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閑話休題(T)

著作 早坂由紀夫

Chapter19
「悪魔達の晩餐」

 

7月24日(木) AM06:29 曇り
某所

「種はまかれた様だな」
「・・・まあ、その様ですね」
二人の男は静かに話を交わす。
そこは学園とおぼしき場所だった。
だが誰なのか、どこなのかが定かではない。
二人とも一人ずつ少女と繋がっていた。
彼らにとってそれはあくまで力を蓄える為の儀式に過ぎない。
だから快感などを求めようとはしなかった。
相手の快感を引き出す事が結果、力となる。
その二人の少女は気が狂いそうな程の快感を与えられていた。
「あ、あぁ・・・そ、そこ良いっ・・・」
「あぅ、はぁっ! 凄いっ、すごぃぃい・・・」
二人の男はその声を気にもとめずに律動を繰り返す。
その少女達は処女だった。
だが悪魔特有の力によって異常な快感の波に飲まれている。
初めてで腰を振る。初めてで絶頂に達する。
それが二人の少女にはごく普通な事の様にさえ感じられた。
なにしろ二人とも性に興味をあまり持っていなかったのだ。
汚らわしいと思っていた為に知識もさほど無い。
両者ともが典型的なお嬢様だった。
しかし二人の男性を見た時からそれは少しずつ崩れていく。
表面では嫌がってみても、声をかけられたのが嬉しくはあった。
その二人の男は奇妙な魅力を持っていたのだ。
格好良いだけではない、何故か目をそらせない。
さすがにこんな場所に連れてこられて、
いきなりキスされた時は自分達の愚かさに気付いた。
でもそれはすでに遅い。
あっという間に服を破かれ、濡れてもいないままでの挿入。
秘唇の奥が裂ける音がしてみちみちと何かが侵入してきた。
苦しい。痛い。怖い。
それだけがその二人の女の子にのしかかっていく。
しばらくして不気味な何かが逆流していく感覚。
なんとかしてそこを見てみると白い何かが零れていた。
二人はそれが何なのか理解できない。
解るのは自分が汚されてしまったという事。
ただ熱いものが込み上げてくる。
だがそこまでが二人の少女の理性の限界だった。
少しして自分の股間がむずむずし始め、
ベトベトしたものが太腿を伝い始める。
男がおもむろに自分の股間に指を入れ始めた。
まるでその衝動を高める様に、自分を包み込む様に。
少女達はそうやって異常な快感に気付く事もなく、
二人の男に身を任せていったのだ。
そんな風にして今は目も虚ろなままでよがり狂っている。
だからそれは二人にとって当たり前の性交だったのだ。
「駄目・・・なんか、なんか変なのぉっ・・・」
「わた、私も気持ちよすぎ、て・・・おかしくっ・・・な、ああうぅっ」
「だがそれが果たして花を付けるのか・・・」
男は少女を突き続けたままで平然とそう言う。
もう一人の男は静かに笑った。
「花が咲く事は問題ではありませんよ。
 問題はその花が私達に何をもたらすのかです。
 毒を持つなら枯れさせてしまえばいい。
 実を付けるのなら私達が無理矢理にでも咲かせればいい」
「ああっ、もっと強くっ・・・あはっ・・・」
お互いに唇を奪い合う少女達。
舌を絡めて快感の充足を求める。
そしてお互いの胸の突起を擦り合わせたりしていた。
瞳はもう何も映そうとはしていない。
どこかを虚ろに見続けていた。
何故かと言えば、それも気持ちいいからにすぎない。
「んっ、はっ・・・なん、か・・・アソコが痺れてきたぁ、ああぁっ!」
「あうぅっ! もうイク、だめ、だめぇええっ!」
二人の少女は絶頂に達した瞬間、
二人の男に精気を吸い取られていく。
男は少女の小振りな胸を強く握りしめた。
それは痛みを伴ったのだが少女達にはそれすら快感だった。
程なくして少女に精液が注ぎ込まれる。
何があっても少女達には快感でしかなかった。
「ぁあっ・・・何かお腹に入ってくるぅ・・・」
「気持ちいい・・・もっと、もっとぉ・・・」
一人の少女の胸がちぎり取られていく。
そして桃色の皮膚が露わになった。
「うああぁ・・・凄い、ひゃうっ」
体に起こる反応全てが少女の快感を刺激していた。
その男の手がさらに奥に伸び、肋骨に触れる。
「そこ気持ちいい・・・気持ち良いよぉ」
肋骨を開くと肺を直接握りしめた。
「もう充分です。いい加減楽にしてあげましょう」
「・・・だな」

ぐしゃっ! べしゃっ!

二人の少女の頭が吹き飛んだ。
首の根本には頭蓋に伸びているはずの骨が突き出ている。
そして大量の血液がそこから吹き出していた。
男はペニスを引き抜くとその死体を投げ捨てる。
もう一人は丁重に横たわらせた。
ついでに男は飛び散った目玉や歯をその少女の手に握らせる。
二人の少女の股からは精子がコポコポと流れていた。
ただその身体が受胎する事はない。
脳漿をまき散らしながら生を終えたからだ。
少女達の身体はしばらくの間びくびくと痙攣を繰り返す。
「・・・虚しさしか残らない。
 これを好んでする者の心理は解りませんね」
不気味な程に綺麗な容貌を持つ男は苦く笑みを漏らした。
「貴様は我らの中でも特異な存在だよ、アシュタロス。
 いや・・・アスタロトと呼ぶべきかな?」
「ふぅ。どちらでも同じですよ・・・それより、
 彼に一つ試練を与えてみようと思うのですが」
もう一人の男は目を閉じるとそう提案する。
それは瞑想の様な格好でもあった。
「どういう事だ?」
「彼には何か秘めた力の様な物があります。
 あくまでこれは私の憶測に過ぎませんが・・・
 彼はルシードではないかと思っているんですよ」
そういうと閉じた目を開く男。
芝居がかったその表情にもう一人の男は落胆する。
「ルシード・・・だと? ラファエルが付いているからか?
 ・・・なんにせよ買い被りも良い所だな」
「ラファエルですか。イヴは気付いていないようですがね。
 彼女はアルカデイアの連中には相当嫌われてる様ですから」
「イヴ、哀れな花火・・・か」
その表現が気に入ったのか片方の男は静かに声も無しに笑う。
「まあウリエルなんかは彼女がアルカデイア側として
 我々を駆逐する事を未だに疑っていますからね」
「ふん。命懸けという点では評価できなくもない。
 腰を滅多に上げぬミカエルに比ぶればな」
「彼は仮にも熾天使の長ですからね。
 それはそうとジブリールの消息は掴めましたか?」
熾天使。
通常はセラフ、セラフィムと呼ばれる。
天使の階級とは別の特職だが、そのヒエラルキーの頂点だ。
現在は4人の天使のみがその熾天使の位に就いている。
魂の裁定者であるミカエル。
『神の業』の名を持つ癒しの天使ラファエル。
ノアに洪水を伝えたと言われるウリエル。
紅一点にしてミカエルに継ぐ力を持つガブリエル。
彼ら4大天使は誰もが知る知名度を持っているだろう。
「・・・貴様未だにガブリエルに焦がれているのか。
 いい加減その呼び名は止めたらどうだ?」
「叶わぬ恋だとしても構いはしませんよ。
 手に入らないのなら、その羽をもぎ取るのも一興」
「悪趣味な男だ・・・」
「ふむ。そろそろ彼が来ますよ」
「なに?」
そんな会話の後すぐに、巨大な影が二人を覆う。
夜空から一匹の魔物が降り立ったのだ。
それはいかにも悪魔という風体をした化け物だった。
三つの首には人と山羊と羊の頭がついている。
禍々しいオーラが体中から放たれていた。
「待たせたな」
「・・・アスモデウスか。まさか奴に刺客を放つのか?
 ただの人であるというのに・・・」
男はその巨体を見て訝しむ様な顔をする。
それを見るともう一人の男が自信たっぷりに言い放った。
「あちらにはイヴが居ますからね。
 今のイヴなら彼とも良い勝負をする事でしょう」
そう言って男はアスモデウスを見やる。
「俺とイヴが互角だというのか?
 ふん・・・見せてやるよ、奴を血祭りに上げてやる」
巨体を空中に羽ばたかせるとアスモデウスは飛び去っていった。
片方の男も静かにその場を離れていく。
残った男が一人、その場に佇んでいた。
「皆さん随分とせっかちですねぇ・・・。
 さて、彼はアルカデイアを見つけだす標なのか。
 それとも・・・ただの人なのか。見せて貰いましょうか・・・」

静かに夜が始まりを告げようとしていた。
すこぶる機嫌の良い闇と、その惨劇の始まりを。
誰もが寝静まっているであろう時間。
男は数日程で満ちる月を眺めていた
――――――

 

Chapter20へ続く