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黒の陽炎
−2ndSeason−

著作 早坂由紀夫

色彩の無い筺庭
−Guia do Pecador−


第十八話
「色彩のない筺庭で」


−−月−−日(−) PM−−:−−

「まさか暗部があんな事をしてたなんて・・・誤算だわ。
 同性として申し訳ないし、吐き気がする!」
「奥様、興奮なさらないでくださいませ。
 進言したのはこの杵築めにございます」
「・・・杵築」
「それはそうと、お坊ちゃまの様子がおかしいのです。
 恐らく凄惨な光景を見たショックの為かと思われますが」
「記憶の操作をしなさい」
「は?」
「夢姫に関するあらゆる記憶を消すのよ。
 そして夢姫に関わった人間全てにも、
 同様の事を行いなさい。
 あの子の為に、夢姫を社会的に抹殺するのよ」
「かしこまりました」

−−月−−日(−) PM−−:−−

 あの日から私の生活はまた変わった。
 もう、変な事をされなくなった。
 その代わりに、何もなくなった。
 食べ物とかお風呂とかはあるけど、誰も居ない。
 寂しい。何もない。
 最後に見たなぁ君の顔が忘れられなかった。
 その顔を思い出すたびに涙が止まらない。
 楽しい事は一つもなかった。
 誰とも話せないし、やる事も何もない。
 おままごとも出来ない。
 一人で喋ってみてもつまらなかった。
 食事を運んでくる人は何も喋らない。
 どうやっても喋ってくれなかった。
 だんだん動くのも嫌になってきた。
 周りにあるのは暗闇。
 それだけ。他には何もない。
 冷たい床と、毛布があるだけ。
 何もかもが無くなって一日目の夜。
 耐えきれずに私は声の限りに叫んだ。
「誰かっ! ここから出してよぉっ!」
 返事はない。唇をぎゅっと噛みしめる。
 これだったら痛くても人が居る方がいい。
 自分の身体を傷つけられたってその方が良かった・・・!
 一人ぼっちは寂しすぎる。
 声を出してないと喋れなくなる様な気がした。
 ひたすらに叫ぶ。叫び続ける。
 誰も聞いてない事なんて解っていた。
「だれっ・・・かぁ」
 すぐに声は掠れて出なくなってしまう。
 代わりに自分の手を壁に叩きつけた。
 こつん、こつん、こつん。
 こつん、こつん、こつん。
 こつん、こつん、こつん。
 手から血が出てきて痛い。
 それでも叩くのを止められなかった。
 真っ暗になって何も出来なくなった後、
 私はぼうっと辺りを眺める。
 月の光さえ見えない。真っ暗。
 さっき叫んでしまった所為で叫びは声にならない。


 それからしばらくの日にちが過ぎて、
 多くの事を忘れるようになっていった。
 最近あった事が皆どこか遠くに無くなっていく。
 忘れちゃいけない事は忘れない様にする。
 大事な事は手で掴んでずっと持ってないといけなかった。
 ただ、手で持てるものは凄く少ない。
 忘れたくない事だけを手の平に浮かべた。
 絶対になぁ君の事は忘れない。
 忘れないけど、最後に会ったのはいつだったっけ?
 なぁ君と最後に会ったのは・・・そう、約束をした日だ。
 あの日から、まだ全然経ってない。
 早く会いたいな。

−−月−−日(−) PM−−:−−

 私はなぁ君の顔をあまり思い出せなくなっていた。
 髪が長くて可愛い男の子。
 それは覚えてる。
 どんな事をして遊んだんだっけ?
 他に友達は居なかったっけ?
 なぁ君と最後に会ったのは・・・そう、約束をした日だ。
 あの日からずっと待ってる気がする。
 でもどうして私はココで待ってるんだろう。
「ねぇ、ここから出してよ」
 誰もいなかった。
 どうして私はココに居るんだろう。
 何か悪い事をしたのかな。思い出せない。
 ココにいる前は何をしてたんだろう。
 お父さんとお母さんは? お友達は?
 なぁ君の事以外、殆どの事が思い出せなかった。
 まあ良いや。
 私にはなぁ君がいるもん。
 別に他の事なんて知らなくても良い。
 その日、私は寝る前に涙を流した。
 涙が止まらなかった。
 でもなんとなく考えた。
 もう、私が泣くのはコレで最後。
 二度と泣く事はない。

−−月−−日(−) PM−−:−−

 それから私には辛い事が殆ど無くなった。
 寂しくってもなぁ君の事を考えるだけで大丈夫だし、
 痛みにも凄く鈍感になった。
 何も感じない。
 御飯を持ってきてくれる人が良い人に見えた。
 だから私は言う。
「ありがとう」
 その人はぎょっとした顔をして走り去っていった。
 変なヒト。
 服が小さくなれば大きい服が次の日置かれている。
 ブラジャーだけは使い方が解らないので放っておいた。
 すると次の日、それの使い方のメモが置かれてた。
 いつの間にかそんな暮らしにも慣れてしまう。
 この暮らしは好きじゃないし、
 寂しいという気持ちだってあった。
 でも、なぁ君の事を考えれば大丈夫になる。
 吐いたりしてもなぁ君の事を考えて頑張った。
 しばらくして生理というものが来ても、
 ブラジャーの時みたいになんとかなった。
 自分が何歳かはもう解らない。
 鏡もないから自分の顔も良く解らない。
 何かを光で透かして見るしかなかった。
 夜はいつも自分の身体を抱きしめる。
 なぁ君の事を考えながらぎゅっと抱きしめる。

−−月−−日(−) PM−−:−−
高天原邸・別荘

 それからしばらくの月日が流れた。
 ある日の夜、夢姫はルシファーの夢を見る。
 そして目が覚めると彼女には不思議な能力が備わっていた。
 カルチャースティックと名付けた棒を具現すると、
 彼女はそれで牢屋の鉄柵を破壊する。
 誰の妨害も無く彼女は外に出てきた。
 外はまだ夜。
 月明かりと頼りなさげに揺れる電灯が目に映る。
 不意に辺りの樹がざわざわと揺れた。
 それは当たり前の自然現象だった。
 夢姫にとって見ればそれは数年ぶりの外の景色。
 普通なら涙を流してもおかしくはない。
 だが、彼女の中に大して感慨はなかった。
「さっさと冥典を探そうっと」
 辺りを確かめてみるとそこは何処かの屋敷だった。
 高天原の屋敷ではない。
 彼女は自分が住んでいた高天原の屋敷を思い出してみた。
 どんな場所だったか、どんな景色があったか。
 何も思い出せない。
(なぁ君の顔しか思い出せないや)
 警備の裏を縫って夢姫は屋敷を抜け出す。
 それは彼女には普通の事に思えた。
 特に警備が手薄だったわけではない。
 彼女がその警備を上手くかわしたのだ。
 しかし途中で彼女はある男に出会う。
 最初に夢姫を犯した男だ。
「あなた、誰?」
「お、お前、どうやって逃げたんだよ?」
「あなた・・・なんか嫌い」
「しばらく見ねぇ内に随分と美味そうになったじゃねぇか。
 へ、へへ、俺がまた良い事を教えてやるよッ・・・」
 意識せずに夢姫は手にカルチャースティックを具現する。
 それから躊躇せずにその男の身体にそれを突き刺した。
「な・・・ひゃぷっ!?」
 男の身体がびくんっと震える。
 攻撃を受けた部分を軸にしてその男の身体がはじけ飛んだ。
 返り血を浴びるが夢姫は気にも留めない。
 すでに彼女の中に人を殺す事に対する戸惑いはなかった。
 或いは無意識ながらも、
 その男への憎しみがあったのかもしれない。
 だが、そんな事は大して気にせずに、
 夢姫はゆっくりと暗い夜道を歩き出す。
 すると少し先に奇妙な老人が立っていた。
「あなた、誰?」
「あっしはルキフグ=ロフォケイル。
 華月さんのお仕事をサポートさせて頂きます」
「ふ〜ん。あなたがロフォケイルか。変な顔のおじさん」
「・・・・・・」
 戸惑うロフォケイルを余所に歩き出す夢姫。
 だがそれをロフォケイルは止めた。
「ちょっと待ってください。
 あんた、あまりにも服装が汚い。
 髪もぼさぼさだし酷い格好をしている」
「別に良い・・・でも、なぁ君は気にするかな」
「男なら外見は気にしますよ」
「・・・解った。じゃあどうにかする」
「私に任せてください。世界中から服をかき集めてきます。
 それに、美のプロフェッショナルを連れてきますよ」

−−月−−日(−) PM−−:−−
東京・新宿

 彼女とロフォケイルは新宿を歩く。
 似合った服装を決め、身体を綺麗にした夢姫は、
 ロフォケイルの想像以上の美しさを持っていた。
 誰もが彼女を見て振り返る。
 それらは特に夢姫には興味のない事柄だった。
 ただ、可愛い服装は気に入っている。
「これ凄く好きな感じ」
 無表情なままに彼女は呟いた。
「そりゃあ良かった」
「じゃあ、冥典を探そ」
 初めて彼女に目標という概念が生まれる。
 今までずっと暗い部屋に閉じこもっていた彼女は、
 悪魔の助けを借りて大切な人を探す事を決めた。
 すでに彼女に過去の記憶の大半は残っていない。
 自分が犯された事や、幾つかの『なぁ君』との思い出。
 それらは手に持つ事が出来ずに綻びていった。
 残っている事もあった。
 大切な人とかわした一度きりの約束。
 忘れきれない『なぁ君』との記憶。
 それが彼女を前へと押し進める。
 先に何があるか、そんな事を考えはしなかった。
 理由も、意味も全て大した問題ではない。
 彼女にとって『なぁ君』と再会する事の意味を問うのは、
 生きる事の意味を問うのと同じだからだ。

11月05日(木) PM21:30 晴れ
自宅・二階・大沢武人の部屋

 10分以上も跳ねていたが、ようやく夢姫の動きが止まる。
 一体なんだっていうんだ。
 俺と禊と夏芽はずっと固まったままだった。
「あ、と・・・も、もう大丈夫なんか?」
「ええ。どうやら流出が終わり、安定期に入ったようです」
 言ってる事は意味不明だが夢姫は大丈夫らしい。
 ほっと胸をなで下ろした。
 すると禊の奴は夢姫に駆け寄る。
「うぁあっ!? 傷が綺麗さっぱり無くなってるぞ!?」
「は?」
 俺もそれを確かめようと身を乗り出した。
 だが、目の前にいきなり禊の肘が飛んでくる。
 あえなく顔面に直撃した俺は真後ろにぶっ倒れた。
「な、なにしやがる!」
「このド助平っ」
「好きありや!」
 俺と禊の脇から夢姫に突っ込んでいく夏芽。
「この子エエ身体しとるわ〜」
 夏芽は満足げな声を出している。
 畜生、女に生まれりゃ良かった・・・!
 しかも夏芽は服を脱がし始めてる。
「ウチと良い事しようや〜」
「ああっ、止せ夏芽ッ! 見るなたっつーっ!」
 禊は一人でてんやわんやしていた。
 っていうか夏芽は下着も脱がせようとしてる。
「さぁ〜て。処女かチェックや!」
「あ、あの〜。俺も一応居るんですけど・・・」
 男がいるのもお構いなしで、
 夏芽はとんでもない事をしようとしていた。
 俺の事は一旦放っておいてそっちを止めようとする禊。
「なっ! 夏芽、そんな所に手を入れるなぁっ」
「ん・・・こ、これはっ!」
 いきなり夏芽は愕然とした顔でへたり込む。
 それを横目に禊は夢姫の服を着直させていた。
「どうしたんだ?」
 一応夏芽に聞いてみる。
「や、なんでもないんや。あり得へん」
「はぁ?」
「男は知らん方がええ」
 少し落ち込んでいる様だった。
 なんだか凄い世界が今広がった気がする。
 だが禊は結構マジで怒っていた。
「夏芽、いい加減にしろっ! この子は怪我人だぞ!」
「悪かったなぁ〜。せや、代わりに禊でええか〜」
「は、はえ?」
 禊の顔が変わる。
 予想してない一言に驚いてる様だった。
 多分、冗談だよな。
 だって・・・俺いるし。
 それなのにいきなり禊に飛びかかる夏芽。
 俺はそんな夏芽にアルバトロス殺法を喰らわせた。
「お前、ちょっと暴れすぎ」
「・・・しゃあない。まあ禊はたっつーのもんやからな」
「ちげぇ!」
 ここでそういうネタを持ってくるとは思わなかったぜ。
 それに物扱いって禊じゃないんだから。
「そうだ。あたしは誰のモンでもないっ!」
「でもたっつーはどうなんや?」
「たっつーはあたしのもんだ」
 うわ、すっげー理不尽。
 予想できていた答えではあったが反応に困ってしまった。
 最近は禊の魅力に触れまくっていたからな。
 そう考えると禊の顔が可愛く見えてくるから不思議だ。
「なんだ、たっつー。あたしの顔をじっと見るなっ」
 むくれた顔をして俺に蹴りを入れてくる禊。
 いきなりだったのでかわせずにモロに喰らってしまった。
 大きく考えを修正しよう。
 こいつはただのガキだ。
「所でお前らマジで泊まる気か?」
「誰が冗談で寝る道具を持ってくるかっ」
「そうや。ウチもやぞ!」
 物凄い形相で二人が迫ってくる。
 今回は断れそうになかった。
「爺さんはどうするんだ?」
「そうですねえ・・・」
 ロフォケイル老に話を振った時、夢姫が目を覚ます。
 その寝ぼけ眼を見つめながら思った。
 この子って、寝てばっかだよな・・・。
 しかしすっきりした顔をしている。
 夢姫は上半身を起こすと頭を押さえた。
「頭痛い・・・」
「そりゃ、寝てばっかいるからな」
「・・・なんか変な夢を見た気がする」
 珍しく彼女に表情が生まれる。
 でもそれはなんだか悲しげなものだった。
「どんな夢やったんや?」
「解んない。何も思い出せない」

11月05日(木) PM21:47 晴れ
自宅・二階・大沢武人の部屋

 少ししてロフォケイル老が立ちあがる。
 彼はどうやら帰る様だった。
「そろそろ、おいとましますぜ。
 私のサポートは裏方が主なモンでね。
 夢姫さんは何か欲しい物とかありますかい?」
「・・・学校に行きたい」
 そりゃ無理だろう・・・。
 ロフォケイル老は困った顔をするかと思ったが、
 特にそんな様子もなく肯いた。
「ちと難しいですが、やっておきますよ。
 この一帯にある高校で宜しいんですか?」
「武人や禊の居る所が良い」
「だそうですが、どこの学生です?」
「俺達は・・・丞相学園ですけど」
 大したことじゃない様な口振り。
 まさかマジでそんな事が出来るんだろうか。
「それじゃ通知をこの家に届けるんで、
 そしたら学校に通える様になりますから」
「わかった」
 簡単な会話だけでロフォケイル老は部屋を出た。
 今のはマジ話なんだろうか。
 禊も夏芽もどうも計りかねてるみたいだ。
 それに結局、あの人はなんだったのか。
「夢姫、君やあのロフォケイルさんって一体・・・」
「あのおじさんは悪魔」
 悪魔みたいな人って事か?
 まあドス聞いてる人なのは確かだ。
 と、俺の質問もそこそこに夏芽が夢姫に抱きつく。
「夢姫ちゅわぁ〜〜んっ、可愛いなぁ〜〜〜っ」
「ありがとう」
 少し戸惑いつつも夢姫は平静を保っていた。
 夏芽の前で落ち着いてられるのは単純に凄いな。
「ええ胸の形やぁ〜」
 奴は調子に乗って夢姫の胸を揉み始めた。
 それも夢姫は無表情でかわす。
 さすがに夏芽の奴もそれには困った様だった。
「・・・止めたわ」
「え?」
 思わず声を漏らしてしまう俺。
 妙に達観した顔で夏芽は俺の方を向いてくる。
「なんや、変か?」
「あ・・・いや」
「この子なぁ・・・ええ子や。良さ過ぎて、なんか困るわ」
 一理ある様な気もする。
 何処か彼女の存在は神秘的な感じがした。
 その全てを見透かす様な瞳や、
 子供っぽくて素直な性格のせいだろう。
「たっつーが夢姫を直視しとる」
「どうしたの、武人」
「あたし以外の奴には目もくれるなぁっ!」
「うぉっ!?」
 三連続で言われても何がなんだか・・・。
 しかも禊は臨戦態勢だ。
 誤魔化しながら俺は寝る準備を始める事にする。

11月05日(木) PM22:04 晴れ
マンション・三階・雪羽冬子の部屋

 カーテン越しに映える月明かり。
 近くに置いた眼鏡に手を伸ばすと辺りを見回した。
 隣には冬子が寝ている。
 黒澤は自分の身体を少しだけ外気に曝した。
(・・・少々、寒いですね)
 何気なく黒澤は冬子の髪を撫でてみる。
 いつも一つに縛っている髪だが、
 紐を解いているので広がっていた。
 髪に触れると流れる様に手は髪を通っていく。
 今の所は全て思惑通り。
 ただ、そう単純でない事は解っている。
「霧生」
「起きて・・・いましたか」
「うん。まあな」
 冬子は少し躊躇う様に笑った。
 ゆっくりと彼女は毛布ごと上半身を起こす。
 そして近くにある煙草を手に取った。
「煙草ですか」
「お前は吸わなくなったんだな」
「美玖に止められましてね。
 あの子、健康管理が厳しいんですよ」
「はは・・・まるでお前の女房役じゃないか」
 煙草をくわえるとライターの火をつけて顔を傾ける。
 暗い部屋に一瞬だけ少しの光が灯った。
 冬子が吐き出した煙草の煙が複雑に揺れる。
「なぁ霧生、私だってもう・・・恋する乙女って歳じゃない。
 だからお前の事を何もかも信じる事は出来ないよ」
「仕方ない事です」
「・・・やれやれ、お前は私の事を全然解ってない」
「かも・・・しれませんね」
 煙草の灰を側にある灰皿に落とした。
 灰皿の中には煙草の吸い殻が溜まっている。
 髪をかき上げると冬子はため息を一つついた。
「でも、私はそれ以上に霧生の事を解ってないんだろうな」
「冬子・・・」
「悲しい事に、秘密のある奴に女は弱いんだ」
 伸びた煙草の灰ごと煙草を灰皿に押しつける。
 しゅっと火の消える音がした。
 それからしばらく冬子は何処かを見つめる。
 或いはそうする事で何かを考えている様だった。
「もし、お前がさっきの話の為に会いに来たんだとしても、
 そうだとしても・・・私は嬉しかったよ」
 思いがけない彼女の言葉だったが、
 驚く素振りを黒澤は見せない。
 頭のいい冬子なら気付く可能性はあると思っていたのだ。
 ただその反応は意外ではある。
 冬子はフランクに笑うと軽く黒澤の肩を叩いた。
「朝の来ない窓辺があればいいのに」
「同感です」
「ちっ・・・歌の歌詞だよ、まともに反応するな」
「残念ながら椎名林檎はあまり聞かないものでね」

第十九話へ続く