紫苑の夜
著作 早坂由紀夫
Chapter22
「手、抜いただろ」
7月28日(月) AM07:38 快晴
新幹線内
俺は今、自分が改めてボンボンだと言う事を思い知っていた。 |
7月28日(月) AM10:48 快晴
旅館・『十六夜』 一階フロア・ロビー
俺達は新幹線を降りると送迎バスに乗って旅館までやってきた。 |
7月28日(月) AM10:54 快晴
旅館・『十六夜』 三階・十夜の間
この旅館は十六夜という名前だ。 |
7月28日(月) AM11:04 快晴
旅館・『十六夜』 三階・廊下
思いっきり追い出された。 オンナだ・・・クモツ・・・だ・・・ 「え?」 |
7月28日(月) AM11:31 快晴
海・浜辺
燦然と照りつける太陽をUVカットしつつ、 俺達は海ではしゃぎ回っている。 正確には紅音達、だ。 俺は結局水着に着替えさせられてしまったが泳いでいない。 泳ぐ為に問題がありそうなのはまず変声器だが、 母親に電話したら核兵器でも落ちない限り平気だと言われた。 後は胸パットだが耐水性らしい。 つまり問題がことごとく吹っ飛んでしまったわけだ。 もうヤケになって紫齊と勝負してもいい感じだな。 化粧なんか落ちたって構わないし。 というよりビーチパラソルの下で飲み物を飲んでるのは辛い。 何が辛いかってそんなのはすぐ解るのだ。 「ねぇ君、暇そうだね〜。俺と話でもしない?」 「結構です」 「あの〜写真良いっすか〜?」 「駄目です」 「夏の開放感に任せてみな〜い?」 「みません」 こんな感じで何度男が寄ってきた事か。 っていうかひっきりなしだった。 今も、新興宗教でも作れそうな程の人の視線を感じている。 考えたくはないが俺の水着姿を見ているのだろうか。 笑える様な、笑ったら何かが崩れてしまう様な・・・。 紅音は海で葉月や真白ちゃんとビーチボールで遊んでいた。 あいつ、身体のラインがでる水着は着ないって言ってた割には、 スカートタイプの随分ラインの出る水着を着てる。 なんか子供っぽくて紅音らしいと言えばそうなんだが・・・。 でもちょっと魅力出し過ぎじゃないか? 紅音も何人もの男に声をかけられていた。 っていうか、俺達は全員そんなもんだ。 真白ちゃんは凄く可愛いし紫齊も葉月も可愛い。 紅音もガキっぽいけど可愛いと言えば可愛い。 やっぱり紅音とかもモテるのだという事を再確認してしまった。 でもなんか・・・俺に声かけるのよりむかつく。 特にこんな所で知り合った奴に紅音を渡せるかよ。 ・・・悔しいとかじゃなくて紅音の身を案じてるだけだ。 俺は紅音の所に歩いていった。 丁度どっかの男が紅音に声をかけている。 「だからさ、いいじゃん」 「でも私・・・あのぉ」 「紅音っ」 「あっ、凪ちゃ〜んっ」 俺に抱きつく様に走ってくるとそのまま俺の後ろに下がる。 男はやる気を失った様で去っていった。 「全く、紅音をナンパするなんて・・・紅音もちゃんと断りなよ」 「うん。なんか断るのも悪い気がしちゃってさぁ」 「だからって半端な態度は逆に失礼だよ」 言っている事は正論に見えたがあんまりそうではなかった。 俺自身なんとなく紅音があんな男に対して、 少しでも気を許すのが気にくわなかったからだ。 ・・・何を、束縛するような事考えてるんだ・・・俺。 まさか紅音の事・・・? 違うっ。 あんな男は絶対に怪しいからだ。 間違っても紅音の事を好きになり始めてるわけはない。 こんなガキくさい女・・・。 「ごめんね凪ちゃん。ありがとっ」 「気をつけなよ、紅音は可愛いんだから」 「えっ? えへぇ〜・・・もぉ、凪ちゃんってばぁっ」 紅音はこの上なく照れていた。 そして俺は少しずつ紅音に惹かれている。 それを否定する事が難しくなってきていた。 勘違いするなよ俺は・・・。 紅音が笑ってるのは女の高天原凪に対してだ。 だったら俺も女として紅音に接しなきゃいけない。 そう、そうすべきだ。 |
7月28日(月) PM13:45 快晴
海
俺は食事を皆で取った後、少し海に入る事にした。 一応健康な体をしてるわけだし海が嫌いな訳じゃない。 それに水泳は結構得意なんだよな。 紫齊の挑戦を受けてやる事にした。 少し汚い浜辺を抜けて海へと入っていく。 冷たくてざらっとした感じが心地よかった。 俺が海に入ると紫齊もついてくる。 あんまり得意そうな顔をしてるので言ってやった。 「紫齊、ハンデいる?」 「・・・凪ぃ。あんまし私を舐めない方が良いよ」 今まで充分紫齊のスポーツの実力は見てきてる。 だが水泳は俺の得意分野だ。 あまり大差で勝つと紫齊に悪いからな。 「まあ悔しかったら私の胸で泣きなさい」 「なんで私が負けてるんだよっ。 しかも勝者の胸で泣くなんて・・・」 微妙に俺の自信に気付いてきたらしい。 ちょっとハンデをつけるべきだったと考えてるだろう。 俺達は葉月の合図で位置に着く。 ちなみに勝負は目印のブイをタッチして、 先に浜辺に帰ってきた方が勝ちだ。 「よぉ〜い、どんっ!」 ぱしゃぱしゃあっ! 最初の内は海の中で目を開けるのは辛かった。 |
Chapter23へ続く