Back

朱の翼

著作 早坂由紀夫

Chapter10
「理由。そして夜殺啓人と言う男」

6月19日(木) AM07:05 晴天
男子寮内・啓人の部屋

時は少し遡る。
夜殺啓人(やそぎけいと)の部屋は、閑散としていた。
相部屋だった人間は、すでに死人と化している。
啓人の思いのままに操られる、死人。
その啓人の部屋に、一人の訪問者があった。
ドアからではなく窓から、音もなく侵入する。
啓人は静かに、その相手を見定めていた。
「・・・芽依か」
ゆっくりと二段ベッドの柵に腰をかけるのは、
呉山芽依という人間の形をした人外のモノだった。
「凪さんに早く会いたいんだけど」
「そう焦るなよ。あいつだって、準備ってモノがあるだろ」
「・・・ふぅ、結局いつだって同じだと思うけどな」
「いいんだよ。物事には時期ってもんがある。
 それに、その程度の力じゃまだ奴には勝てないぜ」
啓人は枕に顔を埋めながら、かったるそうにそう言う。
だが、その目は常に狂気に満ちていた。
「イヴの事を言ってるの?」
「ああ。奴は死んだワケじゃない。
 必要とあらば、精神体だろうと
 俺達の前に立ちはだかるだろうよ」
精神体
元々天使や悪魔感において肉体と精神は、
別々のモノとして確立されている。
つまり精神体とは、精神だけの状態を指すのだ。
「そんな無防備な状態の奴でさえ、
 私には勝てないって言うの?」
「・・・ああ」
目を閉じて、何かを考えるようにそう呟く啓人。
その横に芽依が身体を滑り込ませた。
「じゃあ、あんたの力を分けてよ」
「そんな事言って、俺とヤりたいだけだろ?」
そう言うと、啓人は強引に芽依の唇を奪った。
そして掻き回すような舌使いで、芽依の意識を翻弄する。
「んっ・・・ふぅ」
数日前、啓人によって処女を奪われ、
悪魔として生まれ変わった芽依。
まだ女性として確立されていない部分も、
そんな変貌と共に急速な進化を辿っていた。
それ以来、彼女は性欲の虜となっていたのだ。
普段は啓人に反発するかのような口を叩くが、
行為の最中は至って素直に快楽をむさぼっている。
快楽を得る為ならどんな事さえも、やる事をいとわない。
啓人の愛撫にも自然と声が漏れる。
芽依は自分からスカートをめくり上げ、
欲求に従う様になっていた。
そう、まるで啓人の奴隷のように。
そして性交の後で、二人は倒れるようにベッドに寝転がる。
「・・・芽依。お前の望みはなんだっけ?」
「凪さんに、幸せになって貰いたいの。
 そう、愛依那の様にね」
禍々しく笑う芽依。
数週間前の彼女とは、別人のような変わり様だった。
「そうだったな・・・叶えてやるよ。
 俺も丁度、あいつの連れが気になってた所だ」
「凪さんじゃないの?」
それは、凪の事を知らない芽依には当然の疑問だった。
だが性別の事を知っている啓人には、
苦笑するしかないジョークに過ぎない。
「フッ・・・ククッ。笑い話にもならんぜ。
 とにかく、俺はあの紅音とかいう女が欲しい」
「紅音さんも悪魔にするの?」
「馬鹿言え。それじゃお前と同じで芸がねぇ。
 あれには、人間の女としてたっぷりと悦びを教えてやるさ」
そう言いながら口元が綻ぶのを隠せない啓人。
学園では決して見せる事のない、邪悪な微笑みだった。
「ふ〜ん。紅音さんを堕としたら、私にも貸してよ。
 あの子を虐めるのって、楽しそう」
「・・・その様子じゃ、随分遊んでるみたいだな」
「男を堕とすのは楽で良いよ〜。
 皆、考えてる事は大差ないんだから」
芽依は啓人の胸板を指でなぞりながら、
そんな事をさらっと言いのける。
啓人は正直、芽依がここまで変わるとは予想していなかった。
女としての快楽を知ったからと言って、
ここまで変わるものなのだろうか。
確かに悪魔になったというせいもある。
抑圧されていた欲望を、全て解放したのだから。
となると、芽依は元々陰鬱な願望を秘めていたと言う事になる。
啓人は芽依の秘部を、何の気なしに指でなぞる。
さっきの行為からまだ幾ばくもなしに、
その部分は淫らな糸を引いていた。
「・・・ちょっと、いきなり・・・何するのよ」
芽依はそう口で抗議しながらも、
全く抵抗する様子はない。
啓人のなすがままにされていた。
そのまま啓人は、身体をずらして陰部に舌を挿入する。
「あっ・・・ふぁ・・・ああっ」
どれだけ感度が良くなったのか、
芽依はそれだけで軽く達しそうになってしまった。
そんな芽依の姿を、啓人はどこか冷めた目で見据えていた。
(あの女は、こいつよりも淫乱にしてやる)
静かに勃起した性器を、芽依の中に埋める。
女性が悪魔になった事による利点は、
精液が力として吸収される為に
性交が本来の役割を果たさない事だった。
躊躇うことなく啓人は、その分身を出し入れさせる。
そんな行為は、朝がやってくるまで終わる事なく続いた。

6月19日(木) AM11:45 晴天
2−1教室内

俺はいつも通り、自分の教室で授業を受けていた。
相変わらず何もかもが遠く聞こえている。
俺にとって学校は、餌を探す格好の場所だった。
イヴが現れさえしなければ。
奴のせいで、迂闊に女を喰う事も出来なくなった。
まあ今はリリスとの闘いで負傷して、
この学園から気配は消えたようだが。
・・・奴を悪魔に堕とすというのも、
それはそれで悪くない考えだったが勝ち目が薄い。
何しろ奴の炎にかかれば、
どんな力の差も殆ど意味をなす事はないからな。
唯一可能性があったのがリリスの野郎だったが、
結局はあのザマだ。
あの炎に焼かれた悪魔は、
死にはしないものの、回復にかなりの時間を要する。
リリスの奴も今頃は永久回帰の地獄辺りで、
苛立ちながら羽根を休めているに違いない。
ベリアルもあんな状態でイヴと遭遇しなけりゃ、
間違いなく圧勝していたはずだ。
どいつもこいつも、終わってみればケアレスミスじゃねえか。
そんな馬鹿どもに任せていた俺が間違いだった。
確かにベリアルもリリスも、力だけとれば最強クラスだ。
だが、いかんせん頭が弱かったんだな。
それに状況が悪かった。
比べて俺はどうだ?
力だけでもイヴを圧倒できるし、
それ以前に肝心のイヴは不在だ。
今だったら、やりたい放題って事だろ。
もしもイヴが帰ってきたとしても、芽依が居る。
いざとなったらあいつを盾にして、
悠々と逃げ延びる事が出来るって事だ。
芽依の奴は凪にご執心の様だが、
まあそんな事はどうでもいい。
その内奴の性別を教えてやる事にしよう。
さぞ喜ぶ事だろうぜ・・・あいつにとって、
凪は女としての象徴なんだからな。
それが男だって解れば、また違う興味がわく事だろうよ。
どちらにしても、面白いショーになるだろう・・・。
「・・・聞いてるのか? 夜殺!」
どうやら、滑舌の悪い教師が俺に狙いを定めたらしい。
鬼の首を取ったような顔で、俺を睨みつける。
「反抗的な目つきだな。外に出てろっ」
「残念だな、あんたのこの世での最後の台詞がそれだ」
俺はそう小声で言うと、教師に微笑みかけた。
そして首筋から心臓へ至る毛細血管を探し、
威圧で幾つか重要なものを断ち切ってやる。
そうすると、教師は突然苦しんだようにうめきだした。
「どうしたんですかっ!? 先生!!」
俺はとりあえず、白々しくもそう言ってやった。
もう声も出ないであろう事は、重に承知していたが。
「・・・っか・・・げっけっ・・・」
良く解らない事を呟きながら、
教師は白目をむいて倒れてしまう。
その後すぐに救急車が呼ばれたが、
まもなく教師は息を引き取った。

6月19日(木) PM15:35 晴天
男子寮内・啓人の部屋

俺は一人の女を校舎裏に呼び出し、
誰もいないのを見計らって気絶させた。
そして、予定通りに俺の部屋へを運ぶ。
女はしばらくして、俺のベッドで目を覚ました。
「こ・・・あれ、ここ、どこ?」
「大丈夫? 君、気を失ってたぜ」
俺は適当な嘘をついて、その女に告げる。
まあすぐに立場を解らせてやっても良いのだが、
それじゃあ芸がない。
「あ・・・夜殺、先輩? ここって・・・」
「ここは俺の部屋。だって君の部屋知らないから」
「じゃあ私を運んできてくれたんですか?」
「そう。まあ大した労力じゃなかったけどな」
「あの・・・ありがとうございます」
少し伏し目がちにその子はそう答えた。
ただこいつの処女を奪って、力を得るだけじゃ面白くない。
・・・ふむ、面白い趣向を考えたぞ。
「礼なら、態度で示して欲しいな」
「え?」
言っている意味が良く理解できていない様子だ。
仕方なく俺は、その子を手早く押し倒した。
目の前の愛らしい顔が、すぐに恐怖に歪む。
「あっ、え・・・先輩っ?」
「解らねぇ奴だな。こういう事だよ」
キスから始めようなんて、今更そんな事はしない。
ただその子の服を力任せに破き、
下着を露出させてやった。
「いやっ、止めて!」
「・・・馬鹿だな。これから楽しくなるんじゃね〜か」
そう耳元で囁いているが、
軽いパニックを起こしているようで聞こえていない。
俺は首筋に、キスしてみた。
「やっ、嫌! 止めて下さいっ!」
そういうので、俺は愛撫するのを諦めた。
「言っとくが濡れてないのに入れると、
 すんげぇ痛いぞ・・・いいんだな?」
「・・・ど、どういう意味ですか?」
「お前、本物の馬鹿か?」
俺はそれ以上何も言わず、下着を全て払い取る。
そして、俺のモノを出すと何もなしにすぐに軽く挿入した。
「いやっ、やだっ・・・」
その叫び声は途中でふさがれた。
俺が、無理矢理にキスしたからだ。
この状態じゃもうどうしようもないので、
俺はそのまま彼女の処女膜ごと奥へと突き立てる。
「んぐっ・・・」
その子は涙を浮かべて、目を見開いた。
そしてあまりの痛さに気が遠くなったのか抵抗が無くなった。
しばらく俺は、無心に蠕動運動を続ける。
キスを止めても、その子は何も言わなかった。
ただ絶望した顔で、どこかに視点を彷徨わせる。
その表情だけでも俺にとっては充分だったが、
このまま意識を朦朧とさせておくのは面白くないな。
そこで俺は、彼女の陰部にある突起をひねってみた。
快感に直結している場所だけあって、
彼女の顔が歪んだ。
「・・・くっ・・・」
「なんだ、耐えてただけか」
「あなたを・・・訴えてやるから」
涙を流しながらにそう言う少女。
俺はその言葉に、笑いが漏れてしまった。
「何が・・・にが、おかしいのよっ」
何が可笑しいか?
そんなのは決まっている。
誰が訴えるというのだ。
もうすぐこの行為を咎める者は、
誰もいなくなると言うのに?
そう、男が悪魔になる大きな利点が一つある。
それは性交時に女性の感度を上げる体液の様なものを、
男根から精液と共に射精する事が出来るのだ。
あえて俺は快感に身を任せ、
その女の膣内に全てをぶちまける。
「う・・・ぐっ・・・」
ようやく終わったという安堵の表情と、
膣内射精されたという絶望の表情が、
僅かにその子からこぼれた。
それでも、顔は常に俺を睨みつけている。
「これで終わりじゃないぜ?」
今度ははだけた胸をもみしだく。
周りからゆっくりと、円を描くように。
「もう・・・止めてよぉ・・・」
その声を無視して、さらに太股へ片手をはわせる。
あまり強すぎずに優しく、淫らに。
そうしている内に、
案の定その子は何かを耐えるような顔になった。
苦痛ではなく、異常な、甘美なものを耐える顔に。
それがたまらなく可笑しい。
「はっ・・・あっ、止めて、止めてっ」
手を顔に当てて、羞恥の表情を隠そうとする。
だから俺は太股を撫でていた手を、
ふいに秘部へと滑り込ませた。
「あっ、ああっ! だめぇ・・・」
両手で俺の手をどかそうと抵抗するが、
その手に力は入っていない。
「止めてやろうか?」
「えっ?」
俺が要求をのんでその行為を止めようとすると、
瞬間その子はがっかりしたように表情を暗くする。
「・・・止めて欲しいんじゃ、無かったのか?」
「そ、そうよ。止めてよ・・・!」
「ふぅん」
俺は動き、はわせていた手をその子から退けた。
「うぅ・・・」
「どうした、何もしてないだろ?」
彼女の中で快感の波は収まらないらしく、
もじもじしながら僅かな快感を得ようとしていた。
「・・・何してるんだ?」
「な、何もっ・・・してない、わよ。
 身体が・・・勝手に・・・」
そう言いながら我慢できなくなったのか、
自分の手を秘部へと持っていった。
そしてそのまま、俺の前で自慰をしようとする。
俺は相部屋の死人に命じて、
その子の両手両足を押さえさせた。
相部屋の死人は、俺の言う事を忠実に体現して見せた。
死人。
それは名前の通り死んだ人間の事だ。
ただ、俺の場合はそれを操り人形のように、
意のままに動かす事が出来る。
「なっ、何よ」
「ククッ・・・面白い女。目の前で自慰しておきながら、
 まぁだそんな強気なのかよ」
「うっ・・・」
彼女はそれでも快感の波にあらがおうとする。
面白いので、俺は徹底的にいたぶる事にした。
「じゃあお前の手伝いをしてやるよ」
「え・・・?」
返事を待たずに、俺はその子の陰部に指を入れる。
そこには破瓜の後の朱が、まだ残っていた。
俺は構わずに、指を出し入れさせる。
「あぁ・・・ふぁ・・・んっ・・・!」
そんな嬌声をかみ殺そうと、
彼女は下唇を血が滲むほどに噛んだ。
だが俺は指でそこを開いたまま、突起へと舌をはわせる。
「んっ・・・んん、んはぁっ・・・」
どうやら抑えきれなくなったようだが、
その前からすでに彼女の股間は愛液でベタベタになっていた。
「あ、ああっ・・・あぁ」
彼女はどうやら、
そのままイカせてくれると思っているらしい。
まだまだ若いな・・・。
俺は彼女の声が一際高くなるのを見計らって、
一切の愛撫を中止した。
「はぁ・・・はぁ・・・」
彼女の顔が、やるせないものへと変わっていく。
だが俺の顔を睨むばかりで、何かを言おうとはしなかった。
しばらくしたらまた俺は愛撫を始め、
彼女がイク寸前で止めてしまう。
かなり強情なようだが、それでも顔は泣きそうになっていた。
「・・・てよ」
ふいに彼女のか細い声が聞こえる。
俺はあえて、何も聞こえない振りをした。
「続けて・・・」
「それが、人にものを頼む態度か?」
「・・・ぐっ」
俺の方を睨みながらも、これ以上続く責め苦に
耐えられそうにないと思ったのだろう。
ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「おね、がいします・・・止めないで、下さい」
「まあ・・・今日の所は、それでいいか」
そう、今日の所は。
俺はモノを引き抜いて相部屋の死人を退かすと、
そのままじらすようにゆっくりと彼女へと挿入した。
「ああぁ・・・あはぁっ・・・」
緩急をつけ、時に角度を変えながら蠕動する。
その度に彼女の身体がびくっと反り返った。
「うあぁあ・・・これ、が・・・欲しかったのぉ・・・」
彼女は性の欲求に従い、
快楽をむさぼるように腰を振り始めた。
その動きには、何の迷いもない。
「ああぁああっ・・・!」
そしてあっという間に、彼女は一度目の絶頂に達した。
だが、俺はそれでも休む事を許さない。
「はぁ・・・あ、はぅ・・・あぁ、ん・・・」
彼女はしたたり落ちた涎を気にする余裕もなく、
ただ狂ったように微笑むばかりだった。
そうやって俺は、何度も何度も彼女を犯した。
そんな腐った感覚が、俺にはとても快感だった。

6月19日(木) PM17:45 晴天
男子寮内・啓人の部屋

「・・・・・・」
何度かの性交の後、ぐったりとした彼女が横たわる。
そして俺の方をみて、恥ずかしそうに反対側を向いた。
さっきまで、あんなに乱れていたとは思えない。
「あんたは・・・最低の、酷い奴よ」
「・・・ああ、そうだな」
彼女の肩が震えていた。
泣いているのだろうか?
だが、そんな事はもうどうでも良かった。
彼女に生きる道は、すでに残されていないのだから。
「・・・お前に望みは、何かあるか?」
「のぞ、み?」
「そう。叶えたい事があったら言ってみな」
そういうと、彼女の顔が少し柔らかいモノになる。
「私・・・イギリスに行ってみたい」
「イギリスに、ねぇ」
まあ何かになりたいと言われるよりは、
ずっと叶えやすい願い事だ。
「じゃあ、それをいつか叶えてあげよう」
「え?」
ただお前が生きてそれを叶える事は、もう無い。
俺は彼女に優しくキスをした。
そして唾液に紛れて、死人を作る為の体液を流し込む。
なるべく抵抗されないようにと思ったが、反応は意外だった。
それに答えるかのように、彼女は目を瞑ったのだ。
・・・なんて愚かなんだ、馬鹿にも程がある。
性欲が収まっていないのか?
それにしては彼女は、不思議な表情をしている。
心の何処かで、何かが崩れる音がした。

――――もう二度と人を愛したりなどしないと、決めたんだ。

俺が女に未練など抱くはずがない。
「ん・・・ぐっ」
その子は、俺の手を強く握りしめる。
そしてじっと、その苦痛に耐え続けた。
何をしたいんだ俺は・・・別に、
死人にする必要なんて無いだろ。
彼女の苦痛に歪んだ顔を見ていると、そんな風に少し思った。
だから俺は、彼女を死人にするのは止めてしまう。
それが悪魔として馬鹿げた事なのは解っていたが、
なぜかこの女を殺す事がとても不快に思えた。
「・・・ごほっ・・・な、なんだったの?」
「気紛れだ。お前を殺すのは止めた」
「こ、殺・・・ど、どういう意味っ!?」
彼女はなんとか人間のままでいられたようだ。
体液の分泌量が、致死量に達していなかったのだろう。
ならば、しばらくは人として俺に協力して貰おう。
「お前、名前は?」
「私は・・・都辺浦唯霞(とべうらいすみ)」
「ふっ、すっげぇ名前」
「・・・馬鹿にしないで。気に入ってるの、この名前」
度胸もあるし根性もある。
まあそんなものに大した意味はないが、
こいつが側にいても構わないと思った。
「今日からお前は俺の物だ。これから俺に協力しろ」
「どういう、事?」
どうやら今日みたいな事を、
毎回強要される物だと思っているようだ。
唯霞は軽く俺に対して身構えた。
「いいか・・・そうだな。女を連れてくるんだ。
 俺の元に、一人でも多く」
「絶対に、嫌よ」
どうやら俺の事を、ただのレイプ魔か
何かだと思っているようだ。
「いいか? 今みたいにしてキスして女を殺すのが、
 俺の本来の姿なんだ。セックスはおまけだぞ」
「本来の姿・・・って、どういう事?」
「こういう事だよ」
丁度よく相部屋の死人が立っているので、
その心臓にナイフを突き立てる。
そのまま死人は、衝撃で床に転がった。
「きゃっ・・・え?」
不思議がるのも当然だ。
死人からは血も出ないし、断末魔も聞こえはしない。
そしてまた、何事もなかったように佇んでいる。
「ど、どういう事なのっ!?」
「だから、こういうのを増やすんだよ。
 その為に、女を連れて来いって言ってるんだ」
「そ、そんな・・・でも、ならなんで女の子なの?」
意外と細かい事に気がつく女だ。
「簡単だ。処女血や愛液は、俺の力を増幅させる」
「・・・・・・」
信じられない、と言った目つきで俺を見る。
仕方がないので俺は彼女に、
解りやすい事実を教える事にした。
彼女を抱きかかえ、ゆっくりと宙へと浮き上がる。
そしてそのまま重力を反転させて逆さまになり、
天井に足をつける。
「・・・こ、こ、これって、夢?」
「現実。お前が処女失ったのも、現実」
「っ・・・!」
逆さまの状態で、俺は唯霞に平手を喰らった。
その拍子に反転させてた重力が解き放たれ、
二人とも床に頭をぶつける。
なんだか馬鹿らしくなってきたな・・・。
「っつ・・・解ったろ? これは、現実だ」
「じゃ、じゃあ・・・条件があるわ」
「は?」
この期に及んで、まだそんな事が言えるとは・・・。
唯霞め、良い度胸してるぜ。
「他の女の子は助けてあげて。
 私が・・・その、相手するから」
「へぇ。俺は別に構わないけどな」
「・・・絶対に、他の子に手は出さないで」
「それじゃあ・・・いや、解った」
別に口約束なんて、いくらでもしてやりゃあいい。
守ろうと守るまいと、そんなのは俺の知った事じゃない。
何しろ処女でなくなったこいつと、
これ以上セックスする必要はないんだ。
それに、処女血のもたらす力は半端じゃないからな。
吸収するほどに俺の力は強くなっていく。
・・・だがなんだっていうんだ?
この、芽依や他の女の時とは違う感情は。
唯霞に・・・何を期待してるんだ? 俺は・・・。
「そういや、お前のクラスはどこだ?」
「私・・・は1−3だけど」
1−3っていえば、紅音と凪のいるクラスじゃねぇか!
どうやら、俺の読みは当たっていたみたいだな・・・。
こいつは人としての方が、役に立つ。
「いいか。ならお前には違う仕事を頼む」
「・・・違う、仕事?」
「学校では俺と付き合っているフリをしろ。
 で、凪と紅音に接近するんだ」
「凪さん・・・? まさか、あの人を狙ってるの?」
こいつに凪の正体を教えても良いが、
それじゃあ接近する時に問題がありそうだ。
・・・別に教える必要はないか。
女同士なら、とけ込むのも早いだろう。
「紅音と凪はまた別件でな。
 俺達の邪魔になる可能性がある」
そう。紅音と凪には、何か特別な力がある気がする。
直感に過ぎないが、このまま放っておいてはまずいような・・・
どこかパンドラの筺のような危うさがある。
特に紅音の方だ。
奴は何かがおかしい。
「とにかく。そうやって、俺があの二人と話しても
 おかしくない状況を作るんだ。いいな?」
「・・・嫌だけど・・・やるしかないんでしょ」
「ああ。断ったら殺す」
もうさっきのような感情の迷いはなかった。
この女が役に立つ以上、俺の言う事には絶対服従させる。

 

そして、しばらくの時が流れて――――――

夜殺と言う男が、高天原凪の前に現れる。

Chapter11「絶望の学園遊戯(T)」に続く

おまけ・「彼女とその行動に於ける考察」