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黒の陽炎
−2ndSeason−

著作 早坂由紀夫

祀られた蟲、毒を持った羊−relationship,incest−

第四話
「Affection.脆く、尊ぶ者へ」

 −冥典、序説最終編−
 我を慈しむ事。我を汚さぬ事。
 だが我は泣きも笑いもしない。
 祖の中で我を汚す者も生まれ出るだろう。
 彼の時、祖に報いは与えられる。
 我より生まれ出でた者、ヒトよ。

 

 極上のオムライスを皿へと移し替える。
 次にそれにケチャップかデミグラスソースをかける。
 食欲を誘う香りが鼻をくすぐり、
 勿論その香りは近づく者全てへと運ばれていく。
 昔に聞き惚れた音楽と同様の懐かしささえも内包して、
 その一つは彼女の眼前へと運ばれていった。
 それは正にオムライスという名の世界。
 数少ないがそれは確実に彼女を満たす世界である。
「美味しい・・・」
 だがそれは本当にオムライスなのか。
 それは本当はオムライスではない、
 異なった物なのではないだろうか。
 そう思う事がたまにあった。
 彼女は自分の姿も、家族の顔も知らない。
 目の前にあるオムライスも味や匂いでしか
 その存在を知る術がない。
 或いは手で触った感覚で、だ。
 なぜなら彼女は先天的に目を患っている。
 そして生まれてすぐ、下半身が動かなくなった。
「さ、姉さん・・・口を拭こうか」
「それくらい私にもできるよ」
「ふふ・・・たまには僕がやってもいいじゃないか」
「う・・・うん」
 すると彼女は唇のすぐ下に妙な感覚を覚えた。
「きゃあっ!?」
 すぐにそれは彼女の弟が舌で触れたのだと気付く。
 顔が少し紅潮している気がして、
 彼女は両手で頬を押さえようとした。
 だがその手を誰かの手が優しく押さえる。
「ねぇ、こういうのもたまには・・・いいと思わない?」
「レ・・・レイったら・・・」
 レイと呼ばれたのはレイノス=フォル=ザールブルグ。
 彼女の弟でザールブルグ家の若き主でもあった。
 10代半ばという若さだが、
 その年代では不気味なくらいに落ち着いている。
 レイノスは彼女の唇の周りを丹念になめ回すと、
 そのまま軽く口づけた。
 彼女は動転して椅子から転げ落ちそうになってしまう。
 それを優しく抱きかかえるとレイノスは言った。
「さて・・・と。姉さん、部屋に戻ろうか」
「え、あ、うん・・・」
 優しげなその声。
 すぐに彼女の車椅子はゆっくりと動き始めた。

***

 彼女の名前はリフィリア。
 レイノスの実の姉として十数年間を生きている。
 車椅子が動く音と誰かの足音が聞こえていた。
 それは恐らくレイノスの足音だろう。
 ふいに涼しげな風が彼女の頬を撫でた。
 そこで初めて、近くに窓がある事に気付く。
「レイ・・・さっき使用人の人、見てたんじゃないかなぁ」
「姉さん、恥ずかしかった?」
「当たり前でしょっ・・・いきなりあんなコトして」
 くすっと笑うレイノスの声が聞こえた気がして、
 少し怒った口調でリフィリアはそう言った。
 するとレイノスは彼女の肩に顔を乗せてくる。
「きゃっ・・・?」
「驚かないで。あなたに触れるのは僕だけだから。
 そして僕に触れるのもあなただけだから」
「レイ・・・んっ」
 首筋に温かく湿った感触のモノが這い回っていた。
 それがレイノスの舌だとすぐに解る。
 口吻を交えながら彼はリフィリアの首筋を愛撫した。
「やぁ、こんな所で・・・」
「解ってるよ、もうすぐ姉さんの部屋に付くから」
「レイったら・・・意地悪」
「違うさ。姉さんが綺麗すぎるんだよ。
 恥じらう顔も、優しく笑う顔も全て見ていたくなる」
 そんな彼の言葉にリフィリアは何も言えなくなってしまう。
 顔を背けようとするが何処を向いていいか解らず、
 結局手で顔を覆ってしまった。
 そうしているとドアが開く音がして車椅子が少し揺れる。
 爽やかな薔薇の香りが彼女の鼻孔をくすぐり、
 自分の部屋に帰ってきたという安心感を覚えた。
 ある程度まで進むと車椅子は止まる。
 身体が起こされてふわっとした場所へと座らされた。
 そう、ベッドだ。
 すぐに隣が沈んで彼女の肩に手が置かれる。
「レイ・・・だよね」
「姉さん。もう少し僕を信じて欲しいな。
 僕らは二人きりだし、誰にも邪魔させはしない」
「・・・うん」
 リフィリアは軽く押し倒されて横になった。
 服を脱がされながら彼女はレイノスと口づけを交わす。
 彼女が自分の身体を確かめると、
 もうブラジャーとショーツだけになっていた。
 無意識にとった彼女の格好はレイノスを余計に欲情させる。
「いやらしい格好だね、自分の胸とアソコを弄ったりして」
「え、これは違っ・・・ふぁっ・・・」
 レイノスは彼女の手に重なる様にして、
 女陰を触れる様に弄んだ。
 そのせいで思わずリフィリアは声を漏らす。
 彼は下への愛撫を欠かさず、器用にブラジャーを外した。
 ブラジャーを近くに投げ捨てると、
 すぐにレイノスは彼女の胸にうずくまった。
「姉さんの匂いが・・・するっ・・・よ」
「ど、どうしたの? レイ」
 苦しそうな声が聞こえたので
 リフィリアはそうレイノスに訪ねる。
 だが彼は荒い呼吸のまま微動だにしなかった。
「レ・・・大丈夫なのっ!?」
「ふふ、気持ちよすぎてぼ〜っとしてただけだよ」
 優しい声でレイノスはそう告げる。
「も、もおっ・・・せっかく心配してあげたのに」
「ごめん、姉さん。続けるよ」
 すべすべとしたレイノスの手が彼女の乳房に触れた。
 びくっとしたもののリフィリアは彼に全てを委ねている。
 だが胸を軽く絞る様に揉み続ける彼の手に、
 リフィリアの手が重なった。
「黙ったままは嫌・・・怖いの」
「姉さん・・・」
 ふいにレイノスの愛撫が止む。
 そしてそっとリフィリアの耳元に彼の顔が近づいてきた。
「挿入れるよ」
「レイ・・・」
「ずっと耳元でこうして囁いているから」
「解った。レイ、来て・・・」
 その言葉の後でレイノスは彼女を貫く。
 いつも重ねている行為だけに、
 リフィリアの身体はあっさりとそれを受け入れた。
「ねぇ・・・さんっ。愛して・・・る」
 苦悶の表情が浮かんできそうなレイノスの声。
 それがリフィリアには快感を堪えている声の様に聞こえた。
 彼女はレイノスの背中をぎゅっと抱きしめる。
「んぅっ・・・あっ・・・くぅ・・・」
 下唇を噛んで声を押し殺すリフィリア。
 ふと彼女の首筋に何かが零れてくる。
 それがレイノスのかいた汗だと気付くと、
 リフィリアは彼に答えてあげたくなっていた。
「レイッ、気持ち・・・良いっ・・・の?」
「当たり前っ・・・だよ、姉さんと、
 一つに・・・なってるんだから」
「わたしも、気持ち・・・良いよ・・・あっ」
 強く突き上げてくるレイノスに彼女は声を上げる。
 衝動的にリフィリアは彼の身体を抱き寄せると、
 その唇に強く深くキスをした。
「んっ・・・くふっ・・・」
 お互いの唾液で二人の唇はベトベトになる。
 それでも飽きることなく二人は唇を求め合った。
 少しするとレイノスは身体を離し、
 先よりも激しくリフィリアの身体を求める。
「姉さん・・・姉さん・・・」
「あっ、はっ・・・レイッ、レイッ・・・・」
「もう・・・いくよ、姉さん」
「うんっ、ぁああっ・・・」
 限界が来る前にレイノスは自分の分身を引き抜く。
 そして彼女の胸へとその迸りを吐き出した。
「あくっ・・・熱いっ・・・!」
 白濁色に染まっていくリフィリアの乳房。
 それをおもむろに彼女は掬い取って舐める。
「はぁ、はぁ・・・レイの味がする」
「姉さん・・・」
 最後に二人はもう一度、口づけを交わした。

***

 彼女が両親を思い出す事はあまりない。
 今となっては殆ど会っていないのだが、
 お世辞にも好きとは言えなかった。
 母親は後妻だったせいかレイノスと彼女に厳しかった。
 そして父親はレイノスに性的虐待を強いていた。
 彼の前妻に似た顔立ちが起因していたのかも知れない。
 リフィリアはいつでも彼を助けようとしていた。
 ただ、車椅子の彼女が何かを出来るわけもなく、
 理由も解らずにレイノスを慰める事しかできない。
 二人の父親がおかしくなったのはある時期からだ。
 元々強欲で人を虐げる事ばかりしていた男だったが、
 オカルトに関わってからは人間味がすっかり消えていた。
 まるで悪魔にでも取り憑かれたかの様に・・・。



「痛っ・・・痛いよ、父さんっ!!」
「黙っていろ、お前の事など気にはしていない」
 そんな言葉の後に肌と肌を打ち付ける様な音が響く。
 目が見えない上に世間知らずだった彼女にとって、
 それがどういう事なのかは解らなかった。
 だが泣きながら助けを求める声。
 そのレイノスの声に導かれる様に彼女は車椅子を押す。
「止めて、お父さんっ」
「・・・リフィリア、邪魔だ!」
 彼女たちの父親は障害者だろうと
 実子だろうと容赦しなかった。
 いや、逆に障害者だからなのかも知れない。
 役に立たない道具に興味はないのだ。
 父親は思い切り平手でリフィリアの頬を叩きつける。
「はくっ、止め・・・姉さんには手を出さないでっ・・・」
「レイノス〜。お前が私に命令するとはどういう事だ?」
「あっ・・・んあぁあっ」
 激しく何かがぶつかる音。苦痛まじりの喘ぎ声。
 リフィリアはただそれを呆然と聴いているしかなかった。
 だがある程度の時が経ち、ふとその音が止む。
「どうだレイノス。最後は感じてる様だったじゃないか。
 ククク・・・結局、お前は私の子なんだよ!」
「くっ・・・うぐっ・・・」
 嗚咽を漏らすレイノス。
 すぐに抱きしめてあげたかったが、
 リフィリアは彼がどこにいるのかも解らない。
 かと思うと彼女の髪が何かに引っ張られた。
「ひっ、痛っ・・・」
「お前は出来損ないだ。クズだ、ゴミにも劣る雌だ。
 私の娘としては落第だよ。
 本当なら存在さえ消してやりたい所だが、
 そんなお前も・・・役に立てるコトはありそうだぞ」
「おと・・・さん?」

 瞬間――――――

 彼女の衣服が破れる音がその部屋に響く。
 強い力でリフィリアは車椅子から床へと押し倒された。
「え・・・」
「レイノス共々、私の玩具として生きていくんだ」
 荒々しく彼女の胸が揉みしだかれる。
 おぞましい感覚と共に舌の様なモノも這い回る。
 太腿にもいやらしく手が伸びていた。
「やぁ・・・いやっ!」
 叫び声を上げて抵抗するリフィリアだったが、
 父親は容赦なくその顔を叩きつけた。
 さらに腹を殴りつける。
 その拳には容赦などまるでなかった。
「ぐっ、ぁ・・・」
 父親は彼女の両手を一纏めにすると、
 テープの様なモノで手を縛る。
 さらに父親は彼女の頭の上へとその両手を押しやった。
 そんな事をすると父親は自分の性器を取り出す。
「止めろぉ!」
 レイノスが父親に飛びかかった。
 だが物凄い力で叩き伏せられる。
「ぐっ・・・はっ」
「レイノス、お前は私には逆らえない。
 そこで姉の淫らな姿でもたっぷりと見ていろ」
 父親はリフィリアの髪を引っ張ると、
 その口に自分の性器をあてがった。
「舐めろ。歯を立てたらその歯を全て折ってやるからな」
 それはレイノスにとって絶望的な光景だった。
 姉弟として、或いはそれ以上に慕っていた姉。
 それが目の前で実の父に犯されているのだ。
 何も出来ない。それが悔しい。
 父親はもどかしい彼女の愛撫に飽きたのか、
 リフィリアの頭を掴むと無理矢理に動かし始めた。
「ふぅっ・・・んぐぅっ・・・!」
 しばらくして彼女の口元を白いモノが伝っていく。
 それがどういう事なのか、
 リフィリアにも良く解っている。
 だから彼女は子供の様に泣き出してしまった。
「もう・・・止めて、お願いだからぁっ・・・」
「黙れ。まだ終わってないぞ。四つん這いになれ」
「そ、それだけは・・・お父さんっ」
「リフィリア〜。お前は誰に物を言っているのだ?
 目も見えない、足も動かないクズ人間が、
 このザールブルグ家の主である私になにを言う気だ!」
 彼女はびくっと震えながら、ゆっくりと姿勢を変える。
 その時、レイノスの中で何かが壊れた気がした。
 スローモーションで動く目の前の光景。
 泣き出しているリフィリア。
 悪魔の様な笑みを漏らす父親。
 全て・・・彼の前から消し去ってしまいたかった。
 ふいにレイノスの身体が焼ける様に熱くなる。
 そして苦しいくらいの熱さで額が輝きだした。
 さすがにそれには父親も驚きを隠せない。
 実の娘の処女を奪うという、
 その瞬間に父親は背後の光りに目をやった。
「お前、何をしてるんだ?」
 ゆっくりとレイノスの額に浮き上がる刻印。
 それは翼の様な刻印で、666という数字が刻まれていた。
「なんのつもりだ、と聞いてるんだ!」
 父親がレイノスに殴りかかる。
 だがその手は眼前で止まってしまった。
 そして額の文字が輝きだしたかと思うと、
 目の前にいる父親が苦しみだした。
 父親の身体は見る見るうちに醜く膨れていく。
「きっ・・・おま、何を・・・!?」
 次の瞬間。
 まるで風船が破裂する様に父親の身体が砕け散った。
 沢山の血が迸り、レイノスとリフィリアを汚す。
 レイノスはしばらくどうしようもなく立ちつくしていた。
 だが目の前でびくびく震えながら、
 四つん這いになっているリフィリアを見て我に還る。
 すぐレイノスは彼女の身体を抱きしめようとした。
 しかしリフィリアに触れた時、強い痛みを覚える。
「ぐぁああっ・・・!?」
「ど、誰・・・どうしたのっ・・・レイ?」
「・・・ねぇ、さん。もう、大丈夫。安心して」
 激痛を堪えながらレイノスはリフィリアを抱きしめた。
 触れた部分が焼け付く様な痛みを脳へと発信していく。
 それはあたかも鋭利な刃物で突き刺されたかの様に。
 体中の血液が針に変わったかの様に。
 それでもレイノスは彼女を抱きしめ続けた。
「レイ・・・うぅっ、うわぁあああっ・・・!」
 ついさっきまでとは違い、叫ぶ様に泣くリフィリア。
 だがレイノスはそんな彼女に対して
 姉弟愛以上の思いを抱き始めていた。
 むせび泣くリフィリアをしっかりと抱きしめる。
 二人の間には吐き気のするほどの
 血と肉片が飛び散っていた。
 レイノスはすぐさまリフィリアの口元をハンカチで塞ぐ。
 そしてすぐに部屋へと歩き出した。



 途中、レイノス達の姿を見た母親を殺すと、
 レイノスはすぐにリフィリアの部屋へと戻る。
 そのまま部屋に付いている風呂場へと入った。
「姉さん、お風呂入ろうか」
「・・・うん。先入って」
「何言ってるの。二人で入るんだよ」
「え、えぇ? だっていつもは使用人さんが・・・」
「駄目だ。姉さんのこんな姿を・・・誰にも見せたくない」
「レイ・・・」
 有無を言わさずレイノスは破けた服をはぎ取っていく。
 なるべく優しく、リフィリアが脅えない様に。
 二人は裸になると風呂場へと入った。
 レイノスはシャワーを出してリフィリアの身体を洗う。
 その身体は痛々しくレイノスの目には映っていた。
 だがそれ以上に彼の身体に異変が起こっている。
「これ、は・・・」
 彼はさっきからリフィリアに触れるたび、
 体中を激痛が走る原因にようやく気付いた。
 まるで壁のひび割れの様に身体を走る線。
 それが彼に耐え難い激痛を与えているのだ。
 自分の手で触れてみても痛みはない。
 ふいにレイノスは姉の顔を見やった。
 泣きはらして腫れぼったくなった顔。
 すぐゆすいだが憎むべき男の体液は、
 まだ彼女の口元に残っているのかも知れない。
 レイノスは自分がどうしようもなく許せなかった。
 愛する姉がこんな目に遭う前に助ける事は出来た、と。
 そうして硬い表情をしたレイノスは、
 気付かない内にリフィリアの胸に触れていた。
「ちょ、止めて・・・レイ」
「ぁ・・・ごめ」
 ごめん。
 そう謝ろうとしてレイノスは思いとどまる。
(謝る事なのか? だって、姉さんの胸はあいつが触れた。
 あいつの舌が、姉さんの事を汚く舐り回したんだぞ?)
 レイノスは激しい嫉妬と怒りを覚えていた。
 父親が姉を傷物にしようとしていた事、
 それが耐え難いほどに許せない。
(そう、姉さんは・・・僕のモノだ。僕だけのモノなんだ)
 彼は自分の痛みなど気にせずにリフィリアを抱きしめた。
「きゃっ・・・レイ?」
「姉さん、あんな奴の事・・・忘れよう」
「え・・・んぅっ」
 辿々しくレイノスはリフィリアに口づける。
 だがただ口づけるだけでは足りなかった。
 リフィリアの唇を押し開き舌を割って入れる。
「ふっ・・・んむっ・・・」
 彼女の瞳はレイノスを映してはいなかった。
 だからレイノスは余計に、
 自分が背徳的な事をしてる様に感じる。
 リフィリアの長い髪は湯で濡れていた。
 乳房や腹部の辺りにそれがぴたっと張り付いて、
 余計に彼女を魅力的に見せる。
 髪を肌から離す様に彼はリフィリアの胸に触れた。
「だっ、駄目よレイッ。私達・・・姉弟なんだよ?」
「でも姉さんはあいつに襲われたじゃないか!
 あいつは良くても・・・僕は駄目なの?」
「ちが・・・だって、お父さんは私の事・・・わたしのことっ・・・」
 再び泣き出しそうになるリフィリア。
 そんな彼女の顔を抱きしめるとレイノスは言った。
「・・・意地悪言ってごめん。無理矢理だったんだよね。
 解ってるんだ。けど・・・姉さん」
「え?」
「僕、姉さんの事が好きなんだ。
 誰にも渡したくない」
 沈黙の変わりにシャワーの水音が辺りに木霊した。
 無防備な姿のままリフィリアは呆然とする。
「ねえ、私・・・どうすればいいのかな」
「どういう事?」
「多分・・・私がこんなじゃなければ、
 レイはそんな事言わなかったよ」
「・・・姉さん」
「だってそうでしょ? 私に、同情してるんでしょ?
 私が目も見えないし足も動かない役立たずだから、
 レイは私の事を同情で好きになろうとしてるんだよ」
 答え代わりにレイノスは強くリフィリアを抱きしめた。
 だが彼女にはその意味が解らない。
 だからレイノスは出来うる限り優しく言った。
「姉さんが障害持ってるとかなんだとか、下らない。
 僕は姉さんが姉さんだから好きなんだ。
 今ココにこうしている姉さんだから・・・抱きたいんだよ」
「そっ・・・そんな事・・・」
 リフィリアは恥ずかしいのか顔を俯かせる。
 そんな彼女を横たわらせると、
 そっとレイノスは彼女の腹部に手を乗せた。
 さらにそこから手をゆっくりと下ろしていく。
「駄目、駄目・・・レイッ」
「怖がらないで。姉さんの身体、
 僕がキレイにしてあげるから」
 手で彼女の秘部を愛撫したままで
 レイノスは首筋にキスする。
 そこから下へと彼女の身体を伝っていく。
 丹念にリフィリアの胸を、指を、全てをなめ回した。
 まるで全てを自分で染めようとするかの様に。
「くすぐっ・・・たい、よぉ・・・」
「姉さん、嘘付かないで。感じてるんでしょ?」
「それは・・・んっ・・・」
 最後にレイノスは女陰へと舌を滑り込ませた。
 彼は顔をベトベトにしながら愛撫に没頭する。
「はんっ・・・だ、駄目っ・・・」
 その言葉とは裏腹にリフィリアは
 レイノスの頭を押さえる様に掴んでいた。
 しばらくそんな愛撫を続けた後でレイノスは言う。
「姉さん、これからあなたを僕のモノにするよ」
「レイ・・・やっぱりこんなコト・・・」
 今から自分に起こる事を想像して身体が震えていた。
 だがレイノスはそんなリフィリアの肩を抱く。
「聞いて。姉さんは僕のモノだ。
 でもね・・・僕もまた姉さんのモノなんだ」
 いつしか彼女の不安と共に震えは消えていた。
 そっとリフィリアの髪にキスすると、
 レイノスは彼女の花弁へと分身をあてがう。

***

「う〜ん・・・おはよ」
「あ、起きちゃったのか」
 彼女が目を覚ますとそこは自分の部屋だった。
 レイノスと交わった後、そのまま寝てしまったのだ。
 西日が差す光が彼女に触れる。
「姉さんの寝顔、もう少し見てたかったな」
「・・・私も、レイの寝顔見てみたいよ」
「ねえ・・・さん」
 それが叶わない事だというのは解っている。
 生まれてから彼女がレイノスの顔を見た事など一度もないし、
 これから彼女がそれを見る事もありはしないのだ。
 だが、それでもリフィリアにはレイノスがいる。
 彼女を愛してくれる家族であり、男性でもあった。
 ただリフィリアには自分の気持ちが良く解らない。
 レイノスの事を男性として愛しているのか、
 それとも弟として愛しているのか。
「レイ・・・今の私の気分、解る?」
「う〜ん。ちょっと解らない。嬉しいとか」
「私にも解らないの」
「え?」
「あなたの顔や手が見えていたら・・・私はきっと・・・」
 そう。
 もしもリフィリアが健常者だったとしたら、
 レイノスとこういう関係にはならなかった。
 拠り所がないからこそ身近なレイノスに身を委ねる。
 彼女が障害者だという弱い立場だからこそなのだ。
(私は汚い・・・自分の弱さにかこつけて、
 レイを縛り付けているんだから)
 だがそれを振り返っても仕方ない。
 今、彼女の隣には確かにレイノスがいるからだ。
「姉さん?」
「なんでもない。もう少し寝ようかな」
「ふふ・・・姉さんも気紛れだよなぁ」



 姉さんは知らない。
 どんな気持ちで僕が姉さんを抱くのか。
 それに姉さんを抱く為に激痛を伴う事も。
 けど、それを知らせる気はなかった。
 これ以上姉さんに負担を与えたくないし、
 遠慮されたくもない。
 この身体が例え朽ち果てても構わないさ。
 痛みが僕を苦しめれば苦しめるほど、
 僕は姉さんと繋がっている気がするんだ。

第五話へ続く