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黒の陽炎

著作 早坂由紀夫

obsessively-03-』


 朝起きると凪は、身体の不調に気付く。
 紅音と暮らしてた頃とは違い、
 カシスの気分で二人の寝る場所は変わったりする。
 その日は凪が二階で寝るという事になっていた。
(身体が妙に怠い……これ、風邪かな)
 気を張る事が少なくなった所為だろうか。
 仕方なく凪は欠席をする事にした。
 しばらく睡眠を取っていると凪は違和感に気付く。
 なんとなく誰かが布団に潜り込んでいる気がした。
「……誰?」
「私なの」
「カシスか……授業は?」
「終わったの。だから今から看病なの」
「え?」
 いきなり凪はパジャマの下を脱がされる。
 止めようとするが、クラクラする所為で無理だった。
「病人なのに……」
 男根を飲み込んでいくカシス。
 風邪を引いている所為なのか余計いやらしく感じられる。
 されるがままにしていると、急にドアの開く音がした。
「お〜い凪〜」
「し、紫齊ッ!?」
「どうした? 私が来ると意外?」
「そういうワケじゃ……っ」
 カシスの舌が裏筋の辺りを舐め上げる。
 凪は思わず声を漏らしそうになった。
「なんか顔色悪いよ」
「だっ、だいじょ……ぶ……」
「……?」
 不思議そうに紫齊が凪を見ている。
 下半身に与えられる快感の所為で、
 どうにも凪はまともに声が出せなかった。
「ん〜随分と辛そうだね」
「だ、大丈夫だって……あっ、ひぁっ……」
「ねえ、ホントに大丈夫なの?
 さっきから凄く変だけど」
 そんな紫齊の言葉に凪は黙ってしまう。
 というより下手に声を出すと、
 紫齊に状況がバレかねなかった。
「ご……ごめん、ちょっと辛いから、私もう寝るね」
「そっか。じゃあまた後で来るよ」
「うん、ありがと……」
 ドアの方に歩いていく紫齊。
 バタン、という音がして彼女は帰っていった。
 その後すぐにカシスは凪の男根に手を添えて扱く。
 耐えきれず凪は彼女の口の中に精を放った。
「んっ……い、くぅっ……」
 少ししてカシスは布団から顔を出す。
「凪、どうだった? 背徳的でいつもより気持ちよかった?」
「い……いい加減にしろよっ」
 ある程度凪は本気で怒ってみるが、
 カシスは全く平気な顔をしている。
 それどころか薄く微笑んですらいた。
「奴隷がそんな口を利いちゃ駄目なの」
 そんな事を言うと口移しで、
 少し口内に残している精液を飲ませようとしてくる。
 なんとかそれをかわすと凪はそっぽを向いた。
「もう平気そうだな、カシスは」
 凪はふと思い出した様に言う。
 あの二人の事を忘れたかの様な最近の言動。
 本当に忘れられたのならそれでもよかった。
 ただ、それは二人の別れを告げる時でもある。
 カシスは何も答えず、凪の背中に寄り添った。
「……カシス?」
「まだもう少しかかると思うの」
 その言葉にどんな想いが込められてるのか解らない。
 表情も解らなかった。
 しかし凪はなんとなく思う。
 こういった行動全てが、カシスにとって逃避なのだと。
 恋人という肩書きもその上で行われる事も、
 全てがどこか空想の中の出来事に思えた。
 その所為か二人の間の空気は恋人ととはどこか違う。
「凪が私の奴隷になるまでは、もう少しかかるの」
「は?」
「後一ヶ月もあれば、凪の心は完璧な女の子になってるの」
「お、お前って奴は……」
 同情してた事が馬鹿らしくなる。
 凪が振り向くと、そう思えるくらいの笑顔で
 カシスは凪に笑いかけていた。
 それだから凪はため息をつくしかない。
「これから凪がどうなるか楽しみなの」
「どうにもなりません」
 そう答える一方で不安もあった。
 確かに最近の凪の言動は徐々に女性に近づいている。
 自分で心配になるほどだった。
(俺は男、俺は男……意志をしっかり持て!
 ちゃんとモノもついてるし、胸だって無い!)
 そこで凪はさらなる不安に駆られる。
(そのほかは? 俺が男だという他の要因は?
 言葉遣いは最近女に慣れつつあるし、
 何か知らないけど喘ぎも板に付いてきてる。
 仕草も女らしくなってる。
 顔も男らしいっていう人は居ない。
 体型もどっちかというと……中途半端?)
「あああああぁっ」
「どうしたの、凪」
「お、俺は男だよ……な」
「女なの」
「そっか女か。そうよね……って違う!」
「……なんか虚しい努力なの」
「うぅ……こんな努力、したくない……」

                -了-

その4へ続く