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黒の陽炎
−2ndSeason−

著作 早坂由紀夫

序説、白痴美−nil adomirari−

第一話
「探し物」


 −冥典、序説第一編−

 我は存在する真実である。
 祖は拠り所無き一人子である。
 至る所に我は存在し、すべからく真なる者である。
 そして祖は我の名を軽はずみに呼んではならない。

***

 生まれた時から俺には人生が約束されていた。
 それも最悪の人生が、だ。
 くそったれな親父と阿婆擦れの母親。
 親父は酔うとすぐ俺を殴り、
 母親は自分の家で平気でセックスしていた。
 それも親父の金を見繕う為の売春行為だ。
 俺は両親が嫌いだった。道端の宿無し共よりも。
 だがそんな人生の打開策は簡単に見つかったんだ。
 まず親父が浮気してると母親に嘘を教える。
 すると案の定、両親は喧嘩を始めた。
 そしてさりげなく俺が買っておいたカッターで、
 母さんはあっという間に親父をぶっ殺した。
 やってみれば散々な結果にも思える。
 でもそれで俺は自由になった。
 親父が死んだ後も涙一つ流さなかった。
 すぐに俺は新宿へと出てきて仕事を探した。
 だが16歳だった俺が生きていく為に出来る仕事。
 そんなのはホストくらいのものだった。
 そこでも俺は殴られ、蹴られながら生きていく。
 けれどそれは全然大した事無かった。
 仕事を覚える目的があったからだ。
 それから俺はホストとして昇っていく事を決意する。
 俺みたいな人間に丁度良い職業だと思ったからだ。
 ホストの仕事になれてきた頃、
 俺の中で女というのは客になっていた。
 雑巾の様に汚い金を搾り取る客に。
 ちなみに仕事でラブホテルを使う事は意外と少ない。
 金が勿体ないからだ。
 大体は女の家でやる。
 まあその時の金も出させるから構わないが、
 逆に言えばそんな事で金を使わせるのは無駄なのだ。
 後は手練手管を使って女を骨抜きにする。
 法に触れるギリギリの事をすればそれも容易かった。
 苛つくくらいに、俺は簡単に堕ちていった。
 自分がクソ野郎だと解っても笑っちまうくらいに。
 1年、2年が過ぎて俺は18になった時、
 俺が死んでも悲しんでくれる人がいない事に気付いた。
 客の女は別だ。
 あんなクソ共に悲しまれても全然嬉しくない。
 かといって俺がカタギに戻る事なんて出来るわけがなかった。
 やろうと思えば、たった一ヶ月で百万近い金だって稼げる。
 普通に就職してる奴らが蟻に見えるんだ。
 止められるはずがない。
 そしてもう一つ。
 カタギで出来る仕事なんて・・・俺にはない。



 2008年、10月。
 少し風が寒くなってきた頃。
 俺は新宿の街を歩いていた。
 別に面白い事を探してるワケじゃない。
 客引きだ。
 本来なら新入りがやる仕事なのだが、
 酒を馬鹿みたいに飲んでるよりずっと良い。
 所々に散乱するゴミクズの山。
 ポイ捨てされた煙草、コンビニの袋。
 捨てられたチラシなんかはお決まりだ。
 それらはすでに地面と同化して見える。
 かくいう俺も歩き煙草するし、
 コンビニの袋なんてそこらに捨てる。
 要は新宿っていうのはそういう街だって事だ。
 歩けば群がってくる水商売の女や路商の黒人。
 二丁目に行けばもっとぶっ飛んだ奴らも群がってくる。
 同性愛と言うよりもお笑い芸人みたいな奴ら。
 様々な屑の溜まり場。
 だからこそ俺もそれに同化していけた。
 そんな掃き溜めの様な街の夜。
 11時過ぎからが俺の時間だ。
 通りかかった女が近づいてきて俺の肩を叩く。
「紗夜〜、寄ってかない〜?」
「ば〜か。今仕事中だよ」
 俺は軽くそう答えて道を歩いていった。
 一応、名前は紗夜で通っている。
 本当の名前は誰にも話した事はなかった。
 軽く流して歩いていくと、
 ふと通りの先に妙な女を見つける。
 見た目が高校生くらいだから歳は17辺りだな。
 薄い紫とピンクの間の様な髪の色。
 長い髪を風任せに揺らしながら佇んでいた。
 ぱっちりした瞳だと思うが、
 それは薄く遠くを見つめる様な青い瞳。
 鋭くも柔らかくもない無機質な目だ。
 青い瞳というのは恐らくカラコンだろう。
 服装はこの季節にしては着込んでいるな。
 まるで露出を嫌うかの様なコート。
 真っ白なコートでほわほわしたのが付いていた。
 それでも涼しい顔をしている女。
 寒がりにも程がある。
 見れば靴も歩きやすそうなタイプではあるがブーツだった。
 近づいてみるとさらに面白い事に気が付く。
 その女はナンパ待ちでもするかの様に、
 通りにずっと佇んでいるのだ。
 しかも近くで見てみるとそれは恐ろしい程の美貌。
 触れれば溶けてしまいそうな肌の艶。
 唇なんかは凄く色っぽく俺の目に映った。
 それなのに何故か彼女は純粋に清純に見える。
 まるで浮世離れした神々しいまでの美しさだ。
 身長は俺より少し低い・・・160半ばくらいだろうか。
 とすると女としてはそこそこ大きい方だな。
 3サイズは突出して良いというわけでもなさそうだ。
 だがそれは彼女に関しては魅力になる。
 中性的な魅力という意味でもあるが、
 丁度良い胸や尻の大きさだという事だ。
 それらは大きければ良いという物ではない。
 その女性に然るべきサイズという物が存在するからだ。
 彼女はそんな風に見ていけば完璧にさえ思える。
 初めて俺は自発的に女と身体を重ねたいと思った。
 見てみればその表情は子供の様だ。
 いわゆる不思議系の女の子なのかもしれない。
 適当に話を合わせれば簡単に引っかかるだろう。
 そう思って俺はその子に声をかけた。
「君、何か困ってるの?」
「・・・・・・」
 反応がない。
 女はただ佇んだままで何処かを見ている。
 気付かなかったみたいだ。
 俺はその女の肩を叩いてみる。
「ねぇ、君」
「・・・誰?」
 誰、と来たか。
 構わず俺は彼女に話しかけた。
「俺は紗夜、君は?」
 手っ取り早く俺は自分から名乗る。
 さらけ出せる部分はさらけ出した方が潔いからな。
「わたし? わたしは・・・華月」
「華月ちゃんか、良い名前だね〜」
「ありがとう」
 礼を言ってきた物の全くの無表情。
 なんなんだよ・・・この女。
 クスリでもやってるのか?
 だが次の瞬間、隣に妙な男がいる事に気が付いた。
 40〜50代くらいだがホームレスらしき格好をしてる。
 気配を感じなかったけど・・・なんだこのおっさん。
 髭面でどこか腰の低そうなおっさんは、
 華月の顔を見ると下品に笑って言った。
「華月さん、例の情報掴めましたぜ」
「そう。冥典はどこにあるの?」
「・・・それが正確な場所は全く掴めなかったんですよ。
 俺の勘だと新宿のホストクラブが怪しいっすね〜」
 なにか変な話をしてるみたいだが、
 いったい何の話をしてるんだ?
 ホストだとか情報だとか。
 とりあえず・・・男の連れがいるなら駄目だな。
 そう思って俺が去ろうとした時、
 その男が俺の肩をがしっと掴んだ。
「おい兄ちゃん。あんたホストだろ?」
「あ? ああ・・・」
「じゃあこの子を連れてってくれ」
「はぁ?」
 何故か知らないが妙な事を言いだしてくる男。
 なんで女を進んでホストクラブに
 連れて行かせようとするんだ?
 この男、一体・・・。
 すると華月は俺の手を掴んでくる。
「連れて行って」
「・・・解ったよ」
 自然と手を繋いできた華月に、
 俺は不覚にもドキドキしてしまった。
 こういうのは慣れてるはずなのに・・・。
 この女があまりにも無邪気なんだ。
 だからだろうか、少し俺は
 彼女を店に連れて行くのを戸惑ってしまう。
 純粋なこの子が汚れてしまうかもしれない。
 いや・・・俺が汚してしまうのかもしれない。
 そのせいで少し足取りが鈍くなってしまった。
 こんなコト、初めてだった。



 店の中に入っても華月の様子は変わらない。
 物珍しそうに辺りを見渡すだけだ。
 すると先輩ホスト達が俺を押しのけて、
 彼女を店に案内していく。
「ちょ・・・何するんですか」
「あの子は俺らが上手くやるから、
 お前は他の客の相手してろ」
「なっ・・・」
 俺が不満を言おうとするとそれを先輩は制した。
「文句があるのか? お前、後輩だよな。なぁ」
 軽く俺を小突いてくるが俺はどうするわけにもいかない。
 仕方なく言われた通り席に着くと接待を始めた。
 だが気になって華月の方を盗み見てみる。
 先輩達は彼女に酒を勧めていた。
「お酒はどうするの?」
「いらない。この店に・・・本はある?」
「本かぁ・・・ドンペリなら一本あるよ!」
「違う」
 どうやら先輩達は彼女の扱いに困ってる様だ。
 彼女は構わずに何事か妙な事を言う。
「華月ちゃん、ここはお酒飲む所だって。
 解る? お酒飲まなきゃ駄目なんだよ」
「・・・・・・」
 華月は困ってるみたいで顔を俯かせた。
 すると勝手に先輩は酒を頼んでしまう。
 隣の客の女が何か言ってるが全く頭に入ってこなかった。
「さ〜て、ワインでも飲んで考えようか」
「要らない」
 俺は思わず彼女の席へと歩いていく。
 そして華月の手を取ると立ち上がらせた。
「おい・・・何してんだよ、紗夜」
「うるせぇ!」
 そう叫ぶと俺は入り口から外へと走っていく。
 華月は不思議そうな表情をするばかりだった。
 しばらく外の通りを走り続ける。
 だがあっという間に先輩達に捕まって、
 裏道へと連れて行かれてしまった。
「何する気だ・・・」
「てめえに先輩に対する態度って奴を教えてやるんだよ!」
 顔を殴られて近くのゴミ箱へと吹っ飛んでしまう。
 そのまま男二人がかりで俺に蹴りを入れてきた。
 ・・・やべえ。
 何をしてるんだ、俺は。
 こんな馬鹿なコトして・・・。
 先輩には絶対服従だったはずだ。
 華月が先輩ホスト達に騙されようがどうだっていい。
 そのはずだろう?
 なのに・・・なんでだよ。
 華月の方は先輩にこれからヤられちまうんだろうか。
 解らないけど・・・嫌だ。
 そんなの、嫌だ・・・。
 だが華月の方に近づいた男はあっというまに倒れてしまう。
「え・・・ぐぁああっ」
 そんな声が聞こえたかと思うと、
 目の前に妙な棒の様なものが見えた。
 そして俺を蹴っていた先輩二人は身体が弾け飛んだ。
 ぶよぶよになった肉片が辺りへと散らばっていく。
 人間がこんなものになるなんてどう考えても異常だ。
 だけど、今目の前で起こった事の方がおかしい。
 どうして・・・今、先輩の身体は弾け飛んだんだ?
 恐ろしいと思うより先に頭の理解が追いつかない。
「うぁ・・・ああああっ!」
 残った一人の男はあっという間に去っていく。
 その後で華月は俺の方に近づいてきた。
「またあの店に戻るよ。連れてって」
「あ・・・ああ」
 彼女の顔をまじまじと見てみた。
 最初に無機質だと思った瞳。
 それは子供の様に無邪気な物だったらしい。
 華月は俺の手を掴むと歩き出した。
 俺もなんとか立ち上がると必死でそれに付いていく。
「なぁ・・・一体、何を探してるんだ?」
「本だよ。このチェッカーが反応する本」
 そう言って俺に見せたのは奇妙な形の機械だった。
「じゃ、じゃあ・・・さっきあいつらを倒したのは?」
「それは具現したカルチャースティックで殺したんだよ」
 無邪気な声で無表情にそんな事を告げる。
 何の事か良く解らなかった。
 ただ彼女が何かの道具で人を殺したって事だろう。
 彼女は人を殺す事をなんとも思わないのだろうか・・・。

 ・・・・・・

 俺だって同じようなもんじゃねぇか。
 親父を間接的に殺したのは俺だ。
 でも華月の瞳に戸惑いや困惑の色はない。
 平然とした表情で隣を歩いている。
 だからだろうか・・・。
 触れている手の温もり。
 それがどこか冷たい鉄の様に感じて、背筋がぞっとした。



 店に着いてみるとそこには店長やらが来ている。
 俺を見つけるなり凄い剣幕で走ってきた。
「おい、お前いったい何したんだ?
 それにお前の先輩はどこ行った」
「・・・さぁ。解らないっす」
「そうか。じゃあ仕事に戻れ」
「へい」
 適当に話を合わせると俺は華月を連れて、
 店の裏へと連れていった。
 すると彼女のセンサーとやらが反応する。
 ぴーぴーという音がして何かを知らせたのだ。
「これは本の反応じゃない。悪魔の気配」
「は・・・はぁ?」
 何を言い出すのかと思えば悪魔だと?
 やっぱり華月っておかしいのだろうか。
 精神病とかじゃないだろうな・・・。
 すると急に俺の身体が目の前に吹っ飛んでいった。
 がしゃん、という音がしてビール瓶の山に転げていく。
 なんとか後ろを向いてみると、
 そこには店の店長が立っていた。
「お前、厄介なものを連れてきやがったな」
「ぐっ・・・あんた、一体・・・」
「ただの店長だよ。人間じゃないがな」
 身体が妙な寒気に襲われる。
 まるで目の前の店長にびびってるような・・・。
 けどいつもの店長は接客には厳しいけど、
 へーこらしてる情けないおっさんだったはずだ。
 そんなのに俺が・・・なぜ?
 多分、俺は店長が人間ではない事を感じてるんだ。
「冥典を持ってる?」
「・・・冥典? 知らねぇな」
「そう。じゃあ、あなたに興味ない」
 そう言うと裏口から帰ろうとする華月。
 勿論、俺は置いていかれていた。
「なんだと? 貴様、異端者じゃねえのか?」
「異端者・・・? なにそれ」
 その会話の後すぐに店長は華月に襲いかかった。
 華月は最小の動きでかわすが、
 そのまま近くのビールの山に店長は突っ込む。
「どっちにしろ、てめぇは何か気にくわねぇ。
 俺がぶっ殺してやるぜ」
「て、店長・・・何言ってるんだよ!」
 俺がそう言って店長に走ろうとすると、
 身体が動かなくなってしまう。
 かと思うと俺の身体は再び背後へと吹き飛んでいった。
「ぐはっ!」
「てめえは黙ってろ。後で殺してやるからよ」
「あの人を殺すのは構わないけど、私の事も殺すの?」
 さりげなく華月はそんな酷い事を言い出す。
 でも・・・俺でもそうするかもしれない。
 赤の他人の為に命を投げ出す奴なんて居るはずがないもんな。
「お前は犯してやるよ、ぐちゃぐちゃにな」
「・・・それって痛い?」
「痛くて涙流すぜ・・・へへへ・・・」
「それはやだなぁ。やっぱりあなたを殺すよ」
 殺す。
 彼女が言うとそれは脅しの言葉には聞こえなかった。
 ただこれから行われる行動を予言した様に聞こえた。
 華月は静かに目を閉じると、
 両手で不思議な形を作り始める。
 すると何故かその空間から長い棒が出現した。
 それも普通の棒じゃなくて先の作りが妙な物だった。
 小さな輪みたいのが連なって一つの棒になってる。
 一体、あれはなんだ?
「具現・・・やっぱり人間じゃねぇな?」
「それはわたしも知らない。全ては冥典に書いてあるの」
 華月の身体が空中へと飛び上がった。
 そのままその棒の様な物を店長に突き刺そうとするが、
 難なくかわされてしまう。
 さらに店長は手で華月の身体を捕まえた。
 店長の手が伸びた事に驚く暇もなく、
 華月は天井へ、床へと叩きつけられる。
「かは・・・痛い」
「当たり前だろ。徹底的にいたぶってやるよ!」
 しかし次の瞬間。
 店長の手は不思議な音がしてぐしゃぐしゃになった。
「ぐぁああぁあっ! な・・・なんだ!?」
「音の振動を圧縮したリングで象った棒、
 名前はカルチャースティック。わたしが付けた名前だよ」
 無表情な顔。
 相手の身体の一部を吹き飛ばしても、
 彼女の様子に変化はない。
 全くといって動揺してはいなかった。
 大げさなアクションもなくそのまま棒を店長に突き立てる。
「髪のセットが乱れちゃった。あなたのせいだね」
「ぐげぇえっ!?」
 店長の身体がぶよぶよになって弾け飛んだ。
 肉片が辺りに飛び散り室内が真っ赤な血で染まる。
 そんな吐き出しちまいそうな光景の中で、
 彼女はただ静かに佇んでいた。
 その異常すぎる光景に俺は何も考えられない。
 まるで現実感が無くて・・・夢の中の出来事の様だった。
 ただ華月の姿はびっしりと血で赤く染まっている。
 その姿はグロテスクだとか怖いとかを全て払い取っていた。
 つまりこうだ。
 血まみれの華月の姿はどうしようもなく美しい。
 それが彼女にしっくり来ているとでもいう様に。
「じゃあ、わたしもう行くね」
「・・・え?」
「ここにはわたしの探し物、無かったから」
 そういうなり、華月は裏口からどこかへ行こうとした。
「な、なぁ!」
「なに?」
「・・・名前、フルネームは?」
「ふるねーむ? 華月。華月夢姫(かづきゆめ)」
「華月・・・夢姫」
 その言葉が俺の聞いた彼女の最後の言葉だった。

***

 あの後すぐに俺は病院に運ばれた。
 色々な箇所を骨折していたからだ。
 病院に入っても俺の所に来る奴はいない。
 そうしてまたいつも通りの道に戻っていくはずだった。
 また、ホストとして生きていく・・・そのはずだった。
 だがしばらくして俺の所に訪れた奴がいた。
 そいつは俺を見つけるなり飛びついてくる。
「いだだっ!」
「・・・隆史く〜ん!」
「だっ・・・あんた、誰?」
「えっ、え〜!? 高校生の時、同級生だったでしょ!」
「言われてみれば・・・見覚えがあるな。
 う〜んと・・・美浦。美浦藍香だ」
「そうだよっ」
 そんな風にして俺はその女とつきあい始めた。
 高校生の頃から好かれていたというのもあって、
 すぐに俺達は付き合う様になったわけ。
 そのせいでホストの仕事もすぐに辞めてしまった。
 いや、そのおかげと言うべきなのかもしれない。
 初めて誰かの為に自分を変えようと思えた。
 俺は・・・こんな時を待ってたのかも知れない。
 自分が踏み外したはずの道へと戻っていく時を。
 そう決意できる切欠みたいな物を。
 けれどそれ以来、華月に会う事はなかった。
 多分、まっとうな道を進む事になった俺には、
 もう二度と会えない気がする。

きっと彼女は・・・今も何かを探しているのだろう。

あの血生臭い世界の中で。

第二話へ続く