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黒の陽炎
−3rdSeason−

著作 早坂由紀夫

Blue eye's Heritage

Chapter83
突然の招待状


2009年
12月23日(水) AM02:34 晴れ
寮内・真白の部屋

 夜中、ふっと目を覚ましてしまう。
 なんだか最近よくこうやって夜中に起きる事が多かった。
 大体は悪夢から覚めて、がばって感じ。
 どうにも嫌な感じだ。
 私は夜があまり好きじゃない。
 嫌な事はいつも夜に起こるから。
 寝付けなくなって、私は凪さんの事を考えてみた。
 凪さんは二年生になってから元気がない。
 そう、いつも見てるから解っちゃうんだ。
 それに・・・妙にカシスさんと仲が良い。
 カシスさんという人は凪さんの話だと悪魔らしかった。
 今までずっと傷つけあってたはずの相手と、
 あんなに仲が良いなんてどう考えてもおかしい。
 彼女と居る時だけは元気そうに見えるし。
 もしかして、付き合ってる?
 頭をぐるぐる回して考え直す。
 そんな事は考えたくない。
 誰かと凪さんが付き合ってるなんて、考えたくない。
 はあ・・・やっぱり夜は嫌いだ。
 考えなくていい事を考えちゃう。
 でも本能では夜を凄く悦んでる気がした。
 だって吸血鬼としての私はまだココにいる。
 薄れてしまってるだけで、私の中に居るんだ。
 凪さんは前に私の事を人間だって言ってくれた。
 だから私はココにいる。居られる。
 本当は悩んでいたりもした。
 今の私は人間だけど、吸血鬼が転生した人間だ。
 完全な人間じゃない・・・と、思う。
 そうだとしたら、本当に私はココにいて良いのかな。
 吸血鬼として生きるべきなんじゃないかな。
 考えるだけでそうしようとは思わなかった。
 私が何処かへ行ったらお母さんやお父さんが悲しむし、
 なにしろ凪さんと会えなくなってしまう。
 友達とだって二度と会えないと思う。
 ただ、時折私を悩ませるのは・・・血の所為なのかな。
 フィメールが死んだ時から、
 私は自分の事をたまに考えるようになった。
 人間と吸血鬼の境とも言える私の立場。
 果たして自分は、どっちに近いのか。
 少し眠気が襲ってきた。
 もう考えるのは止めにして寝よう。
 この事はもう決めたんだから。
 私は私。人間で良いんだ。
 どうしてこんな事を考えちゃったんだろう。

12月23日(水) AM07:56 晴れ
寮内・真白の部屋

 寝ぼけ眼を擦ってみた。
 身体の状態を考えると明らかに寝足りてない・・・。
 顔、少しむくんでるかも。髪もボサボサだ。
 するとまた同じ部屋になった結羅ちゃんが、
 私の事を見て笑ってくる。
「真白、早く顔洗ってきなよ」
「うん。あはは・・・」
 苦笑いで私は洗面所へと歩いていった。
 顔を洗いながら私はふと考えてみる。
 そういえば、去年から凪さんと紅音さんて何処か様子が変。
 凪さん達は普通にしてるつもりだと思うけど、
 あの態度じゃ誰にだってバレバレだと思う。
 何しろ前の二人は誰も引き裂けないくらいに親密だった。
 私が彼を諦めようかなって思うくらいに。
 けど今は紅音さんのスペースをカシスさんが埋めている。
 凪さんと同じ部屋になったカシスさん。
 人間の名前は公野来栖(きみの くるす)さん。
 彼女は凪さんの性別を知ってる上に、
 同じ部屋で暮らしているのだ。
 ある意味、紅音さんよりも要注意かもしれない。
 何しろ積極的な子だから、私も負けないようにしなきゃ。
 私は洗面台で一人意気込んでみた。

12月23日(水) PM12:53 晴れ
白鴎学園一階・大食堂

 最近は寒いので公園跡にはあまり行かない。
 代わりに学園内の食堂に来ていた。
 沢山の人達がテーブルに座って食事している。
 考えてみると寮にも食堂があるし、
 結構この学園って無駄な作りしてるんだなぁ。
 私は人混みの中から凪さんを捜そうとした。
 居ない・・・。
 まだ来てないのかな。
 なんだか、しょんぼりな気分だ。
 仕方なく私は適当なテーブルを確保してから、
 Aランチを頼みに行く。
 ちなみにAランチっていうのは一番安い奴。
 食堂のおばさんが渡してくれたランチを手に持つと、
 私は自分の確保したテーブルへと歩いていく。
 するとそこには男の子達が座っていた。
 うわぁ、なんか賑やかで座りにくい雰囲気。
 っていうか私の荷物はどかされちゃってる。
 さり気なく荷物を手に取ると、
 私は違うテーブルを探す事にした。
 これだから食堂は苦手・・・。
 そんな時にぽんぽん、と誰かに肩を叩かれる。
「真白ちゃん、席探してるの?」
「あ、凪さんっ」
 どうやら彼は今来た所らしかった。
 彼は例によって二人分の注文をするらしい。
「あっちの方に席を取ってあるから、一緒に食べようか」
「はいっ」
 やった〜っ。誘われちゃったよぉ〜。
 喜んで私は凪さんの言ったテーブルへと歩いていく。
 そうすると、そこにはやはりカシスさんがいた。
 彼女は髪留めを使って髪を一纏めにしている。
 いつもより可愛らしい髪型になっていた。
 カシスさんの事をそうやって見ていると、
 私と彼女の視線が合ってしまう。
「お久しぶりですね、カシスさん」
「なんだ、真白か。なの」
 カシスさんは席に座ったままで、
 半分寝そべりながら私の方を見ていた。
 敢えて私は席を一つ空けて隣に座る。
 二人で居ても喋る事はなくて、嫌な沈黙が流れていた。
 そんな空気に気付かず凪さんが戻ってくる。
「お待たせ」
「凪、遅いの」
「ごめんね・・・って、私は真ん中ですか」
 渋々と凪さんは真ん中の席に座った。
 隣のカシスさんにランチを渡すと、
 彼は自分の分を食べようとする。
「はい凪さん、あ〜んってして下さい」
 すかさず私は自分の分の唐揚げをすくって、
 凪さんの口へ運ぼうとした。
 するとカシスさんが顔を近づけて唐揚げを食べてしまう。
「なんで貴方が食べるんですかっ」
「安全の為に仕方ないの」
 私のランチは毒入りですか?
 むすっとした顔でカシスさんの事を睨んでみた。
 彼女は私が睨んでも動じる様子はない。
「は、はは・・・ごめん、真白ちゃん」
 悔しいけど凪さんに謝られたら、
 もう怒るわけにはいかなかった。
 気分を晴らす為に私はガツガツと御飯を食べる。

12月23日(水) PM15:23 晴れ
寮内・真白の部屋

 しばらくして私は部屋に戻ってきた。
 どうにもカシスさんとは友達になれそうにない。
 ええ、解ってますとも。
 彼女は凪さんの事が好きなんだ。
 だから私が気にくわない。
 いつもだったら私は引き下がっちゃうんだけど、
 凪さんの事に関しては負けるわけに行かなかった。
 絶対にカシスさんには負けないっ。
 軽くガッツポーズをとって意気込んでみた。
 そんな時、ふと自分の机に手紙が置いてある事に気付く。
「あれ?」
 私宛ての手紙・・・だろうか。
 それは薔薇の形に封がしてあって、
 凄く品のいい手紙だった。
 宛名の所に目を移してみる。
「ブラッド、アライアンス?」
 聞いた事ない名前だ。
 でもブラッドって確か、血の事だよね。
 そこから吸血鬼を想像するのは容易だった。
 またそういう関連の事なのかな。
 いいや、開けてみるだけ開けてみよう。
 中身は一枚の厚紙だった。

 「12月25日、クリスマス・ディナーに招待致します。
        若き夜の姫君、神無蔵真白様」


 パソコンか何かを使ったのか、
 整った文字でそう書かれている。
 クリスマス・ディナー?
 なんだか胡散臭い気がするのは気のせいだろうか。
 わざわざ私なんかを呼んだりする辺りが凄く怪しい。
 けど・・・姫君。ちょっと嬉しいかも。
 生まれて初めてそんな言葉を使われた気がした。
 ただ具体的な事は何も書いていない。
 何処でやるのかとか、何時だとか。
 これは一体どういう事なんだろう。
 まあ、おかげで凪さんに会う理由が出来ちゃった。
 早速私は凪さんの部屋へと歩いていく。

12月23日(水) PM15:46 晴れ
寮内・凪の部屋

 凪さんの部屋へと入ろうとして気が付いた。
 そういえばカシスさんも居るんだっけ。
 思わずドアを叩こうとする手が止まってしまう。
 あの人、私の事を冷たい目で見るからなぁ・・・。
 そんな時急に背中に何かがのしかかってきた。
「うわぁっ!?」
「人の部屋の前で何してるの、真白」
 カシスさんは顔を私の肩に乗せて抱きついてくる。
 なんか妙に馴れ馴れしい態度だった。
「凪なら今は居ないはずなの」
「そ、そうなんですか」
「どうせだから私と部屋で待ってるの」
 そう言ってカシスさんはドアを開けて私の背中を押す。
 少し強引だけど、私を誘うなんて不思議だなぁ。
 どういう風の吹き回しなんだろうか。
 中に入ると、彼女と私はテーブルに座った。
 彼女はにこにこと笑いながら私の方を見てくる。
「凪の事はもう諦めた方が良いの」
「・・・それ、どういう意味ですか?」
 いきなり何を言うかと思ったら、凪さんの事だ。
 私に諦めろなんてどうしてカシスさんが言うんだろう。
 そりゃあ私の事を邪魔だって思ってるのは解るけど・・・。
「凪は私の奴隷だからなの」
「は、はい?」
「私が調教して、女の悦びを解るようにさせたの。
 もうただの女じゃ凪を満足させられない」
「え〜と・・・い、意味が解らないんですけど」
 調教とか奴隷とかワケが解らない。
 それに女の悦びって、凪さんが?
 少しだけ想像してみる。
 あ、全然変じゃないかもしれない。
 凪さんは可愛いから違和感無さそうだ。
 ・・・って私は何を考えてるんですかぁ〜!
 頭を左右に振って妄想を振り払った。
「凪は毎日バイブを入れたまま授業を受けてるの。
 夜はご褒美に、私が疑似性器を付けて・・・」
「そんな事はしてませんっ!」
 ドアの方からそんな声が聞こえてきた。
 慌てて凪さんは私達の方へ走ってくる。
「カシス〜・・・あんたはどうしてそう、
 危ない嘘ばかり付くのよ」
「ふん。誤解させて真白に凪を嫌わせようとしたのに」
 そ、そんな策略があったんですか。
 カシスさんの邪悪さに思わず、ため息が口をついて出た。
 凪さんは私の方を向くと笑って言う。
「真白ちゃん、カシスが言った事は全部嘘だから」
「解ってますよ。私、凪さんを信じてますから」
 私はにこっと笑ってそう言ってみた。
 本気だと思ってくれたかな。
 とりあえず凪さんはほっとしてくれてるみたいだった。
「えと・・・それで真白ちゃん、何か用事だったの?
 こんな半端な時間に部屋に来るなんて」
「あ、そうでした」
 例の手紙の事をすっかり忘れかけていた。
 手紙をテーブルに置いて、凪さんに渡す。
「これなんですけど・・・」
 するとカシスさんは手紙を見ようとしてるのか、
 凪さんの隣に座って密着し始めた。
 ぐぐ、どちらかというと私への当てつけにも見える。
 対抗して私も凪さんの腕に絡みついた。
「え、えぁ・・・あの、二人とも・・・?」
 彼は困った仕草で私とカシスさんを見る。
 カシスさんはさらに胸を押しつけていた。
 強敵かもしれない。
「これって真白ちゃん、また吸血鬼に狙われてるって事?」
「胸が当たってるの誤魔化してます?」
「は?」
「あ・・・いえ」
 思ってた事を言っちゃった。
 だって、凪さんの顔が緩んでるからそう思っちゃう。
 私も負けずに胸を押しつけようとした。
 すると凪さんは立ちあがって窓の方へと逃げてしまう。
「身体を武器にしようとするなんて卑怯なの」
「それはどっちですかっ」
 先に胸を押しつけたのはカシスさんのくせに。
 私達とは裏腹に凪さんは真面目に手紙を読んでいた。
「真白ちゃん、明日と明後日は私と一緒に行動しよう」
「え?」
 何を言われたか解らなくて私はきょとんとしてしまう。
 明日と明後日って、イヴと本クリスマスだよね。
 その日に、私と行動するって事は・・・。
「この手紙の様子だと、きっとその間に誰かが
 真白ちゃんを連れに来るはずだから」
「は、はい、そうですねっ」
 理由はともあれクリスマスを凪さんと過ごせる。
 上手くすれば二人の仲が急接近なんて事もアリ?
 クリスマスプレゼントなんかも用意しなきゃ。
 指輪とかだと重いかなぁ・・・。
 でもペアで一緒のを付けたりとか、やってみたい。
 まるで恋人みたいだけど、クリスマスだもん。
 この日ばかりは恋人気分を味わったって良いはずだ。
 凪さんとペアリング、かぁ。
「えへ、へへぇ〜」
「あの・・・真白ちゃん?」
「はっ」
 危なくめくるめく妄想の世界に行ってしまう所だった。
 気持ちを落ちつかせなきゃ。
「とにかく、今日から気を付けてね」
「襲われて処女を失った頃にでも助けてあげるの」
 さりげなくカシスさんはとんでもない事を言ってくる。
「絶対その前に凪さんが助けに来てくれますよね〜っ」
「ええ? ああ、うん」
 そこで私は今口をついて出た言葉が、
 自分は処女だって認めてる様な物だと気付いた。
 うわ、恥ずかしい・・・。
 両手で顔を覆って隠すけど、凪さんは解ってるみたい。
 気まずそうに私の方を見て苦笑いしていた。

12月23日(水) PM16:23 晴れ
寮内・凪の部屋

 真白が帰った後で、カシスはため息をつく。
 特に彼女は真白の事を考えているわけではなかった。
 寧ろ、真白の悩みを安易に請け負ってしまう
 凪の姿勢が気にくわない。
「どう考えても今の凪が真白を助けられるとは思えないの」
「そんな事言ったって放っておけないよ」
「・・・はぁ。天然記念物モノの馬鹿なの」
 自分の事は凪が一番解っていた。
 かといって真白の事を放っておけるほど、
 凪は器用な人間ではない。
「ルシードとしての力も出せないのに、
 もしもの時どうやって助ける気なの?」
「解らない・・・けど、カシスだっているしなんとかなるよ」
 いつの間にか凪は力を使えないようになっていた。
 理由は凪は勿論の事、カシスにもよく解っていない。
 だが今の凪は確かに普通の人間と変わらなかった。
「私の協力が欲しいなら、ご褒美をくれなきゃ困るの」
「は?」
 テーブルから立ちあがるとカシスは水を具現する。
 すぐさま水の手錠を形作ると、
 凪の両手足を拘束して床に押し倒した。
「な、なんなのよ、この展開はっ」
「ご褒美の前借りなの」
 カシスは凪の上にぺたんと座る。
 それから彼女は凪の上着を脱がせていった。
「ちょ・・・止めてってば!」
「そんな事言っても、ココは凄く嬉しそうにしてるの」
 凪の男根の上でカシスは腰をくねらせる。
 カシスからすれば服の上からでも、
 彼の男性器が勃起しているのは明らかだった。
 両手両足を拘束された凪を見ている所為なのだろうか。
 通常よりもカシスは興奮しているようだった。
 下着に自分の手を入れながら凪の唇にキスをする。
 それもただキスするのではない。
 上唇を引っ張るようにもどかしく口づけた。
 口づけの間もカシスは自分の胸や陰核を愛撫し続ける。
 馴れた手つきで動く彼女の右手には、
 すでに愛液がべっとりと付いていた。
「ん・・・凪、もう入れたいの」
「あのさ、先に・・・御飯食べない?」
「そんな事言って誤魔化されはしないの」
 彼の下着を脱がせると、カシスは
 自分で局部を広げながら凪と繋がろうとした。
 そんな時に、部屋にチャイムの音が響く。
 逡巡した後にカシスは行為を諦めたようだった。
「タ、タイミング悪すぎなの・・・」
「カシスッ。これ解いてよ」
「・・・仕方ないの」
 不完全燃焼にかなり苛つきながらカシスは立ちあがる。
 それから彼女は急いで服を着直した。
 戒めを解かれた凪もすぐに服をちゃんと着る。
 そうして凪は立ちあがるとドアへと歩いていった。
「どちら様ですかー?」
「あ、私です」
 声は真白のものだった。
「御飯食べに行きませんか?」

12月23日(水) PM20:14 晴れ
寮内・真白の部屋

 夕飯を終えると私は部屋でぼけっとテレビを見ていた。
 ふと食事してる時のカシスさんを思い出す。
 食事中のカシスさんは凄く機嫌が悪かった。
 彼女は私の所為だって言ってたけど、良く解らない。
 何か悪いコトしたかなぁ?
 あんなに噛み付くような目で見られると怖いよ。
 結羅ちゃんは丁度お風呂に入っている所だった。
 一人でする事もないけど、テレビを消してみる。
 辺りの音が消えて無音になってしまった。
 聞こえてくるのはシャワーの音くらい。
 そんな時に、私は強い念波を感じて窓の方を見た。
 何処だろう。
 ここから近くに二人の仲間がいる。
 二人ともはっきりとした波長で私を呼びかけていた。
 そこまで来いって事なんだと思う。
 敵意は無い。純粋に会話をする気だと感じた。
 とりあえず今の時点では。
 私は凪さんを呼びに急いで部屋を出た。

12月23日(水) PM20:27 晴れ
学園前・校門

 私は凪さんを連れて校門の所まで来る。
 何故かカシスさんも付いてきてるけど、
 こんな時はどこか心強い気がした。
 校門の所には堂々と二人の男性が立っている。
 その二人は特別に吸血鬼らしい服装はしていない。
 スーツにコートという違和感のない出で立ちだった。
 一人は髪が短くて、金髪。
 鋭い目つきをした男の人だ。
 もう一人は少し長い髪の眼鏡をかけた人。
 知的な感じがにじみ出てる様に思える。
 二人は私達に気付くと、ゆっくりと膝をついた。
 予想外の反応に私は驚いてしまう。
「あ、あの・・・」
「初めまして姫君。我々はブラッド・アライアンス。
 つまり吸血鬼が組織する機関からの使いの者です」
 眼鏡をかけた男性は、そう言って鮮やかに微笑んだ。
 ちょっとだけ姫君というのがくすぐったい。
 二人はゆっくりと立ちあがった。
「私はルガト=K=ルーフェンス。
 ベバル、君も挨拶したまえ」
 眼鏡の男性はそう言って自己紹介する。
「俺はベバルラン。セカンドネームは無い」
 鋭い目つきの男性も彼に習って挨拶をした。
 全く敵意は無さそうに見える。
 カシスさんもそんな二人の態度に困惑してる様だった。
 戸惑う私にルガトという人が言う。
「実は25日に行われるパーティに出席して頂きたく、
 我々は日本に訪れ貴方をお誘いに来たのです」
「・・・あの手紙に書いてあったディナーの事ですか」
 ようやく意味が飲み込めてきた。
 あの手紙に場所と時間が書かれていなかったのは、
 すぐにこの二人が来る事になってたからなんだ。
「ええ。我々の所有する島で行われるディナーです。
 私達は貴方をその島へ招待しに来たのですよ」

Chapter84へ続く