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閑話休題(U)

著作 早坂由紀夫

Chapter29
「悪魔達の晩餐(U)」

 

7月30日(水) −−:−− 快晴
???

夜の闇に紛れて男は煙草を吹かす。
そしてもう一人は静かに微笑んでいた。
それはアシュタロス。
苛立ちとも妥協ともつかないその表情は、
なんらかの確信に満ちていた。
「やはり、ルシードでしたか。
 それにしても気になりますね。
 あの奇妙な波動、もしかすると奴では・・・」
「馬鹿を言え。貴様はいつも先走りすぎだ。
 奴は我らが盟主により封じられた。
 二度と現象世界にも、どこにも存在できはしない」
アシュタロスともう一人の男は淡々と言葉を交わす。
もう一人の男はノートパソコンを開き、
宙に浮かせた状態で文字を打ち込んでいた。
空は少しずつ雲行きを怪しくしている。
そして轟くように時折うねりをあげていた。
「・・・君こそ少々常識にとらわれすぎていますよ。
 私にはあの波動に覚えがある。
 矛盾する黒炎、ただ一人それを使いこなす者」
アシュタロスは静かに笑う。
もう一人の男は少し気にくわないといった顔で
ノートパソコンを打つ速度を速めた。
「ふん・・・だがそうであれば急がねばならないな。
 奴が出てくるとすれば、ルシードの力が目的。
 それで完全な復活を遂げようとしているのだろう」
「さて、どうしたものですかね。
 アルカデイアの連中の行動も気になりますが、
 我らも手をこまねいて見ているだけにもいきませんよ」
「奴らの行動などは些少な事だろう。
 我々が動く必要などはない。
 それよりもあいつが復活したら、厄介な事になるぞ」
男は伸びた煙草の灰を落とすとパソコンをしまった。
「ふふ・・・それがそう簡単でもないのですよ。
 セフィロトの樹とエリュシオンとアルカデイア。
 そして現象世界。つまりここですね。
 天使がこれらの拮抗を破ろうとしているとしたら?」
「天使が・・・だと?」
「そう、ミカエルですよ。
 彼は元々座って何かを待つタイプではない。
 大天使長の座も奪い取ったようなものです。
 この状況をただ見ているはずが無いと思いましてね。
 この間捕まえてきた天使を拷問してみたら、
 それらしき事を聞く事が出来ましたよ」
「・・・どういう事だ?」
「ルシードがラファエルに守られているでしょう。
 ですが彼はルシードを助けた事はありません。
 その天使の話ではそれがミカエルの命令だそうです。
 それはなぜでしょう。つまり・・・」
「ミカエルは・・・対になる者をも
 目覚めさせようとしているのか?」
「・・・或いは。まあ全ては過程の上の事です。
 ルシードを早めに引き入れるべきかもしれませんね。
 アルカデイアが動き出す前に・・・」
「そう、だな」
彼らは知っていた。
自分たちが正義ではない事を。
そして正義などというものが存在しないという事を。
だから自分達のすべき事をし、
それに躊躇いを抱いたりはしない。
その意味で自分たちが正義であると知っているからだ。

「君のシナリオ通りには進みませんよ、ミカエル・・・」

 


Chapter30へ続く