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黒の陽炎
−4thSeason−

著作 早坂由紀夫

閑話休題(Z)

Chapter125
「四人の熾天使(V)」

 

 大天使長室。普段座っているはずの天使の姿は其処に無かった。
 エウロパ神殿の地下二階にある、宝物庫に彼は立っている。
 それも部下である二人の天使を連れて、だ。
「一つ。立会いには一人の上位天使が必要である。
 これは、四大熾天使による代役を可能とする。
 一つ。記録者に一人の中位天使が必要である。
 一つ。神剣が認めぬ場合、二度目はない。
 以上・・・神剣所持の原則に同意するか、カマエル」
「はい、問題ないッス」
「本来なら天使長の身分にあるといえど、
 能天使に過ぎないお前には帯刀許可は下りない。
 だが、お前には早く俺の右腕として相応しい力を与えたいんだ」
「あんたが考える理想を実現するために、駒が要るってことッスね。
 ところで、あの人は・・・ここにいて問題ないんスか?」
 カマエルは連れてこられたもう一人の天使を見てそう告げる。
 彼と共にミカエルが連れてきた天使は、主天使長であるラグエルだ。
 彼女は決して言葉を発さず、黙ったままカマエルを睨んでいる。
 その瞳には怒りとも憂いともつかぬ感情が灯っていた。
 何故カマエルが、というものなのか。
 或いはそうやってカマエルが優遇されることへの嫉妬なのか。
 ミカエルは彼女を一瞥すると、カマエルの肩を叩いて言った。
「不要な心配はするな。ラグエルは俺を裏切らねぇよ」
「随分な自信ッスね」
「当然だ。俺が誰か忘れたか?」
 彼の言葉に少し呆れた顔をしながら、同時に感心する。
 こういう性格は、ある種一つの才能なのかもしれない、と。
 くくっと笑みを漏らし、ミカエルは宝物庫の扉を開けた。
 内部は青い光に包まれた荘厳な石畳の部屋になっている。
 中心より少し奥に見えるのは、鞘に収められ静かに佇む神剣の姿だ。
 あまりに無造作な置かれ方をしているのに、一目でそれと解る。
 他の物質と明らかに違い、その剣は自己を主張しているのだ。
 ゆえに剣を知らぬものでも、それが他と違うことを理解できる。
「知っているだろうが神剣は振るうだけなら他の剣と代わりは無い。
 神剣の認証は、剣が持つ力を発揮できるかってだけだ。
 手に持ったときにお前が何か感じれば恐らく問題はねぇ」
「じゃ、やってみますよ」
「ふん・・・カマエル、ミカエル様の期待を裏切ればどうなるか解るわね?」
 カマエルは背中から凄まじい重圧を感じる。
 明らかにラグエルのものだ。
 その冷たく見下ろすような瞳を背にビシビシと受けながら、
 ずっしりと重量感のある神剣の鞘を手にとった。
「心配すんな。見込みがなきゃ、お前はそもそも此処にいねえ」
「そ、そうッスよね」
「・・・あまり調子に乗ると神剣からそっぽ向かれるわよ」
 冷ややかな声がカマエルの背中に突き刺さる。
 少し深呼吸をしてから、カマエルは神剣を右手で握った。
 鞘から抜いてもいないというのに、
 手を通じて剣の圧倒的な存在感が彼の身体を震わせる。
(ヤバイ、これ・・・油断すると呑み込まれそうだ)
 意識が引きずられるような奇妙な感覚だった。
 自然と彼の手は剣を鞘から抜こうとしている。
 青白く光る刃の部分がゆっくりと外へ曝されていく。
 装飾のない細身の長剣が鞘から現れた。
 初めて触れる神剣の感触にカマエルが感嘆していると、
 ふいに奇妙な声が彼の脳裏を駆け巡る。

――――我は、嘗て魔王と呼ばれし者に傷与え退けた

 びくっと反応して驚くカマエルだが、
 ミカエルとラグエルは何の反応も見せなかった。
 恐らくは今の声が聞こえてないのだろう。
 そんな彼を気に求めず、声は続けてこう言った。

――――だが我携えし者も、また土塊に還った
貴様がどうあろうとするにせよ、我は貴様に協力する
願わくば、恥じぬ闘いを見せて欲しいものだ

 力を行使する際の真名を授けておこう。
 我が名はルヴェルディ。魂貫く死出の刃也。
 貴様の呼びかけにのみ応じ、貴様が土塊と化す日まで力を貸そう。
 そう告げると、声はぱったりと聞こえなくなる。
 その様子を見ていたミカエルは、にやりと笑みを浮かべた。
「どうやらルヴェルディはお前を認めたようだな」
「はい、こいつ・・・凄い、力を持ってます」
「当たり前だ。その剣は嘗ての前哨戦争の折、
 当時の座天使長スフィリータが、ルシファーに傷をつけた代物だぜ?」
「座天使長、スフィリータ・・・その人、もしかして」
 今さっき聞いた声のことがカマエルの脳裏をよぎる。
「・・・傷を付けた代償に、そいつは死んだ」
 ルヴェルディを握るカマエルの手が、にわかに剣の鼓動を感じた。
 それは滾(たぎ)っている、とでも形容するべきだろう。
 憤怒という情ではなく、剣が当時の感覚を思い出したのだ。
 湧き上がる闘志のようなものが、カマエルの身体を動かそうとする。
 剣の意思が彼を引きずろうとしているのだ。
「頼もしいだろ、ルヴェルディは」
「や、こいつは・・・相当なじゃじゃ馬みたいッスね」
 狼狽した顔でカマエルは剣を鞘に収める。
 彼は初めて感じる凶暴な衝動に動揺していた。
 殺意なら抱いたことはある。だがそれとはまるで種類が違う。
 身体が動かなくなるまで剣を振るい、
 一人でも多く自分の敵を殺したいという衝動だ。
 言わば狂気にも似た殺意。それをルヴェルディが望んでいる。
(面白ぇ・・・使いこなしてやる。こいつを扱えれば、俺は強くなれる。
 ミカエル、いつか・・・あんたにだって負けないくらいの男になってやるさ)



 エウロパ宮殿から少し離れた丘陵。
 そこにラファエルとウリエルの姿はあった。
「恥を忍んで正直な気持ちを言おう。
 私は、一戦交えるまではルシエと渡り合えると思っていた。
 愚かなものだ・・・自己を過信していたこともそうだが、
 相手の真価を見定められなかった自分が愚かしい」
「心身共に強くならなきゃね。僕たちは天使なんだから。
 正しいと信じたことを貫くための力を持たなきゃいけないんだ」
「ああ。誰にも、自分自身にも負けない力が欲しい。そう・・・」
 何かを口に出しかけてウリエルはそれを止める。
 彼は理想として、ある天使を頭に浮かべていた。
 明けの明星。天使の中でも最も多くの羽根を持つ天使。
「うりっち?」
「いや・・・なんでもない」
 過去のことだ。そうウリエルは自分を戒める。
 もはやその天使のことは、口にすることさえ躊躇われた。
 誰もが話題として語ることを避けたがる。
 ――――ルシフェル。
 かつてただ一人、熾天使長の位に居た天使だ。
 その御姿は気高く麗しく、見る者全てを魅了した。
 天使の中で最も多い六枚の翼を持つ者として、
 誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも高き場所にいた。
 現四大熾天使は、彼を目標として育ったといえる。
 ウリエルも彼の存在に憧れ、少しでも近づこうとした天使の一人だ。
 だが強く憧れたからこそ、今でもウリエルは彼を許せない。



 羽根を羽ばたかせ、空中にて対峙する二人の天使。
 それは、若き頃のウリエルとルシフェルだ。
 二人は何合切り結んだのだろう。
 ルシフェルの裏切りを知った天使の中でも、
 一番早く彼に接触したのがウリエルだった。
 憧れ続けた天使に剣を向ける苦痛。裏切られたという怒り。
 複雑な気持ちを抱きながら、彼はルシフェルに斬りかかる。
「何故だ! 何故、貴方は神を裏切るような真似をするのです!」
「神は、果たして本当に・・・万能の存在なのかい?
 逆に問おう。僕は何故、人間を堕落させる命を受けている。
 何故に彼ら人間の信仰心を疑い、騙すような真似で試さねばならない」
「彼らは弱いからです。常に私たちが導いてやらねばいけないのです」
「傲慢な・・・神とて、創造主だからとて、被創造物を勝手な推論で貶め、
 疑い、試し、あまつさえ殺してもいいというのか?」
 幾度となくルシフェルと剣を交えようとも、
 彼はこともなげにウリエルの斬撃を捌く。
 本来ならば、何度もルシフェルがウリエルを斬ることはできた。
 ただ、一度として彼は自らウリエルを傷つけようとはしない。
 その優しさが、またウリエルにとっては苦痛だった。
「それこそ傲慢ではないのですか! 貴方は神を疑っている!
 神の深き考えを汲み取ろうとせず、一時の感情で・・・」
「ウリエルよ。君は神が疑うのと同じように、
 神を疑おうとは考えないのかい? 人を疑うことは出来るのに、
 何故神を疑うことは出来ないというんだ!」
「神と人は違う! 被造物である人と、
 造物主である神とを同列にするなど!」
「それが傲慢だと言っているんだよ・・・!」
 ウリエルが振り下ろした剣を、ルシフェルは左手で受け止める。
 鋭い剣の刃も、ルシフェルにかすり傷さえつけることは出来なかった。
 即座にウリエルは剣を引こうとしたが、
 その反応を遥かに超えるスピードでルシフェルが右手を振るう。
「っ・・・あ・・・」
 満足に言葉を出すことさえも出来ぬ高速かつ強烈な一撃。
 うめき声を上げ、ウリエルはルシフェルに倒れこむ。
「君はまだ、自らの正義を持っていない。
 いつか遠い未来、君が自分の意思で僕と闘おうとするなら、
 そのとき初めて君を敵として認めよう」



(私は貴方の裏切りを決して許しはしない。
 神を裏切ったということは、人を、天使をも裏切ったのだ・・・貴方は)
 頑ななほどにウリエルはルシファーを憎む。
 それは憧れの裏返しでもあるが、
 引き返せないという気持ちの表れでもあった。
 彼は天使、ルシファーは悪魔。
 個人の気持ちなどに意味はなく、両者は殺しあう定めなのだ。
 今更何が正しいかなどは関係ない。
 消え去った方が悪であり、残った方が正義なのだ。
「それにしてもさあ、ラツィエル様遅くない?」
 黙りこんだままのウリエルに、ラファエルがそう尋ねる。
「・・・確かに、我々を鍛えると豪語したわりに登場が遅いな。
 よもや約束を忘れたとは思うまいが・・・」
 二人はラツィエルと訓練を行うと約束を交わしていた。
 知識に長けた彼だからこその訓練方法を期待してのことだったが、
 姿を現さないことにはどうしようもない。
「う〜ん。先に僕らだけで特訓始めたほうがいいんじゃないかな」
「それもそうだな。一先ず、単純な反復運動と模擬戦を行うとしよう」
 仕方なく二人が剣の素振りを始めようとしていたところだ。
 彼らのもとに天使が二人歩いてくる。
 片方はラツィエル、もう片方はミカエルだ。
「あ、ラツィエル様。それに、みっき〜?」
「またせたの〜。実はこやつも参加したいと言ってきたんでな、
 今まで仕事を手伝ってやっとったんじゃ」
「俺も最近身体が鈍ってたところだ。
 丁度いいから爺の特訓に俺も混ぜてもらうぜ」
 口に煙草を銜えながら、ミカエルはそんな軽口を叩く。
 爺はやめんか、と文句を言いながらラツィエルは地面に腰を下ろした。
「さて、まずは三人の実力を見せてもらいたい。
 神剣の力を解放せずに一対一の模擬戦を行ってもらおうか」
「なるほど。互いの実力を知るにもいい機会だ」
 ウリエルはそう言ってミカエルのほうを見る。
 先のルシエとの闘いで、彼はラファエルの実力を垣間見ていた。
 対して、一線から退いて久しいミカエルの実力は未知数といえる。
 口では身体が鈍っているなどとは言っているが、
 それを額面通り受け取るはずもなかった。
「・・・まあ、鈍った勘でも取り戻すか」
 舌打ちしてミカエルは煙草を口元から離す。
 煙草は即座に形を変え、長大な神剣へと変貌を遂げた。
 迂闊に行動すれば一撃の下に叩き伏せられるであろう、
 その圧倒的な存在感がウリエルの速攻をためらわせる。
(奴のレーヴァテイン、対峙すればこうも脅威を感じるものか)
 神剣は一つ一つ形状が異なり、その特徴も能力も異なる。
 中でもミカエルの所持するレーヴァテインは特別な剣だ。
 純粋な炎の力を宿す神剣であり、
 所持者の意に応じ召喚することが出来る。
 普段は所持者の趣味なのか煙草の形状へ変化しているが、
 その原理、質量の変質方法は全て不明だ。
 能力自体も彼自身が闘う機会の少なさゆえか、未知数である。
 以前見せた巨大な火柱は、神剣の力を上乗せした彼の具現に過ぎない。
 神剣を解放した際の威力を知る者はいないと言っていいだろう。
 無論、ウリエルやラファエルでさえもだ。
(・・・無駄な詮索は無用。ただ今は、全力でぶつかるのみ)
 意を決したウリエルは、目の前のミカエルに神剣を構える。
 対するミカエルは剣を片手に持つとその腕を水平に上げた。
「それがお前の構えか」
「まあ、そんなもんだ」
 簡素な会話の直後、ウリエルが剣を振り上げる。
 ミカエルは剣をくるりと回すと、ウリエルの剣撃を斜めに受け流した。
 のれんに腕を押したような感覚に、戸惑いを抱くウリエル。
(ここまで静かに攻撃を避けられたのは・・・初経験だな)
 今度は横から神剣フィルフォークを振りかぶり一閃する。
 直後、ミカエルは神剣をコンパクトに前へ突き出した。
 大振りなフィルフォークよりも、レーヴァテインの剣突が先に届く。
 そう思ったウリエルは思わず剣の勢いを緩め、突きをかわすことにした。
 すると、突然ミカエルは剣を引きやる気のなさそうな顔をする。
「・・・お前やラファは顔見知りだと無意識に手を抜きやがるな」
「なに?」
「殺す気で来いよ。切磋琢磨ってのは、そういうもんだろ?」
 暗く射抜くような目で、ミカエルはウリエルを睨み付けた。
 思わず、ウリエルの身体が軽く硬直する。
(殺気に近い気迫・・・本気で、私を斬るつもりか・・・!)
 直後、先に動いたのはミカエル。
 低い姿勢で斜めに剣を一閃、鋭い風切音が空を斬る。
 ウリエルは身体を捻りそれを避け、両手でフィルフォークを振り下ろした。
 凄まじい縦の剣撃を、最小限の動きでかわすミカエル。
 返す刀で彼のレーヴァテインがウリエルを狙う。
 鈍い金属音と共に、二人の神剣が火花を散らせた。
「良い感じだ・・・切迫してなきゃあ、魂だって鈍るぜ」
「なるほど、同感だ・・・ッ!」
 もはや模擬戦と言う範疇を逸脱した斬り合いに、
 思わずラファエルが二人を止めに入る。
「ちょっと二人ともっ! それじゃ殺し合いになっちゃうよ!」
 黙って見物していたラツィエルも、静かに口を開いた。
「もうそのくらいでいいじゃろ。
 短時間ではあるが、模擬戦としては上出来じゃ。
 二人とも名実共に熾天使の位に近づいておる。
 しかし、今のままでは・・・あやつの足元を這いずるだけじゃな」
 彼の言葉に、ミカエルとウリエル、
 それにラファエルは険しい顔つきになる。
 誰と言わずとも、言わんとする相手のことは理解していた。
 ルシファー。彼らが知りうる限りで、最も強き者の名だ。
「神剣は確かに強い力を与えてはくれるが、
 それに頼るようでは自らの力が落ちていくだけじゃ。
 幾ら神剣が力を与えようと、本人が弱くなってしまってはな」
「俺たちが神剣に甘えているってのか?」
「そうじゃ」
 ミカエルら三人にとって、それは考えてもいないことだった。
 神剣は基本的に主人の力を増幅させる力を持つ。
 それを常に上乗せしていたら、本人の想像力は次第に衰えるのだ。
「・・・まずは、自らの想像力を鍛えなおすところからじゃ。
 時に、この世で最も想像力豊かな者とは何だと思うかね?」
「想像力・・・う〜ん、どんな人だろう」
「答えの一つは、目の見えぬ者。視覚に頼れぬ者はそれを補うため、
 強いイマジネーションを働かせるからのう」
 身体的に何らかの障害を持つ者は、自ずと無いものを補うことを考える。
 特に目が見えない者の場合、視覚以外から得た情報で想像するのだ。
 基本的に想像とは目を閉じて行う場合が多く、最も容易い。
 ならば、目を使えぬ者は常に想像力を高めていると言えるのではないか。
 これがラツィエルの考えだった。
「つまり目を閉じてろってことか?」
「単純に言えばそうじゃな。
 それだけで、お主らの想像力は随分と上がるじゃろう。
 出来うる限り五感を封印し、何もかもを想像で補うんじゃ」
「言うは易しって、人間はよく言ったもんだぜ。
 鈍った想像力を高めるのに一日程度じゃ意味がねえ。
 最低でも一週間・・・出来れば出来るだけ、だな」
「出来るだけってみっき〜、それじゃ仕事とかどうするの?」
「仕事を休んでどうすんだ馬鹿野郎。
 修行休暇なんてもん設けるほど、天使は暇じゃねえんだぞ」
「そ、そうだよね。でも視覚だけでも仕事に支障出るんじゃ・・・」
「俺はデスクワークだし、やろうと思えばなんとかなるだろ。
 お前とウリエルは・・・まあやりたいようにやるんだな」
「支障が出るようなら誰かにサポートを頼む。問題は無い」
「そうか。ラファ、お前はどうするんだ」
「え? 僕はちょっとお休みを・・・」
「てめぇ・・・自分に休みなんてものがあると思ってんのか。
 今まで人に手を回させて、現象世界で羽伸ばしてたのは誰だァ?」
「や、やぁ・・・僕でした」
 そんな会話をする三人をラツィエルは黙ってみている。
 彼は自らの髭を渋い顔で触りながら、何事かを考えているようだった。
「んじゃ、俺はそろそろ行くぜ。また仕事が出来てるかもしれねぇしな」
 そう言ってミカエルはエウロパ神殿へと歩き出す。
 そのままラツィエルの隣を通り過ぎようとした時だ。
「裏切り者の件・・・特定できたか?」
 小さな声でラツィエルがミカエルにそう尋ねる。
 一瞬立ち止まるミカエルだったが、すぐにこう返した。
「出来ねぇよ。解ってんだろ? 解るのは奴がそう望んだときだ」
 そう言うと、ミカエルは何もなかったかのようにまた歩き出す。
 ラツィエルは髭を触ったまま、ため息をひとつついた。
(目星はついておろうが・・・証拠がない、といったところか。
 相手は恐らく上位天使、確たる証拠が無ければいかん。
 しかも、奴がこうも露骨な反応を見せる意図。
 ルシードとディアボロス、そして最終戦争・・・
 もう幾ばくも時間が無いのだと考えて良さそうじゃな)

Chapter126へ続く