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黒の陽炎
−3rdSeason−

著作 早坂由紀夫

Blue eye's Heritage

Chapter88
聖夜の儀式(W)


 彼女はただ、涙を流し続ける。
 あの光景が今もずっと頭を駆けめぐっているんだろう。
 僕は何も出来ず、彼女に胸を貸しているしかなかった。
 今でも自分の中にはアンチノミー、
 つまり二律背反が精神を浸すように息づいている。
 それが結果として全てを壊したというのにだ。
 空は考えられない程に澄み切っている。
 積もった雪は繊細な彼女の心みたいな新雪だった。
 雪原には僕達の足跡しかない。
「ほら、もう・・・泣くなよ」
 ぶっきらぼうな口調で僕はそう言った。
 僕は少し躊躇いながらも、
 なんとか彼女に微笑んでみせる。
 それから強く彼女の肩を抱きしめた。
 拒絶されても仕方ない。
 まだ、大した時間が経ったワケじゃなかった。
 それでも彼女は憂いを秘めた瞳で、偽りの笑みを見せる。
 僕は彼を確かに尊敬していた。
 彼女は彼を確かに愛していた。

  そして、僕は全てを裏切った――――。

12月25日(金) PM17:35 晴れ
城内・三階廊下

 部屋から零れる光は少し揺れているようにも見える。
 怯えちゃ駄目だ。
 きっとそれは蝋燭のせいに違いない。
 昔に見た探偵漫画でそんな話があったはずだ。
 そうやって自分を落ち着かせる。
 足を前へと進ませようと努力した。
 部屋の近くから恐る恐る中を覗いてみる。
 私達がいる客室とそんなに内装の違いは無さそうだ。
 でも、人影を見つける事が出来ない。
 さっきまで明かりはついてなかったんだから、
 ここには誰かいなくちゃいけないはずだ。
 誰もいないなんて事はありえない。
 入ってみれば解るはずだ。
 足の踵を上げて、そろりと差し足で移動する。
 引き戸になっているドアの向こうが妙に気になった。
 半分だけしか開いてないドアのあちら側に、
 もしかして誰かが隠れてたりしないだろうか。
 普通に考えればそんな事は無いと解っていた。
「誰も居ませんよねぇ〜、あは、はは〜」
 掠れるような声を出しながら私はドアの裏を確かめる。
 勿論ながら誰も隠れてはいなかった。
 私はドアを壁ギリギリまで開くと、
 そっと部屋の中を覗いてみる。
 部屋の中にはドレッサーやベッドなどが置かれていた。
 それを使う吸血鬼の姿は見えない。
 居ない、という事実は私に不気味さを感じさせた。
 勝手に部屋の明かりがつくなんてあり得ない。
「ほ、他の部屋にいるよ。そうに決まってる」
 思わず私は部屋の中へと入っていった。
 バスルームとかを探しても人影は見えない。
 少しずつ理由のない恐怖が心を締め付けていく。
 手に嫌な汗をかいていた。
 背中に視線を感じて振り向いてしまう。
 誰もいない事が解ってるのに、
 辺りを何度も確認して安心しようとした。
 大体にして、私はこんな所で何してるんだろう。
 ちょっとお腹も空いてきた。
 こんな部屋を調べるのは止めて、さっさと階段を探そう。
 そう思った時だった。
 天井から何かが落ちてくる。
 ・・・なに?
 赤い、血のような液体。
 何気なく私は天井を見上げてみ

12月25日(金) PM17:42 晴れ
城内・二階廊下

 ベバルランは廊下で腕を組みながら考え事をしていた。
 目を閉じ、凪の部屋の前で彼は立ち止まる。
 今でも彼の瞼には遠い昔のある光景が焼き付いていた。
(お前は決して俺を思い出しはしないだろう。
 だが、それでいい。それで良いんだ)
 そんなベバルランに部屋から出てきた凪が気付く。
「あの・・・?」
「人間の娘か。そうか、ここはお前の部屋だったのか。
 すまないな、特に用があるわけじゃない」
 不思議そうな顔をする凪にベバルランはふと思った。
(この女、どこか・・・似ている)
 彼は凪が気付く程にじっと凪の事を見つめる。
 多少身構える凪だったが、彼は軽く笑った。
「安心しろ。ただ、お前の顔が、
 俺の知り合いに似ていて驚いただけだ」
「・・・それは、真白ちゃんと関係あるんですか?」
「真白、か。まだその名には馴染めないな」
 ベバルランはそう言うと苦笑いする。
 何処か彼は凪に親近感を抱かずにいられなかった。
 似ているベバルランの知人が、
 彼にとって家族と言える程の存在だったからだ。
「良かったら私に彼女との関係を教えてくれませんか」
「なに?」
「その・・・彼女、昼頃から様子がおかしくって。
 出来れば力になってあげたいんです」
 心当たりがあるわけではない。
 ただ凪は真白の様子が変わったのは、
 吸血鬼が原因かもしれないと考えていた。
「確かに今、彼女は何かで悲しんでいるようだ。
 だがそれは吸血鬼が原因じゃあないと思うがな」
「え?」
「俺はてっきり、お前達の問題だと思っていた」
「・・・私達の、問題」
 凪は昼前のカシスとの事を思い出す。
 もしも自分達の間で問題が起こるとすれば、
 それくらいしか凪には思い当たらなかった。
 そうだとすれば、原因は全て凪にある事になる。
 考えれば考える程に凪は言葉を失ってしまった。
(真白ちゃんがあの現場を見てたとしたら・・・
 自意識過剰なのかも知れないけど、でもそうだとしたら)
 慌てて凪は真白の部屋へと走っていく。
 ドアを叩くようにしてノックするが返答はなかった。
 凪の様子を見てベバルランは言う。
「彼女ならすでに食堂へ向かったのではないか?」
「そ、そっか・・・」
 納得すると凪は一階へ下りようと歩き出した。
 その足は前方からやってきたカシスによって止められる。
「食堂には誰も居ないの」
「誰も?」
 言葉を聞いたベバルランの顔つきが変わった。
 明らかにその表情は動揺している。
「ルガトめ、まさか動き始めたのか・・・?」
「ど、どういう事!?」
 事態が飲み込めずに凪はベバルランを不思議そうに見た。
 辺りには何の変化もない。
 違うのはベバルランの明らかに焦った態度だ。
「恐らく一部の吸血種達が彼女を狙っている。
 最悪、いや・・・まず彼女は捕まっていると見ていい」
「真白ちゃんが狙われてる? でも、どうしてっ!」
 戸惑いながら凪はそんな疑問を抱く。
 かつて襲われた時と同じ理由なのか。
 そう思っただけで凪はぞっとした。
「目的は俺も解らない。ただ、何かの儀式を
 この城の最上階で準備していたのは知っている」
「って事は・・・」
「彼女はそこに連れていかれる可能性が高い、という事だ」
 ベバルランは言うが早いか走り出す。
 その後ろに凪とカシスが続いた。
 走りながら二人はベバルランを信じるべきかを考える。
 目の前を走る彼の姿は嘘とは思えなかった。
 それが凪達には伝わってくる。
 少なくとも真白を大事に思う気持ちは、
 本当の所で自分よりずっとあるのかもしれない。
 彼の背中を見ながら凪はそう思った。

12月25日(金) PM17:40 晴れ
城内・最上階

 薄い意識の向こうで誰かが呼んでいる気がする。
 それは、きっと愛しい人だ。
 何の根拠もないけど私はそう思う。
 私はその人の顔を浮かべようとした。
 どうしてだか上手く顔を浮かべられない。
 大好きな人なのに。
 届かない事を知ってしまったから?
「・・・ま」
 違う。この声は凪さんじゃない。
 気付くと私はパチリと目を開けていた。
「真白様。お目覚めになられましたね」
 クリオネさんは目の前でにこりと微笑む。
 なぜだかそれは不気味に見える程の笑顔だった。
 周りには沢山のメイドさん達が立っている。
 状況が理解できず、私は身体を起こそうとした。
「あ、れ?」
 身体を半分起こした所で手と足が動かせない事に気付く。
 メイドさん達が私の両手足を掴んでいた。
 動かそうとした所で彼女達の力は強く、
 私の力じゃどうにもならない。
「クリオネさんっ! これ、ど、どういう事ですか?」
「儀式の前に行う禊の様なものです。
 安心して、身を任せてくださいませ」
 どうやら私が寝ている場所は、
 テーブルのような物の上みたいだ。
 ゆっくりした動作でクリオネさんがテーブルに上がる。
 私の下腹の辺りに腰を下ろすと彼女は顔を近づけてきた。
「な、なんのつもりなん・・・っ!?」
 いきなり私の首筋に音を立てて口づけをしてくる。
 それに気を取られていると、胸元へと手が伸びてきた。
「クリオネさんっ、こんな事止めてください!」
「これが私の仕事です。私に決定権はありません」
 彼女は冷めた笑みを浮かべると、
 服の上から私の胸をまさぐってくる。
 円を描くように彼女は両手を動かし始めた。
 嫌な事をされてるのに、それほど嫌悪感はない。
 相手がクリオネさんだからなのだろうか。
 手足を動かせない所為もあって、
 触られている胸に意識が集中してしまう。
「乳首が勃っていますよ」
「それは・・・っ」
 軽く微笑むとクリオネさんは手の動きを止めた。
 スリットの隙間から彼女は直に手を入れようとする。
 位置的に無理なのか、
 その手は上手く入らないようだった。
「・・・邪魔ね」
 彼女は両手でスリットの部分を破って広げていく。
 その仕草は実に優雅かつ華麗なもので、
 気付いた時にはもう胸が露わになっていた。
 どうしてクリオネさんは私にこんな事をするんだろう。
 さらに彼女は身体を浮かせると、
 剥き出しにした私の乳頭を口に含んだ。
「んっ・・・」
 なんか変な感じがしてくる。
 自然と息が荒くなっていた。
 手を掴んでいたメイドの人が私の指を舐めてくる。
 それも凄くいやらしく、しゃぶるという様な感じで。
 他の人達もそれに習うように私の手足を舐め始める。
 くすぐったいのか、気持ちいいのかよく解らなかった。
 ただ、自分でアソコが少し濡れてくるのが解る。
 恥ずかしさが私の頬を赤く染めた。
 それに気付いたのかは解らないけど、
 誰かが太腿をマッサージするように揉んでくる。
「止めて、くださ・・・い」
 その人は下着ギリギリの位置まで舌で舐め上げてきた。
 もう少し舌が伸びてきたら、
 私が濡れてるのが解ってしまう。
「んうっ!?」
 突然クリオネさんが指を私の口へねじ込んできた。
 人差し指と中指がえっちな音を立てながら、
 巧みに口内の性感帯へ刺激を与えてくる。
「むぐ・・・ふはぁっ・・・」
 口から離れた指は私の唾液でベトベトになっていた。
 唇から糸を引いていて、凄くいやらしい。
 その指は一直線に下腹部へと下りていった。
 もしかして、その為に唾液で指を濡らしたの・・・?
「あくぅっ・・・!」
「あら、もう濡れていましたか」
 ゆっくりとクリオネさんの指が下着をなぞった。
 にちゅ、という粘りけのある音が聞こえてくる。
 遠慮無く二本の指が表面を擦り始めた。
 彼女は突起の周りを焦らすように弄っている。
「ひあぁ・・・そこ、は・・・止めてくださいっ・・・」
「そことは、何処の事ですか?」
 耳元でクリオネさんがそう聞いてきた。
 何処が駄目かって、言わなきゃいけないのだろうか。
 口に出すのは恥ずかしい言葉だ。
 出来る事なら言いたくない。
 勿論、それが解ってて彼女は聞いているんだろう。
 言えば触らないでくれるのかなぁ。
 それなら言わないワケにはいかなかった。
 指が焦らすような仕草でそこへ近づく。
「あの、そのぉ・・・く、クリ・・・ふあぁっ!?」
 彼女の舌が耳朶から耳の奥へかけて這ってきた。
 言葉が途中で止まってしまう。
「ちゃんと言って下さらなければ、解りませんよ」
 くすくすとクリオネさんは耳元で笑う。
 必至で勇気を振り絞って、私はもう一度言おうとした。
 すると彼女はそこへ指を当てる。
「く、うあぁあぁっ・・・」
 なんとか私が言おうとしても、
 わざと彼女はそれを邪魔した。
 どうにか必至で私は言葉を繋ごうとする。
「あふっ・・・んんっ・・・く、クリ、トリス・・・です」
「かしこまりました。そこを弄って欲しいのですか」
「え!? そんな、違いま・・・ひあぁっ!」
 クリトリスを二本の指が挟む様に押し潰し、擦りあげた。
 痺れるような快感に私は思い切り喘いでしまう。
 そんな私の姿を見てクリオネさんは満足げに笑った。
 愛液と彼女の指に付いた唾液が混じって、
 ぴちゃぴちゃという音が耳に入ってくる。
 恥ずかしさで死んでしまいそうなほど卑猥な音だった。
「真白様、こんなに溢れて・・・はしたないですね」
「それは・・・んっ・・・」
 何度もクリオネさんは違った刺激で私を攻めてくる。
 このままじゃ、おかしくなっちゃうよぉ・・・。
 耳元からゆっくり首筋へと彼女の舌が下りていく。
 それからクリオネさんは執拗に首筋への愛撫を始めた。
 ちゅぷちゅぷという独特の音が聞こえてくる。
「少し血を頂きますよ」
「え・・・?」
 そんな事を言ったかと思うと、
 クリオネさんは私の首に噛み付いてきた。
 鈍い痛みが脳に伝わってくる。
 そう、だから痛いはずだ。
 なのに私の身体は自然と高揚感で満たされていく。
 味わった事はないけど、絶頂のような感覚だと思った。
 下腹部の辺りが熱くなっていくのが解る。
 じゅん、という感じと同時に多量の愛液が下着を汚した。
 血の代わりに何か違うモノが入ってくる気がする。
「んくぅううぅっ・・・お、おかしいのに、
 こんなの、変なのにっ・・・」
 目元に涙が滲んでいた。
 どうしてこんな事をされなきゃいけないの?
 考えてみれば私、どうやってここに来たんだろう。
 確か三階の部屋に入ったはずだよね。
 疑問は気持ちよさで少しずつ薄れてしまう。
「っ・・・お願いだから止め、て・・・んんっ」
 言葉で嫌がっても効果なんて無いに等しかった。
 怖いくらい血を吸われる行為が快感になっている。
「人生最後の快感なのです。たっぷりとご賞味下さい」
「じ、人生最後って・・・どういう事ですか」
 私の質問にクリオネさんは怪しく微笑んだ。
 何か言うわけではなく、再び彼女は私の血を吸い始める。
 小さく私の身体がびくっと跳ねた。
 刺激が強すぎるせいか意識が朦朧としてくる。
「はああぁぁっ・・・!」
 頭の中が真っ白な空白で埋め尽くされそうだった。
 女性同士だからなのかピンポイントで弱点を突かれる。
 数人からこんな風に攻められたら、
 嫌でも身体が反応してしまう。
 身体に心も少しずつ引きずられていた。
「やだ、こんなの嫌っ・・・」
 うわごとの様に私はそんな言葉を繰り返す。
 何を言っていいのかもう解らなかった。
 快感で頭がまともに機能してくれない。
 抵抗する気もなくなっていた。
 メイドさんの一人が私の下着をゆっくりと降ろしていく。
 そういえば私は直に触られてすらいなかったんだ。
 なのにこんなに感じてるなんて、私って淫乱なのかな。
 違うと思いたい。
 思いたいけど、身体がそれを否定しようとする。
 曝された私の陰部へと誰かが顔を埋めた。
「っ・・・」
 触れられてもいないのに、気配だけで感じてしまう。
 焦らすようにその周りを誰かの舌が舐め始めた。
 何故だか不快感は全くない。
 それどころか充分なくらいの愛撫になっている。
 しばらく焦らした後で舌はクレヴァスに到達した。
 舌だけではなく唇でキスをしたりしてくる。
 身体全てを舐め回すように愛撫されている上、
 こんな事をされたら私には耐える術なんて無かった。
 徐々にそれらの愛撫は激しさを増していく。
 合図のようにクリオネさんが強く私の血を吸った。
「はあぁあああぁぁんっ・・・!」
 震えるような快感と共に私は絶頂に達する。
 身体が硬直し、何もかもが遠くなった。
 これが、イクって事なのかな・・・。
 確かに身体は激しい快感の余韻に包まれていた。
 それと共に絶望的な程の虚脱感が私を襲う。
 繋がり合い不鮮明になった負の感情が頭に渦巻いていた。
 この後、私はどうなってしまうのだろう。
 ぼ〜っとそんな事を考えながら私はゆっくり眼を閉じた。

12月25日(金) PM17:48 晴れ
城内・最上階

 ベバルランと凪達は階段を駆け上がり、
 最上階へとやってくる。
 階段を上がった所は二手に分かれる通路になっていた。
 廊下の途中が階段になっているとも言える。
 迷わずベバルランは向かって左へと走り出した。
「この先だ」
 奥にある扉の一つを指差すと、彼は立ち止まる。
 凪とカシスはベバルランを追い越して扉へ走った。
 勢いよく凪達は扉を開けて中へ入っていく。
 中は石畳の奇妙な部屋になっていた。
「真白ちゃん、居るなら返事をしてっ!」
 大声で凪は真白を呼ぶが返事はない。
 よく辺りを確かめてみると、そこは拷問室のようだった。
 不気味さを感じながら凪はベバルランの方を向く。
 するとそこには彼と共にルガトの姿もあった。
「君の働きを大きく評価しよう、ベバル」
 カシスや凪が反応するよりも早く、目の前の扉が閉まる。
 すぐに凪は扉の取っ手を回してみるが扉は開かなかった。
「あんた、どういうつもりなの・・・」
 扉の上方にある窓からカシスはベバルランを睨みつける。
 彼は先程とは違い、至って冷静な表情で凪達を見ていた。
 真白を心配していたのが芝居だとでも言うように。
 そんなベバルランとは対照的に、
 ルガトは含み笑いを浮かべている。
 彼の笑みで頭に来たカシスが水を具現し始めた。
「こんな扉くらいで勝ち誇った顔するなんて馬鹿なの」
 彼女は鋭い水の輪を形作り、扉目掛けて投げつける。
 水の輪は回転しながら扉へ直撃した。
 瞬間、激しい水しぶきと甲高い金属音が鳴り響く。
 表面は削れているようだが、大して効果は無かった。
「そ、そんな・・・?」
「この扉は吸血種仕様の特別製でね。
 例え悪魔のお嬢さんでも破壊するのは難しいでしょう」
 小馬鹿にするような口調でルガトはそう言う。
「ここはもういいだろう。それより、早く儀式を始めよう」
「そうだな、そこの美しいお嬢さんを
 眷属にする事などはいつでも出来る」
 ちらりと凪を見るとルガトは二人に背を見せた。
 ベバルランも彼の後を付いて歩き出す。
 凪はそんなベバルランの姿がまだ信じられなかった。
「貴方が真白ちゃんの事を心配してたのは、
 あれは・・・嘘だったんですか!?」
 その問いに彼が答える事はない。
 徐々にベバルラン達の姿は遠くなっていく。
「真白ちゃんっ・・・」
 どうする事も出来ず、凪は手で扉を思い切り叩いた。

Chapter89へ続く