Back

黒の陽炎
−2ndSeason−

著作 早坂由紀夫

断章.持たざる者、その終幕
−Schwanengesang−


第二十三話
「法典の行方」


――月――日(―) AM――:――
エリュシオン

 イヴを含めたエクスキューターは、
 その日エリュシオンに召喚されていた。
 普段、彼らは責務という物はほぼ無いに等しい。
 ある二つの命令を除いては。
 黒い石の宮殿の奥、彼らは神の御影を目にする。
 薄いカーテンを隔ててその姿が現れた。
「愛しき物達よ。今回は、私直々にその命を告げよう」
 中性的で心の奥を掴まれるような声。
 恐らくはどれほど懐疑的な者であろうと、
 その声を聞けば目の前にいる者が神だと信じるだろう。
 それは有終の美、などという陳腐なものではない。
 永遠である事の至美。
 神という存在はそれを感じさせた。
 考えればその影ですら美しく見えてくる。
「ある学園へ赴き、冥典を守りきる事だ。
 邪魔する者は全て倒して構わない」
 イヴから伝えられる命令なら文句を言う事も出来た。
 だが神の声に反論するものはない。
 レイノスも千李も、他の者も。
 なぜなら、それは絶対だからだ。

11月16日(月) AM11:02 晴れ
自宅・二階・大沢武人の部屋

 あれから二日が過ぎていた。
 夢姫は相変わらず、桜の部屋から出てこない。
 鍵は掛かっていなかった。
 食事も渡せば普通に食べてくれる。
 ある程度はこちらの会話に返答してくれもした。
 だけど、この間までの彼女とはあまりに様子が違う。
 顔に力がなく、全てに絶望したような表情をしていた。
 涙を流さずに泣いているような、悲痛な表情を。
 それから学校へも行かなくなってしまった。
 あれだけ楽しいって言ってたのに。
 俺も今日ばかりは休みの電話を入れていた。
 今、夢姫の側を離れたら、
 そのまま彼女が消えてしまう気がしたから。
 昼飯の時間が来ると俺は桜の部屋へと歩いていく。

11月16日(月) PM11:10 晴れ
自宅・二階・大沢桜の部屋

 彼女は窓の方を向いたまま、静かにベッドに座っている。
 俺は昼食を乗せたトレイをベッドの上に置いた。
「さ、食べようぜ」
「ありがとう。たっつー」
 前よりも小食になった夢姫。
 どんどん痩せ細っていく様でいたたまれない。
 俺はなるべく明るく振る舞って食事を取り始めた。
「どうだよ夢姫、上手いだろ?」
「うん」
 彼女はほとんど食事をとらない。
 窓の方を見つめてばかりいた。
「どうして窓を見てるの?」
「同じ空を、なぁ君も見てる。たぶん」
 その口調からは以前までの意志は感じられない。
 まるでもう彼に会えないと考えているかのような表情だ。
 端から見ていてどうにもやりきれない。
 それにしても人間っていうのは、
 キスだけでここまで変わってしまうものなのだろうか。
 何か俺は不自然なものを感じずにはいられなかった。
 確かに好きじゃない人間とのキスは嫌かも知れない。
 けどこの反応は尋常じゃないよな。
 もしかしてトラウマでもあるのか?
 それも、恐らく男に対しての。
 この子の過去に何かそういうのがあったのだろうか。
 男で失敗っていうのは、夢姫には似合わないが・・・。
「夢姫って昔の事は何も覚えてないんだよな」
「・・・うん。ぼやけてて、よく解んない」
 それでも彼女の表情は自然と張りつめていく。
 俺は夢姫の表情を横目に、ただ俯くしかなかった。
 そんな時に携帯の着信音が隣の部屋から鳴り響く。
「あっちに置きっぱなしだったっけ・・・」
 立ちあがると俺は部屋から出ていった。

11月16日(月) AM11:23 晴れ
丞相学園・校門前

 その場所はいつもとは違う気配を感じさせる。
 どちらかといえば不穏な空気だ。
 校門の前へと歩いてくる二人の男。
 そこには雪羽冬子が立っていた。
「冬子、準備は出来ていますか?」
「ああ。お前がいても不自然じゃないように、
 話は通しておいたよ」
 彼女の表情は何処か暗い。
 これから犯罪に荷担するのだから、当然の表情だ。
 今からでも黒澤の事を説得して未遂に終わらせたい。
 しかしそんな考えは黒澤を見て吹き飛んでいた。
 その顔からは微塵も罪の意識が感じられない。
 無理矢理にやらされているという顔ではない。
 むしろ、これからの出来事を楽しむようなものだった。
「私は本当に、お前を信じてよかったのか・・・?」
「・・・それは私が決める事ではありません」
 一言告げると黒澤は冬子からカードを受け取る。
 それは客人用の入校許可証だ。
 二人はそのカードを使い、中へと入っていく。
 背後で冬子は不安に駆られていた。
 自分が間違った事をしたような漠然とした不安。
 不自然なほどに堂々とした黒澤の態度。
 それでも彼女は黒澤に従うしかなかった。
 少しだけでいい。
 黒澤との未来が現実に起こりうると信じたかったのだ。

11月16日(月) AM11:29 晴れ
丞相学園・職員室

 ほぼ直線で黒澤達は職員室へとやってくる。
 今の時間は授業中という事もあり、教師の姿は無かった。
 急いで冬子は地下階段の開閉スイッチを入れる。
 ガコン、という音がして地下への扉が開いた。
 スパコン自体は秘密ではないので、
 隠されているという事はない。
 余計に黒澤達の目的が冬子には解らなかった。
 学園内にあるスパコンに重要データがある。
 とはいえ、学園に関連の無い物などあるはずがなかった。
 ならばここまでして手に入れる価値など無いはずだ。
「冬子、行きますよ」
「あ、ああ・・・」
 三人は地下への階段を進んでいく。
 奥の方からは機械特有の低い音が響いていた。
 しばらく階段を進むと先に丸い部屋が見えてくる。
 そこには人間よりも巨大なコンピュータが稼働していた。
 ふと黒澤の隣にいるベリアルが喋る。
「アシュタロス、このスパコンに
 我々の探し求めるデータが保存されているのか?」
「いえ・・・よく見てください。このスパコンは、
 LAN回線のサーバーとして使われています」
 そこでベリアルは気が付いた。
 ネットに繋がっているパソコンならば、
 その中にあるデータを回収する事は不可能ではない。
 ここへくる必要性が無いのだ。
 黒澤は解答へと歩いていく。
「これが我々の探した法典ですよ」
 彼が丁寧に手を伸ばしたのは、
 近くに置かれている旧式のパソコンだった。
 旧式とはいえDOS/Vである事に違いはない。
 ただ神の法典を保存するにはあまりにも貧相ではあった。
「ふざけるなアシュタロス。このパソコンの何処に、
 700exaもの容量を保存できるというのだ」
「・・・確かに不可能です。
 ですが、間違いなくこれが私の探し物ですよ」

11月16日(月) AM11:13 晴れ
自宅・二階・大沢武人の部屋

 自分の部屋に戻ってくると、やはり携帯が鳴っている。
 番通は無し。非通知だ。
 訝しんでみても始まらないので俺は電話を取ってみる。
「ども。ロフォケイルです」
「あ、どもです」
 彼につられて俺も妙な挨拶をしてしまう。
 なんだ・・・この人か。
 でも、どうして彼はこの携帯の番号を知ってるんだ?
 そういえばこの間、彼は夢姫の携帯を見てた気がする。
 その際に俺の番号を自分の物に登録したのだろうか。
 だとしたら、なんてぬかりない人なんだ・・・。
「夢姫さんの電話に繋がらなかったんでね。
 なにか会ったのかと思いまして」
「ちょっと今、あいつ様子が変なんです。
 だから携帯の電源を切ってるのかも」
「・・・そちらにもうすぐ着くんで、待ってて下さい」
 明らかにロフォケイル老の声色が変わる。
 それは恐れや焦りが見え隠れするものだった。

11月16日(月) AM11:22 晴れ
自宅・二階・大沢さくらの部屋

 彼は10分ほどでやってきた。
 桜の部屋へ誰かを通すのは複雑な気分だが、
 今はそんな事を言ってる時じゃない気がする。
 夢姫は相変わらず空を見ていた。
 ロフォケイル老が来ても見向きさえしない。
「夢姫さん、どうやらまだ大丈夫そうっすね。
 この間の話ですが、冥典の正体が解ったんですよ。
 場所も予測がつきました」
「・・・冥典。めいてん、めいてん・・・よく、解んない」
 彼女は少し俯いて悲しそうな顔をした。
 嘘をついているとかじゃなくて、それは本当に思える。
 何故か夢姫は自分が探している物の事を忘れているのだ。
 でもそんな事、ありえない。
「なぁ君に唯一繋がるものです。
 貴方の全てに、繋がる法典ですよ」
 実に優しい口調でロフォケイル老はそう言った。
 なぁ君という言葉に反応したのか、
 夢姫の表情は少し張りつめている。
「・・・なぁ君に繋がる。会える。めいてん・・・探さなきゃ。
 ねぇ、おじさん、それは何処にあるの?」
 口調からして、ロフォケイル老の事も
 全く覚えていないようだった。
 この二日間ほどの時間で忘れたってのか?
 よくよく夢姫の事が解らない。
 今までこんな事は無かったハズなのに・・・。
「冥典はですね。本ではない。データなんです。
 そして手がかりは丞相学園の地下」
「え?」
 丞相学園の地下に夢姫の探し物がある?
 でも確かそこにあるのはスーパーコンピュータくらいだ。
 まさかその中にあるデータが冥典なのか?
「恐らくそこには隔離されたパソコンがあるはず」
「それって、一体・・・」

11月16日(月) AM11:33 晴れ
丞相学園・学園内地下

「機密保管にしてはチープなものですねぇ」
 黒澤がパソコンを立ち上げると、
 ログイン名とパスワードの入力欄が現れる。
 それらを黒澤はあっという間に入力した。
「ど、どうしてパスワードを知ってるんだ?」
「簡単な事ですよ。ログイン名は神の御名、を。
 そしてパスワードは全ての始まりの言葉、LightOn。
 つまり・・・光りあれ」
 黒澤の言葉と共にWindowsの起動音楽が流れる。
 しかし冬子には解らなかった。
 何故、その言葉がパスワードなのかが。
「ふふ・・・神の法典に相応しいパスですよ。実にね」
 デスクトップ内に目だったアクセサリなどは存在しない。
 最小限のカスタマイズを行った上で、
 Windowsがインストールされていた。
 めぼしいものと言えば解凍ソフトくらいだ。
 だがその中で一つだけ、フォルダが存在している。
 中には怖ろしい数のzipファイルがあった。
「これは・・・」
 黒澤はそれの意図に気付く。
 全てのファイルが同じ容量で圧縮されていた。
「ウィルスか」
 隣でディスプレイを見ていた冬子も気付く。
 恐らくはこういう事だ。
 間違ったファイルを展開、解凍してしまえば、
 全ては塵も残らずフォーマットされる。
 ファイル総量は1000。
 可能性は単純に考えれば1000分の1。
 だが黒澤はその可能性を信じられるほど馬鹿ではない。
 勿論、この可能性を考えていないわけでもなかった。
 彼は持参してきたバッグから一つのCDを取り出す。
「同業者のよしみで信用させて頂きますよ、先生」
 そのCDをパソコンのDドライブに入れると、
 ウィルススキャンソフトをインストールした。
 すぐにそれを起動させてウィルスチェックを行う。
 1000あるファイルの内、999が感染していた。
 それらをチェックし他フォルダに隔離する。
 残ったのは1つのzipファイルだ。
 それをデスクトップへと引っ張り出すと、
 黒澤はダブルクリックする為にマウスを動かした。

11月16日(月) AM11:35 晴れ
丞相学園・1−A

「先を越されたみたいね・・・」
 授業中にもかかわらず、女性は立ちあがる。
 周りの好奇の視線に曝されながら、
 彼女はある男の席へと歩き出した。
「カマエル」
「あいあいさー。ったく、悪魔に先を越されるなんて、
 こりゃ後でミカエルさんに大目玉ッスね」
「ふん。まだ間に合うわ。行くわよ」
 あざけるように笑うとカマエルは教室のドアを開ける。
 教師が止めようとしたが、それを彼女は一瞥した。
 身体中の毛が逆立つような冷たい瞳で。
 動けなくなった教師を後に、二人は一階へと走り始める。

11月16日(月) AM11:36 晴れ
丞相学園・2−B

 黒澤がパソコンを操作している頃、
 ブライアン=テイストは授業を中断する。
 不確かだが彼は黒い靄のようなものを感じていた。
 学園の中心でそれは何かを行っている。
 何の迷いもなく。
 だから彼は理解した。
 それが神の敵であると。
「どうしたんですかセンセー」
 固まったままの彼に生徒がそう尋ねた。
 すると彼は表情を笑みへと変える。
「突然ですが皆サン、授業は終わりです」
「え、ブライアンさん?」
 マニュアルにない行動に教師が立ちあがった。
 それに合わせて彼の左腕がゆっくりと上がる。
 その手にはエクスキューターの証である、
 666の刻印が刻まれていた。
 それを見るなり教師が急に苦しみ始める。
 顔の色が紫へと変わっていき、表情が歪んでいった。
「きゃあああっ!」
 教師のあまりの形相に誰かの叫び声が上がる。
 辺りのものを破壊しようとする教師に、
 ブライアンは手を翳した。
 すると教師は黙ってブライアンの前にひざまずく。
「そう簡単に神の書物に近づく事は、許されまセンよ」

11月16日(月) AM11:38 晴れ
丞相学園・学園内地下

 黒澤はマウスをワンクリックした。
 するとファイルが青くなる。
 そこで不意に黒澤は疑問点が浮かんできた。
 気にも留めていなかった事だが、
 フォルダを開いた時にステータスバーが無かったのだ。
 さして気にするほどの事ではない。
 しかし、可能性として疑わしいものではあった。
 ステータスバーを消す理由。
 そこに書かれている情報を知られたくない、という可能性。
 もう一度フォルダを開く。
 表示の項目からステータスバーを表示させた。
 変化はない。
 当然ではあった。
 隠しファイルがあるのなら、Ctrl+Aを押して
 全て選択した時点で知る事になる。
 ただ、可能性はまだあった。
 フォルダオプションを見てみると、
 隠しファイルを表示しないに設定されている。
 全てを表示するよう設定してそれを反映させた。
 するとデスクトップに一つのファイルが現れる。
「・・・してやられる所でしたね」
 そのファイルにもウィルスチェックを行ってみた。
 ウィルスは検出されない。
 それを黒澤はダブルクリックで解凍しようとした。
 だが解凍ファイルではないと言われてしまう。
「ほう。偽装をかけているわけですか」
 手持ちの拡張子識別ソフトで解析をかけてみるが、
 出た答えは見た事もない拡張子だった。
「恐らくこれは自作の圧縮形式・・・。
 容量を考えればこのパソコンで解凍するのはまずいですね」
 そのパソコンのCドライブ容量は40GBだ。
 解凍しようとしているファイルは600MBほどだが、
 自作の圧縮がどれほどの物なのか見当がつかない。
 手早く黒澤はそのファイルをCDにライティングした。
(とりあえずこれで冥典の在処へ一歩近づいたようですよ。
 そう、君の存在に近づいたわけです、ジブリール)
 パソコンの電源を切る前に、
 ふと思い立って先のファイルを解凍してみる。
 1000の内、ウィルス感染してなかったファイルだ。
 彼がファイルを解凍した瞬間、
 画面の映像が上から滝のように下へと流れて行く。
 1と0の数字が後に残り、それもすぐに消えてしまった。
 電源ごと落ちてしまっている。
 黒澤はパソコンを起動させようとするが、
 すでにハードディスクの回転音は聞こえてこなかった。
「HDクラッシュですか。やはり先生を信用しすぎるのは
 考え物、という事ですかね・・・実に残念です。
 さてベリアル。そろそろ行きましょうか」
「アシュタロス、何者かがこちらへと近づいてくるぞ」
 ベリアルは表情厳しく上の壁を睨んでいる。
 片方が天使である事は解っていた。
 もう片方が不鮮明だから彼は『何者か』と呼んだのだ。
 そう言うベリアルへ冷静に黒澤は言葉を返す。
「予想は付いています。彼らと一戦交えれば、
 我々も無傷で逃げる事は出来ません。
 特に、この冥典を得なければ意味がないですしね」
 黒澤の手に握られたCD−R。
 彼は立ちあがると用意をして出口へと歩き出した。
「おい黒澤・・・」
 不安そうな顔で冬子は黒澤を見つめる。
「心配は無用です。私達は必ず、勝利者となる。
 信じていて下さい」
「・・・うん」
 そういうと黒澤は冬子の肩に手を置く。
 そんな二人をベリアルが訝しんで見ていた。
(吐き気がするような台詞だな。今更この女に、
 そんな言葉をかける必要がどこにある?
 すでに役目を終えたのだ。捨ておけばいいはず。
 まさか・・・情が移ったというのか?)

11月16日(月) AM11:26 晴れ
自宅・二階・大沢さくらの部屋

「冥典自体は完全な形でこの世に存在してはいない。
 気付くまで時間がかかりすぎましたが、そういう事です」
「は、はぁ・・・」
 ワケの解らない話をされて俺は戸惑っていた。
 けど肝心の夢姫が彼の話を聞いていない。
 彼女は立ちあがって着替えようとしていた。
「ちょ、ちょっと夢姫! 一体どうしたんだよ!」
 俺の言葉を気にも留めずに服を脱ぎきってしまった。
 一糸まとわぬ状態だが彼女は身体を隠そうともしない。
 そしてクローゼットで適当な桜の服を見繕うと、
 彼女はそれを持って歩き出した。
 目を手で隠してしまうがちょっと見えてしまう。
「ど、何処に行くんだよ夢姫」
「急いでお風呂入ってくる。そしたら、学校に行くよ」
「・・・そっか、じゃあ俺も付いてくからな。良いか?」
 今はまだ夢姫を一人にさせたくなかった。
 それに今日はなんだか胸騒ぎがする。
「うん。わかった」
 夢姫は振り返ってそう言ったみたいだった。
 よく見れなかったので解らない。
 なんだか、ホントによく解らない子だ。
 キスでショック受けるかと思えば、平気で裸になれる。
 どう考えてもおかしい気がした。
 でも今は、彼女の裸が頭を駆けめぐって考えられない。

11月16日(月) AM11:36 晴れ
自宅・一階・玄関

 あっという間に夢姫は風呂を済ませて着替えてきた。
 桜の着てた肌色のタートルネックを着ている。
 それが思いのほか似合っていた。
 と、そんな姿を見てる余裕もなく彼女は歩き出す。
「急ご。早くなぁ君に会いたい」
 手を引かれて俺は玄関まで歩いてきた。
 さりげなくロフォケイル老も付いてくる。
 そんな時、俺の携帯の着信音が鳴り出した。
 慌ててコートの内ポケットから携帯を取り出す。
 誰かと思えば・・・夏芽だ。
 通話ボタンを押すと携帯に耳を当てる。
「もしー」
「た、たっつーか。今、どこにいるんやっ」
 夏芽はぜぇぜぇと息を切らせていた。
「おう。自分の家だよ。で、これから学園行くトコ」
「そら良かった・・・って、来たらあかんっ」
 電話越しに夏芽はそう叫ぶ。
 なんだか妙に切迫してるみたいだが、
 先生とかが怒ってるのだろうか。
「夢姫が用事あってさ、行かなきゃ」
「っ・・・なら勝手にしいや、このアホッ」
 ブチッという音と共に電話が切れた。
 最後のしおらしい声は一体?
 何か・・・様子が変だったよな。
 気付くと夢姫は靴を履きおえて外に出ていた。
 それに続いて俺も外へ出ていく。
「夢姫さん。もしかすると、
 急いだ方がいいかもしれませんぜ」
「・・・わかった」

第二十四話へ続く