Back

白の花餞

著作 早坂由紀夫

Chapter3
「輪廻のスティグマ」

今ではとても後悔してるんだ
君を巻き込んでしまった事を・・・
僕と同じ闇の側へ引きずり込んでしまった事
君にこんな飢えは味わわせたくなかった
いずれ僕と同じ様に君も裁かれるかもしれない
だからこれは僕の自分勝手な懺悔だ
でも、一つだけ信じてほしい・・・
君を思う気持ちに、偽りはなかった

それゆえに、君を抱いてしまったんだ――――

また・・・このユメ。
いつも満月になると、こんな夢を見る。
霞がかった様にまるで見えない夢。
湖に映る月の様にまるで掴めない夢。
でも、とても悲しくて涙を流してしまう。
その夢が示唆しているのは、多分私の真実。
私が吸血鬼であるという事実。
ああ・・・自分でも少しは解っている。
朝は自分が、トランス状態に入っていると言う事を。
「真白(ましろ)、起きてる?」
「うん、もうバッチリ」
自分が吸血鬼・・・?
勿論、そんなのは誰にも話していない。
そして、話すつもりもない。
笑われるか、気味悪がられるかして終わりだもん。
自分でもまだ、本当の事かどうかよく解らないし・・・。
ただ、ある種の衝動・・・つまり、
血を吸いたいと思った事は一度もない。
これが、私にとってただ一つの救いだった。
神無蔵真白(かんなぐらましろ)と言う、
一人の人間でいる事がまだ許されていると言う事だから。
・・・だけど、こんな事を考えるのは本当に不毛だ。
本当に目を覚ましてしまえば、何もかも覚えていないんだから。
「真白、本当に起きてる?」
「え? あ・・・はは、ちょっとぼ〜っとしてた」
「もぉっ、そんなペースだと遅刻するよ」
彼女は高崎結羅(たかさきゆら)ちゃん。
私と同室の、とてもしっかり者の綺麗な娘。
この学園で私が何とかやってこれてるのは、
間違いなくこの娘のおかげだと思う。
私達(というより私)はそうやって支度を終えると、
部屋を出て鍵を閉めた。
「ほら、制服がはだけてるよっ」
「あっ」
私は辺りの廊下に人が居ないのを確認して、
Yシャツの第3ボタンから上を止める。
そうして、私の一日は始まった――――。

2008年 4月21日(月) 午前

私は、都内にある私立の全寮制の学校に入っている。
どちらかというと宗教色の強い学校で、
キリスト教信者なら簡単に入れると言う噂もある。
勿論そんなのは殆ど嘘で、成績と態度が物を言う。
私の場合は、面接態度に命賭けてたけど。
そのおかげで、やっと入れたと言うわけなのです。
最初は服装とか、生活態度に凄く厳しいんだろうって
勝手に思ってたんだけど、実際は全然普通だった。
なにしろ先生達は、寮の就寝時間なんて気にしてないのだ。
あ・・・。
校舎を歩いていると、目の前からあの人が歩いて来た。
あの、超が付くほど有名な人。
どこか近づきがたくて、神がかり的な人。
それなのに、冷たいイメージは全く受けない。
微笑むと天使の様にさえ見えてくる。
私は思わず、緊張して転けそうになってしまった。
「あっ、大丈夫?」
「え・・・あ、はいっ」
目の前にその天使の様な微笑みが映る。
近くで見ると、益々形容しがたい美貌を秘めていた。

   ――――なんて、綺麗な人だろう。

私は呼吸をするのも忘れ、その女性に見入っていた。
同級生なのに、なんでこんなに落ち着いているんだろう。
それに、なんでこんなに背が高いんだろう。
なんでこんなに・・・私は彼女の全てを・・・。
ああ・・・コノ人ノ血ガ欲シイ。

コノ人ノ血ヲ吸ッタラ、
私ハ満タサレルノニ・・・

コノ人ト血ヲ循環サセタラ、
コノ人ハ私ノモノニナルノニ・・・

え・・・この感情は・・・?
「君、本当に大丈夫?」
気付くと、凪さんが私の方をじ〜っと見ていた。
私はどうやら、彼女に身体を任せてぼ〜っとしてたみたい。
心なしか、顔が近づいてくる気がする。
「え・・・あ、その、あの」
「・・・はぁ。ゆっくり喋って構わないよ」
「は、はいっ」
・・・なんか、さっきはとんでもない事を考えてたなぁ。
凪さんは呆れた顔をしている。
さすがに考えてる事が解っちゃったとは思わないけど、
もしかして、嫌われてしまったのかな・・・?
「ふふっ・・・面白いね君って」
「えっ? あ・・・それ、誉めてます?」
「そう聞こえた?」
「いえ」
「・・・誉め言葉に決まってるでしょ」
「え?そうなんですか?」
言い回しからして、逆だと思ってしまった。
彼女は微笑んだままで、私の事を見つめている。
「凪ちゃん、授業始まっちゃうよ〜」
向こうで如月さんが、凪さんに手を振っていた。
確か如月さんと凪さんは、とても仲がいいと聞いた事がある。
「えっ? ごめん、引き留めちゃったね」
「いえ、あの・・・こちらこそ」
「・・・それじゃ、また」
「え・・・は、はいっ」
軽く手を振る凪さん・・・う、美しい・・・。
ダメだわ、私あの人と話してると恋しそう。
だって、それぐらい彼女は魅力に溢れてるもん。
私は自分の教室に向かいながら、そう思っていた。
ただ、さっきの感情は一体なんだったんだろう・・・。
凪さんの血が吸いたいなんて、なんか変な事を考えていた。
まるで吸血鬼みたいに・・・。

2008年 4月21日(月) 昼休み

私はいつも、学校の外れにある公園の跡地で昼食をとっていた。
ここは誰もいない・・・寂しさと一緒に、開放感がこみ上げてくる。
途中で途切れている滑り台や、アスレチックもあった。
それで無邪気に遊んだりはもう出来ないけど、
見ているだけでも私はなんとなく楽しかった。
少し低い柵の奥にあるブランコに腰を下ろして、
自分の買ってきたお弁当を開ける。
友達だって、私がここで食事しているのは知らない。
他の人も滅多に来る事が無いから、安心して食べられる。
だから、いわばここは私の秘密の場所だった。
もぐもぐもぐ・・・。
ざっざっざっ。
誰かの足音が、静かな草原に響き渡る。
こんな所に来るなんて誰だろう?
私が振り返った時だった。
「あれっ? こんな所があったんだ・・・」
「・・・な、凪さんっ」
何でこんな所へ来たんだろう?
秘境探検でもしに来たのかな・・・。
まさか恋人と逢い引きに使ってるのかな?
って何を勘ぐってるんだ私わぁ〜!
頭を手で押さえながらぐるぐる振って、今の考えをうち消した。
「あ、今朝の娘だよね」
「・・・えあ、はいっ! 覚えててくれたんですか?」
「それは今朝の事だからね、忘れるはず無いよ」
「あ、そうでした」
軽く二人して笑ってしまった。
「食事、ここでとってもいいかな?」
「・・・はい。喜んで」
他の人だったら、私は少しは嫌な気持ちになっただろう。
でも、凪さんだったら、全然平気だ。
むしろ全然OKって感じです。
「そういえば、お昼は如月さんと一緒じゃないんですか?」
「珍しく今日は保健室で休んでるよ。
 まあ、二日酔いだから仕方ないかな・・・」
「えっ? お酒飲んでたんですか?」
「あ・・・いや、その・・・紫齊が、ね?」
紫齊・・・? ああ、古雪さんの事か。
あの人、運動系でよく目立ってる人だっけな〜。
でもそれなのに、お酒なんか飲んだら危険なんじゃ?
そう言えば、凪さんはお酒飲んでも大丈夫なのかな・・・。
全然二日酔いしてる様には見えないけど・・・。
「そういえば、君の名前を聞いてなかったね。
 私は、1−3の高天原凪」
「えっと、私は神無蔵真白と言います」
「・・・ここの学校の人の名前って、覚えづらいよね」
「そう言われてみれば、そうですね」
確かに私の名前は神無蔵だし、凪さんは高天原。
他にも沢山覚えにくい人はいるなぁ・・・。
霧草月さんとか、双紹郡君とか。
でも、凪さんの名前を忘れる人はいないと思う。
「真白ちゃんは、どこのクラスなの?」
「私は、1−5です」
「へぇ・・・そっちの方には、あんまり知ってる人はいないな」
「でも、凪さんはすごく有名ですよ」
私がそう言うと、少し照れて凪さんは言った。
「なんで、私の名前ってそんなに知れてるんだろうね」
「それは凪さんが凄いからですよ・・・あの、
 あんまり他に形容できないんですけど」
「ふふっ・・・君って本当に良い娘だね」
「えっ、そんな、事・・・無いです」
ふと目線を逸らすと、凪さんの膝から微量の血が出ていた。
「あ・・・凪さん、膝・・・」
「え、ああ・・・さっき転んだ時に擦りむいたのかな?」
「・・・・・・」
「真白ちゃん?」
何だろう・・・頭がグラグラする。
視点が真っ直ぐに合わない・・・眩暈が、ぐるぐる・・・。

ぐらぐらぐらぐら・・・。

この人の血が、凪さんの血が欲しい。
それは極々当たり前の衝動・・・私の欲する物。
「血が・・・出てます」
「ああ、ほっとけば治るよ」
「私が消毒、しましょうか?」
「え?」
私はそう言いながら、膝に顔を付けた。
「真白ちゃん!?」
ちゅっ、ちゅ・・・。
吸い付ける様に舌を使って、その傷口を消毒する。
「ん・・・あれ? これって・・・」
この血液の味は、女性のモノじゃない。
「もしかして、凪さんって、男だったんですか?」
それは、極々自然に口をついて出た。
「・・・!?な、何言ってるの?」
「だって、この味・・・」
「味?」
「うっ・・・」
また頭がぐるぐるしてしまう、スティグマだ。
意識が引き起こされる様に、私は私に還っていた。
私は、一体何をしてたんだろう。
そう、うっすらと覚えている・・・
凪さんの膝にある傷口を舐めてた。
「ま、真白ちゃん?」
「あ、あの、私・・・えっと、ごめんなさいっ!」
耐えられず走って逃げようとした。
だけど、後ろから凄い力で止められてしまった。
「なんで、俺が男だって・・・解ったんだ?」
「えっ?」
「・・・えっ?」
声が違う。なんか男の人の声になってる・・・。
まさか、凪さんって男だったの!?
頭が混乱してしまう・・・でも、私はどこかでそれを知っていた。
「あ、の・・・私」
「頼む! この事は誰にも喋ったりしないでくれ」
「えっ、は、はい!」
「ありがとう。真白ちゃん」
なんか、こんな綺麗な顔でこんな声だとすごく違和感がある。
だけど、それを差し引いても私はすでに、
この高天原凪と言う人に惹かれていた。
「あの、じゃあ・・・その髪ってウィッグなんですね」
「地毛だけど」
「そんなに綺麗な髪なんですか!? おかしいですよ」
「家の母親が子供の頃から、勝手に手入れしてたんだ」
なんか凄い家庭に育ったみたいだなあ・・・。
凪さんの母親って、どんな人なんだろう。
いつかは、会ったりなんかしちゃったりしなかったりして・・・。
「それより、あんまりショックじゃ無さそうだね」
「え、凪さんが・・・男だって言う事ですか?」
「そう・・・あまり、大声で言わないでくれ」
「多分、私と凪さんはそんなに親しくないからですよ」
そう、まだ私は凪さんとそんなに仲良くないんだ。
自分で告げたのに、私はその事実に今気付いた。
「そっか、やっぱ紅音とかは許してくれないよな・・・」
「私、秘密はちゃんと守りますから」
「ありがとう。バレたのが真白ちゃんで良かった」
「そっ・・・そうですか?」
「そういえば、なんで俺が男だって解ったんだ?」
「え・・・?」
なんでだろう。
私は、そうだ・・・この人の血を吸った時に気付いたんだ。
だけど、そんなの凪さんに言えるわけがない。
私だって、そんな芸当が出来るなんて知らなかった。
「か、勘です」
「・・・マジで?」
嘘をついてしまった。
でも、血の味で性別が解りましたなんて、
普通の人なら信じてくれないだろう。
確かに、凪さんは少し普通ではないけど。

2008年 4月21日(月) 夜

夜はいつも、近くの部屋の娘が集まってきて
9時くらいまで話し込んでいる。
女子には甘い様に出来ているこの学校の規律のおかげで、
私達は意外と時間や服装に厳しくはない生活をしていた。
どちらかというと、厳しいのは男子だけだと思う。
「じゃ、おやすみ〜」
「じゃね〜」
みんなが帰っていった後、私達は寝る準備を始めていた。
ふいに、結羅ちゃんが私にささやいてきた。
「真白、急に凪さんと仲良くなってない?」
「えっ、そ、そうかな〜?」
「だって、今日も二人で話してるのを見たよ」
「いっ・・・いつの間に見てたの?」
「見てないよ」
「え・・・」
「全く嘘の下手な娘だね〜。バレバレだよ」
「そっ、そう・・・?」
あまり誤魔化しても意味ないけど、
とりあえず曖昧な受け答えしかできなかった。
「でも違う世界に入らないようにね」
「私、そんな趣味ないもんっ・・・」
それにあの人は、本当は男だから、
私が好きでも問題はないと思うんだよね。
禁断の愛みたいで良いかも。
まあ、相思相愛なんて有り得ないとは思うけど。
だって、如月さんと一緒の部屋なんだから、
如月さんの事がきっと好きなんだろうなぁ・・・。
あれ? でも、如月さんは
凪さんが男だって知らないんだっけ。
だったら、それって結構凄い状況じゃないかな?
下手したらお風呂上がりとか・・・。
「え〜〜〜!? それって、OKなのぉ?」
「何? また妄想の世界に入ってた?」
「あ・・・そ、そんな事ないってば」
考えてみたら、凪さんって女の敵なんじゃ・・・?
でも、あの顔だったら許せるかも。
「じゃ、真白っ・・・おやすみ」
「あ、おやすみ〜」
結羅ちゃんは、布団にくるまって寝てしまった。
・・・・・・。
少し眠る前に考えていた・・・。
私はなんで凪さんの血を舐めていたのか?
あの行為がなんで、あんなに官能的に感じたんだろう?
そう・・・もっと、もっと凪さんの血が欲しかった。
でも、そんなのは絶対におかしい。
私は人間、なんだから・・・。

2008年 4月22日(火) 午前

朝になると少しだけ思い出す。
春の朝日のせいで、輪廻のスティグマが弱まるせいだ。
私は自分が吸血鬼だったと思い出す。
けど・・・なぜ自分が吸血鬼だったのか、思い出せない。
とても大事な事。私の全てが変わる様な事があった。
そう、そうだった。
私の所にあの日、吸血鬼が暖を取りに来たんだ。
とても強そうには見えず、優しい顔をした吸血鬼。
あの時は街の人達から弾圧を受けていたのを、
私が匿ってあげたんだ。
「真白。起きてる?」
「うん」
ああ・・・頭に霧がかかる・・・月が消える。
そうして・・・すぐに薄れてゆく、不必要な記憶は。
「真白〜、着替えないの?」
「あ、そうだった」
いつも寝起きは頭がぼ〜っとして動かない。
何か考えてた気もするけど、
起きがけの事は何も思い出せない。
・・・ま、いっか。

 

私達の部屋は中央階段からすぐ東にあって、
すぐに外へと出る事が出来る。
そこから学校まで距離は殆ど無い。
ここの学校の良い所は、ぎりぎりまで
寝ていられると言う事だった。
・・・女子限定で。
男子がぎりぎりに通過しようとすると、
遅刻扱いになってしまう。
「今日も間に合いそうだねっ、結羅ちゃん」
「うん。ねぇ、真白さあ・・・」
「えっ?」
「ううん、最近可愛くなったよね」
「・・・そ、そうかな?」
真正面を切ってそう言われると、すごく照れる。
それに、私にはよく解らない。
「そうだよ。これは、凪さんと何かあったのかな?」
「そ・・・そんな事無いよっ」
「わっ、顔赤くなって、やらし〜」
きっ、気付いて・・・それって、
凪さんが男なんだから全然冗談になってないんだってぇ〜〜!
それに何かあったら、私は凪さんの顔見れないよぉ!
「結羅ちゃんっ!やめてよ〜!」
「冗談だよ〜。でも、本当に可愛くなったよ。
 もしかして恋でもしてる?」
「え・・・」
瞬間、脳裏には凪さんの顔が浮かぶ。
自分の顔が赤くなっていくのが解る。
これじゃすぐ結羅ちゃんに解っちゃうよ〜!
でも、やっぱり改めて考えると恥ずかしいかもしれない。
今まで女だと思ってた人が男だったって解った途端、
私は内心すごくドキドキしちゃってるんだから。
元々、すごく憧れとかはあったけど・・・。
それが男の人だってわかったから、好きに変わったのかな?
っ〜〜、でも一概に・・・好きとかじゃない気もするし、
かといって凪さんと会わないと切ないし・・・。
あ゛あ゛っ!思考回路がショート寸前!
「おっ真白、長考だね〜。もしかして本当に恋?」
「そ、そうかも・・・」
「えっ! 相手は誰? 誰が好きなの?」
「う〜ん・・・秘密」
まさか凪さんとは言えないからな〜。
「解った。2−6の西園寺(さいおんじ)先輩だ」
「違う」
「じゃあ、3−1の久宝山(くぼやま)先輩?」
「違う・・・ていうか、この学校じゃないよ」
「嘘だ〜。他の学校との出会いなんてないじゃない」
うっ。確かに、あんまりない気がする。
「買い物に行った時に偶然見ただけなの」
「・・・ふぅん。ま、いっか」
・・・さすがに、ベタベタだったか。
でも、深く追求されなくて良かった。

2008年 4月22日(火) 昼休み

その日の昼休み、凪さんは先に公園跡のベンチに
座ってお弁当の包みを開けていた。
今日はストレートにおろさずに、一本にゆわいている。
新鮮なその姿に、私は数秒見惚れてしまった。
「どうしたの? 真白ちゃん」
「・・・はっ! いえ、あの・・・髪、似合ってますよ」
「ああ、ありがと。紅音に勝手にやられたんだ。
 いつも同じ髪型じゃつまらないとか言って」
「・・・そうなんですか」
そっか、如月さんが。
なんだろう・・・なんかすごく悔しい。
「あっ探したよ凪ちゃ〜ん」
「はぁ・・・折角楽してようと思ったのに」
「えっ? 何か言った? 凪ちゃん」
「ううん、独り言」
この二人は、なんて仲良さそうに話すんだろう。
ここで私が如月さんに、本当の事を喋ったらどうなるかな?

・・・・・・。

ばか。
私のばかばかばかっ!
何を考えてるんだか。
そんな事したら、凪さんに嫌われるに決まってる。
「そう言えば、紹介してなかったね。同室の如月紅音」
「あ、私は神無蔵真白です」
如月さんか。
ある意味、恋のライバル?
あんまり仲良くしない様にしないと・・・。
「真白ちゃんか〜。良い名前だねっ」
うわぁ・・・可愛い笑顔。
「如月さんの方が良い名前ですよ〜」
「あっ。私の事は紅音で良いよぉ。同い年だし」
「そ、そうですね。じゃあ紅音さんで」
「紅音ちゃんがいいな〜」
「はい・・・じゃ、紅音ちゃん」
紅音さん、すごく可愛い。
それにこの人、すっごく仲良くなれそうなタイプ。
「あれ? 葉月・・・ちゃん」
「こんにちは。あの、隣良いですか?」
「え・・・あ、はい」
星翔葉月ちゃん。
一応顔見知りだけど、よく話した事はない。
「真白さん、衝動は抑えられていますか?」
「葉月ちゃん、衝動って何?」
私の代わりに紅音ちゃんが疑問を投げかけた。
「いえ・・・ご存じないなら、すいません」
抑えられない衝動。
それは、それは・・・?
「葉月ちゃんっ!」
「凪・・・さん?」
凪さんが珍しく少し大きい声を上げた。
二人が見つめ合う。
その目に感情の揺らめきは感じられなかった。
何を考えてるか、全く解らない。
「・・・お箸落ちてるよ」
「あっ、す、すいません。ありがとうございます」
・・・びっくりした。
お箸を落としただけか。
でも、今日の葉月ちゃんは少し恐かった。
なにか、違う生き物を見る様な目で私を見ていたから。
「凪ちゃん、びっくりさせないでよ〜」
「・・・ごめん」
それきり、凪さんは何かを考え込んでしまった。

Chapter4へ続く