は一つになるだろう。
けどそれは悪い事なんかじゃないと思う。
自分らしい自分になるって事なんだ。
そんな事を考えていると、美玖ちゃんが私達に言う。
「さてと、二人とも。宜しくて?
 明日から照明やBGMも入るわ。
 間違えたら皆が迷惑する事になるわよ・・・凪」
「また私をピンポイント・・・」
凪さんと美玖ちゃんも少しずつ仲良くなってる気がした。
表向きはこんな風に毒づく美玖ちゃんだけど、
そこまで凪さんを嫌ってるワケじゃなさそうだし。
あんまり仲良くなっちゃうと困るけどね。
美玖ちゃんは普通に凄く可愛いから。
・・・ってまた私は恋人でもないのに嫉妬してるよぉ〜!
そうやって頭をかかえていると、
凪さんと美玖ちゃんが凄い目で私の事を見る。
「真白が壊れてるわ・・・凪のせいかしら」
「だからなんで私のせいなの・・・」
「わ、私・・・別に壊れてなんてないですよぉ〜っ」
酷いなぁ二人とも。
まったく、私は妄想ばっかりしてるワケじゃないよぉ。
そんな事を話しながら、その後すぐに私達はまた練習に戻った。
10月05日の学園祭を目指しながら・・・。

Chapter38へ続く